私の正体はラグナシアです……謎の少女の告白





『ますこっとがーる 腹黒リンネちゃん』前回までは……





「やっほー、みんなの女神様リンネちゃんだよ。祝賀会は楽しんでる? ライブをするのは毎度恒例だから良いんだけど、今回の衣装のコンセプトは何なの?! こんな破廉恥ハレンチなの着れるわけないでしょ! オーバーニーソだし、スカートは短いし、露出は多いし、何より胸元が強調されてるし……なにこれ? ふざけてるの? 私が胸小さいこと気にしてるのに、こんな衣装を用意するなんて許せない! あのズラ野郎覚えてなさい。近いうちに恥辱ちじょくを味合わせてやるんだから! それにサポメンの『マスダくん、シェーン、バリーさん、オオガ、マッちゃん、イナバさん』も、ニヤニヤしてないで私と一緒に異議申し立てしなさいよ! 私はこんなの売りにしてないの! 美しいというか、うるわしいというか……もっとこう、そういうのあるでしょ! そっちが売りなのよ、全く……まぁ私の出番を待ちわびてるファンの為にも、仕方なく着るけど今回だけなんだからね! ほら、いつもの掛け声行くわよ」


生一丁なまいっちょう!』



「「「「「「喜んで!」」」」」」





「という訳で、第1990613話『やや乱れてる太陽の小町ちゃんマジ天使』レッツスタート!」――









――まばゆいスポットライトがステージ上の『リンネ』を照らし出す。


 その姿は四階の端からでも辛うじて見える。


ラグナシアに無理を言って席を確保してもらったのだから文句は言うまい。


 第一にデズモンドがきちんと予約をしていれば良かったのだ。


 そもそもデズモンドはミッテルロージェに『奇蹟者』として座る権利があるのだが「お前らと一緒に観たい」などと言い出し、くじ引きをして負けたデズモンドに適当な席の予約を任せたのに、当日になって「予約? あぁ、例の時代遅れのすることか」などと訳のわからないことを抜かすのが悪いのだ。


 まぁ私としても、ユウとデズモンドと共に過ごせるのは悪くはないのだが……デズモンドの態度が気に食わん。


 私の教え子の晴れ舞台だというのにアイツが予約をおこたったせいで見逃しかけたのだぞ。少しは反省してほしいと思うが、どうせ言うだけ無駄だ。ふて腐れるのはこれぐらいにしておこう。


 隣のユウとデズモンドが馬鹿に静かだと思ったら、二人はを使いステージ上のラグナシア……もとい『リンネ』を食い入るように観ている。


 デズモンドと来たら鼻血を垂らしていやがる……一体コイツは何を観ているんだ?


 私もリンネに目をめる。


ステージ上で愛想を振り撒いている彼女は、腰まで伸びた銀色の髪を揺らし、可愛らしいレースとフリルが満載のワンピース風の衣装を着ており、一見するとラグナシア本人だと解らない。


 ただでさえスタイル抜群で目鼻立ちがハッキリしていて美しいラグナシアなのだが、ウィッグとカラーコンタクトを着用して薄化粧をするだけで、ここまで印象が変わるとは恐ろしいものだ。


 実際『ネレイス』の美貌など足下にも及ばないだろう。


 だからこそ、あの様な『不祥事じけん』に巻き込まれたのだから皮肉としか言いようがない。


 そんなラグナシアが今や教会都市の女神と呼ばれ、こうして聖域内のオペラハウスで神々と大勢の市民を前にライブ活動をしているのだから感慨かんがい深い。



 今回のオープニングは『閉ざした世界の嘘偽り』だ。


 この楽曲の作詞にユウとデズモンドと私がたずさわったことを知る者は少ないだろう。


 その作業は案外難しく三人して悪戦苦闘したが、今となっては良い思い出だ。


 恥ずかしながら私も、誰も居ない時に屋上で口ずさむ程度には、お気に入りである。




《雨間を待っている

 飲み込まれた太陽を探して

 声を曇らし 止まないね

 なんて言う


 そんな大人びた話し方に

 見捨てられたような気がして

 空知らぬ雨に 舟唄を浮かべる


 耳馴れた 浮かれ拍子が

 今となっては懐かしいよ


 冬空の如く 引き裂かれた月

 瞳を閉ざしてしまっても

 心の奥の誓約うけいは消えない


 ノスタルジックに血で血を洗う

 白生地に影を潜める黄昏たそがれ


 どうしようもない崩壊速度


 架け橋となった英雄はどこに?》




 オペラハウス全体にリンネの透き通るような美しい声が響く。官能的なダンスが情緒をそそる。


 詰め掛けた観客はリンネのステージに対する期待でボルテージは既に最高潮。


 それはミッテルロージェに堂々と腰かけている、『隻眼せきがんオーディン』『色白ヘイムダル』や『半裸ゼウス』『根暗ハデス』等の神々、『端役はやくペルセウス』『変態ハゲネ』等の英雄と称えられる者達、『教皇ロマノフ』や『王族ギュルヴィ』達も例外ではない。


 特に赤髭あかひげたくわえた筋肉モリモリマッチョの大男『トール』に至っては、赤髪せきはつを振り乱し、立ち上がり、雷のようにリンネの名を喝采かっさいしている。


 トールの真後ろの席の、英雄『ヘグニ』は前が見えず、本気で迷惑らしく今にもさやから剣を引き抜きそうだ。あんなを良くも持ち込めたものだ。まぁクロークに預ける訳にもいかないだろうが……


『ノルン三姉妹』は、そんな苛立つ英雄の姿を見て、手を叩いて笑っている。文字通り『かしましい』と思う。


 琥珀目こはくめの『エレクトラ姫』がヘグニをなだめて、上品に微笑む。


 ミッテルロージェが『カオス』な状況になっているなどとつゆ知らず、リンネは観客に手を振る。


 いくら『日曜日』だからと言って、ここまで羽目を外すのはどうかと思うぞ……




《リンネのライブジムにようこそ!》




 それを受けオペラハウスが揺れる程のスタンディングオベーションが起こった。


 ステージ上のリンネは、さも当然という表情で、灰色の瞳でバンドメンバーに合図を送る。


 それを皮切りに、軽快なドラムビートが鳴り響く。


 待ちわびていたかのようにエレキギターとエレキベースが弦を掻き鳴らす。


ショウの始まりだ。



《ねぇお願い

 イタズラで世界を滅ぼさないで


 私は死ぬべき運命さだめだとしても

 貴方に全ての贈り物を捧ぐから


 全てが偽りだとしても

 生きることを諦めない


 ねぇお願い

 信じる心を無くさないで


 貴方の望みが破滅だとしても

 私を犠牲にしていいから


 全てが無意味だとしても

 泡沫うたかたの夢と疑わない


 私と貴方は

 住む世界が余りにも違う


 どんなに手を伸ばそうと

 どんなに恋い焦がれようと


 過ぎ去った時の流れみたいに

 貴方は私を見ようとしない


 私は希望のぞみ

 この世に存在するものは

 神無くしては理解もされない


 神の為に尊い命を犠牲にしなさい

 死んでこそ花実が咲く


 義の為に尊い心を犠牲にしなさい

 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある


 だから私のこと

 災厄さいやくの予兆なんて言わないで


 振り向いてくれるなら


 その為なら何だってします


 だって貴方は


 私の神様なんだから》




 リンネとサポートメンバーは絶好調のようだ。観客の狂喜する声がオペラハウス内に満ち溢れ、狂気すら感じる。


 神を敬い、贖う、奉る……そんなフレーズがエッジを立ててリンネの口から飛び出していく。


 短いスカートからは、ダンスを踊る度に太ももが、ほんの少し露になり非常に悩ましい。というかスカートの中が見えてしまわないか心配で仕方がない。


 どんな意図があって、あのような衣装なのか疑問だが、私もそこにしか目が行かないのであった。



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