第133話 カインと男娼の店。
その男娼はとても若かった。無邪気な笑顔が愛らしく、幼いと言ってもいいほどで、よく見れば他のものより耳が尖って長い美童であった。今考えると
王族や貴族の話し相手、あるいは…体を静める為の。
カインが出会ったのは母を
現国王の御代になっていわれの無い強制就労は無くなった筈だが、男娼という職業は無くなっていない。自主的なものや刑罰による就労はあるし、それを求めるものもまたいるからだ。
この国、いやこの世界では男女の数に偏りがある。幸いにも迫害などはないが女性が少ないがゆえに男性同士のカップルが多くなっているのだ。
少年からの手紙を読み、これも人類滅亡の一端なのかと納得がいった。
人口の減り始めた世界で精霊解放は福音となる。男女のカップルが増えれば人口も戻ってくるだろう。だが、愛情がそれで消えることはない。
男性同士のカップルが別れるということは無いと思う。
今までだって女性が皆無であったわけではないし、事実カイン自身が彼を好きなままだからだ。
あの男娼が今も同じ場所で働いているかは賭けのようなものかと思ったが、マリナの調べによると今も男娼を続けているらしい。
カインはかつて何度も訪れた店のドアを約十年ぶりに叩いた。
「はぁい、いらっしゃいませ…」
「…久しぶり」
「あ…カイン様?」
「少しいいか?」
「はい、もちろん!どうぞ、中へ」
あの頃と同じ笑顔で招じ入れられた平屋の屋敷内は昔と殆ど変わりない。
飴色の壁も揃えられた調度品も、男娼自身も…いっそ不自然なほど変化がなかった。耳長族ゆえの成長の遅さもあろうけれど、変わったのは身長と髪の長さくらいのものに見える。
「変わらないな…」
「ええ、でも他の子はみんな出ていってここに昔からいるのはもうわたくし一人なのです」
「…そうか」
「一応これでもここの主人になったのですよ?」
「主人に?チャトゥニがここを取り仕切っているのか?」
「ええ」
何もかもが昔のままではないらしい。
男娼の青年チャトゥニがクスリと笑って問いかけてきてはっとした。
「それで、今日はいかがなさいますか?あいにく空いているのはわたくしくらいですが…」
色をのせた艶やかな目を向けられて内心でため息をつく。そんなつもりなどカインには小指の先程も無いのだ。
「悪いが、話だけしたい」
「…………左様ですか。ではあちらのお部屋でうかがいましょう」
心なし暗い顔を見せた青年が奥に長く続く続く廊下に並んだ部屋の一室を示す。奥ではなく手前の部屋は事を致さない客のための部屋だった。
「お飲み物はお茶でよろしいですか?」
「…止めておこうか」
「…………左様ですか」
多少慇懃無礼になってしまったかもしれないが、そうせずにはいられなかった。青年の気持ちを知っていたからこそ。無駄に期待させるのは罪だと思い、カインは敢えてそっけない口調になる。
「先代宰相のキローゲがここに来ていたことは覚えているか?」
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