第80話 旅路は地元愛に満ち。

 早めに街を出発して、自警団の見回りで足も鍛えられたしデリカネーヤさんのお陰で体力もついたと思ってたけど。

「ぜー…はー…」

「………少し休憩にしようか」

「……………はひ…」

 異世界の舗装なし道路なめてたわー…。

 馬車は荷馬車がほとんどで揺れないやつは料金が高いから人が乗るのは贅沢…なんだけど、多少無理しても馬車にすればいや馬を買えば………。

 道っぱたに座りナンオウの川で汲んだ水を飲んで休みながらついため息をこぼしてしまう。

 いきなりお金にものを言わせた旅ってのも嫌だなって思ったのも僕なら馬に乗れないのも僕だけだ。

 馬車を使うより景色はゆっくり見られると思って徒歩を選んだのも僕だ。

 なのに愚痴ばっかりって…自分にがっかりしちゃうよー。


「君はこんな風に歩いて旅するのは初めてなんだろ?あまり気にしすぎなくていいんだよ」

「う…でも、」

 カインさんはもっと早く歩けるだろうに僕のペースに合わせてくれて、更に気を遣わせてしまって申し訳なくなる。

 でもカインさんはうつむいた僕の頭を優しく撫でて笑った。

「それに、君がもっとこの世界を知ろうとしていることが嬉しいよ」

「カインさん…」

「時間はあるんだ。のんびり行こう」

「…!はいっ」


 その後も休憩をはさみながら進むこと数時間で関所に到着する。

 王都までの旅路で通る関所は五つ、立ち寄る予定の街は三つだ。

 最初の関所を越えると山に入るのでここの街には寄らず次の関所を越えてその次にある街に行く予定である。

 山の街はナンオウとあまり違わないし村の方が近いらしい。

 行商は通るけど馬車は途中までしか行けないし流通は活発じゃないみたいだ。

「こんにちは。ヤマに用かい?」

「やあ、残念ながら通過するだけだよ」

「そうか。いや村でもちょっとしたもの売ってるから良かったら見てってくれないか?」

「………まあ観光だから、見ていくよ」

「ありがとうよ!」

 関所の門番さんは地元の売り込みを欠かさずやってるんだろうな。

 慣れた様子で軽く言ってるけど目はとても熱心だった。

 地元愛だなー。


 奥にあるヤマの街に行くとかなり遠回りになるけど山の峰に沿ってある小さな村は通り道に近いので寄っていくことになった。

「いらはいいらはい、ヤマイチゴのジャムはいらんかねー」

「旅の必需品、火種の炭はどうだい?長持ちするよー」

 旅人が買うことを考えて長期保存が効くものが並んでいた。

 素焼きの壺に皮の蓋の木の実のジャムを二種類とスパイスを買って村を後にする。

 ちょっとだけ味見させてもらったら素朴な手作りだけどカシスっぽい小さな実の酸味が癖になりそうな味だった。

「気に入った?」

「はい!」

「帰りにもまた寄ろうか」

「是非!」


 細い木の柱と粗末な布屋根の簡易な店を縫って歩き僕らは山間を進んでいった。

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