第2話:スキルアップ

「商品はしっかり前に出して並べて効率よく。道具を活用してテキパキと動け。歩くのではなく小走り」

店長から言われる台詞である。まあよくある話ではある。

商品が無くなれば補充、無くなれば補充の繰り返し。私は最初は何をすればいいのか分からないのでとにかく商品をひたすらメンテしたのだ。

欠品はさせたくない、なぜならお客様が商品を買えず帰ってしまうからだ。しかしどうも思うようにいかないのだ。

仕事量に対して人時が割に合わない。この作業は本当に終わるのだろうか?私は冷蔵什器にあるお酒を補充していた。5月頃はGWということもありとにかくお酒が飛ぶように売れる。

補充してもきりがない、あっという間に定時になるが勤怠打刻だけして作業に戻る日々が続く。俗に言うサービス残業というやつだ。

先輩社員も残って発注業務を行っている。私は引き続きお酒を補充し終わったら次は500mlのペットボトル飲料水や缶飲料などの補充に入る。その間店長は何も言わない。残って当たり前という風習だ。

私は正直「残業」というものが嫌いだった。その中でも特に「サービス残業」が嫌いだ。もちろん時間以内に終わらないのが悪いのだが、明らかに終わらない計算だ。売り上げに対して人時が足りていないからだ。

しかしそれを分かって尚更新入社員をこき使おうとしていることが気に入らないからだ。これは負の連鎖になり兼ねない。

私は思ったのだ。この店長のやり方は絶対に真似をしないぞ、っと。

私はとりあえず作業が終わったので帰宅しようと申し出た。すると店長は

「大島、お前先輩社員がまだ残って発注業務行ってるのにもう帰るのか?」と嫌そうな顔をして私に怒鳴った。

私は「定時より1時間ももう遅れてるんですが」と言うと呆れた顔で怒鳴られた。ゆとりだと思われ、毎日のように私は叱られた。

私に非が無いわけではないが、やはり気に入らない。とりあえず私は考えた。怒られてもいい、精神的にはきついが仕事を早く覚えていこう。言われないぐらいまでマスターすればいいんだと考えたのだ。

そこで休日なども売り場を見に行った。スキルアップも大事だし、アピールして自分も責任者に早くなれたらなと思ったからだ。

すると先輩社員と店長が店にいた。先輩社員はペットフードコーナーでメンテナンスを行っていた。

「お疲れ様です。今日は売り場を見に来ました。早く慣れてお客様に商品の場所を案内できるようにしようと思いました」と私は言うと、先輩社員がにこやかに「大島さん、ただ商品を見に来るだけじゃ商品の場所は覚えれないよ。こうやって一つ一つ商品を触ってメンテナンスを毎日することで一つ一つ覚えることが出来るんだよ」と丁寧に教えてくれた。

確かにカテゴリーは覚えれても商品一つ一つは無理だなと考えた。「私もメンテナンス手伝いますよ」と言うと、「大島さん、今日は休みなんだからゆっくり買い物でもしなよ。それと店長今日配コーナー(チルドグロサリー)を補充していると思うから挨拶してきなよ」と手は動かしながら私に言ったのだ。

確かにそうだな、まずはしっかりと挨拶をしよう。そう考えたのだ。


店長は丁度日配コーナーで納豆を補充していた。手際よくだ。店長は忙しくて中々私の相手はしてくれない。こういった技術を休日を使って早く取り入れていきたいと思った。

店長はその日は気分が良かったのかにこやかに「お疲れ様です。大島さん今日は休日に店舗の様子を見に来たのかい?」と補充しながらそう伝えた。

「お疲れ様です。店長から中々教えてもらえる機会がないので、自ら時間を作ってきました。少しでもいいので何か教えてください」と言うと、嬉しげだった。まずはどんなに嫌な相手であっても必ずいいところはあるんだと考えることで仕事の嫌悪感を克服しようと考えた。

その日は色々と作業を教えてもらい、コーヒーでも飲もうかと誘われながら喫煙室へ入った。先輩社員も煙草を吸う。二人とも中々なヘビースモーカーだ。

「大島さんは煙草吸わないのかい?吸いそうな感じするが」と口から煙を吐きながら店長は言う。

「私は煙草吸わないですよ。まあ周りからはよく吸っていそうな雰囲気だと言われますけどね」と苦笑しながら言った。先輩社員も鼻から煙を出しながら苦笑いした。

「店舗忙しいから大島さんへの負担も大きいけど、その分早く成長できるから頑張ってくれよ。期待しているからな」と店長は目にしわを寄せながらにこやかに笑い、煙草の火を青いバケツに汲んだ水で消した。

私はパートナーさんに挨拶をし、必要な生活用品を買って帰り、家でメモ帳をまとめた。まずは誰よりも早く仕事を熟せるようになりたい。

サービス残業や休日出勤ではなく、スキルアップなんだとそう考えた。

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