第132話 カインと手がかり。
カルモが指差したのは小さな魔道具から壁に向かって映された貴族の密談風景。まさか調べるまでもなく精霊封印の犯人がわかるなんて、と驚愕がカインを襲う。だがそれ以上に心をえぐる衝撃は。
「…カルモは、見ていたのか?」
自分の親…人間と同じ血縁という概念が成り立つかはわからないがそのような存在、が封印されるところを恐らくは庇われ隠されどこかから垣間見たのだろうか。カルモの心の傷を思うとカインは苦しくなった。
だが話の急転換についていけないマリナ夫妻は愕然と口を開く。
「殿下、このドラゴンはいつから…いや、精霊王の雛がなぜここに」
「あーそれはだな、少年…彼と友だからだ」
覚えのある当惑に目をそらしつつカインが答えると頭痛が痛いとでも言いそうな視線が刺さるが、どうしようもないので無言でうなずくしかない。
「………」
「チュ、主やからの」
「………」
「ぎゃお、ともだち!」
「…そおですか」
若干遠い目になった一同(カルモ以外)だが、気を取り直し改めて映像をよく見る事にする。
「人間の誰かが精霊を封印したらしい」
彼の手紙にもあった内容を説明すると二人とも眉間にシワを寄せる。二人の間に子はいないそうだがカインを見守っていたせいか精霊王の親子に感情移入して怒りを覚えているようだ。
「精霊を封印したのはこの貴族で間違いないのですか?」
マリナの旦那がカルモに確認する。
「ぎゃう…」
カルモは怒っていると言うより悲しんでいるように見えた。怒りや悔恨は一回りして悲哀に変わったのかもしれない。雛とはいえドラゴンとしての寿命は果てしなく永い。幼く見えるがカルモは既に百年は生きていた。
「ぎゅあ、このにんげん、ままをふういん…みた」
いつもの元気をひそめて小さな声で告げたカルモは精霊としての制約もあるのかそれ以上を語らない。親しくしても精霊は人間と同じではない。人間に語ってはならない部分はあるのだった。
「…しかし、先代宰相のキローゲか」
「どこから足掛かりをつけましょうかね?」
先代国王の右腕と言われた先代宰相のキローゲは現国王の派閥に入っておらず表向き中立を保っているため、こちらからは
だがカインには思い浮かべられる人物が一人あった。
「…少し心当たりがある」
「殿下が?…あの、男娼ですか。まさかとは思いますが」
マリナは一瞬の思案した後思い出したのかわずかに眉を寄せる。主に隙を作ってはならないと苦言を呈したくなったのだろうがそれは完全な杞憂である。
「無論、触れることなど無いさ」
心に決めた人は彼一人。想いに揺らぎなど一切無かった。
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