奇蹟の犠牲者

渡烏

“Gladiators draw their swords”

神ゼウス大勝利! 希望の未来へレディーゴー!





あいつの言う通りになった。





この世界に残っているのは絶望の中に死んでいった者達の灰燼だけだろう。


それすらも冷たく、手の平から零れ落ちる。


あぁ……なんということをしてしまったのか。


心の中で何度繰り返したことか解らない。



残り火も消えた、灰にまみれた荒野を宛もなく歩いた。歩くことしかできなかった。



やがて辺りに散らばる子供達が見えた。空に手を伸ばしていたり口を開いていたり縮こまったりしている様々な子供達が……


唯一共通している事と言えば、一様に全身が焼け焦げ炭化してしているという事だけ。


あの子達の断末魔が今も胸を強く締め付けている。



居た堪れなくなり目を閉じ、歯を食いしばってしまう。



こんなことなら始めから……



何かの奇蹟を願いながら



世界と灰燼を



もう一度焼き払った――














I will always俺は常に be with you.お前達とある














――神の怒りのような荒々しい雷鳴が轟き、意識が徐々に覚醒する。


枕は肌触りが良く、いつもより柔らかくて寝心地がいい。


だが敷き布団は、俺の体を拒絶するかの如く固い。まるで岩の上に寝ているかのようだ。


微睡みの誘惑を絶ち切り、僅かに瞼を開けると見慣れた部屋の天井ではなく青空一杯の星が見える。


異常事態ということだけは解るが頭の中で霧が発生したかのようで思考が上手く回らない。



今まで、なぜか知らないが寝ていたのだから当たり前か。



起床時の習慣で時間を確認しようと首を傾けるが、そこには『何もない』


時計は愚か、自室の壁もない。


雑草すら存在しない、黄土色の不毛の土地が広がっているのみ。



「なるほど、うまく言えんが何かおかしい」



余りにも不可解な状況に、つい心の声を呟いてしまう。



……それはそうと頭が馬鹿に痛い。



「ユウさん、気がつきましたか?」



少女特有の澄んだ声のする方に顔を向けると、寝ている俺が枕元から覗き込まれる形になった。



「ラグナシア……か?」



状況を理解できずにいる俺を見つめ、黒髪を肩まで伸ばした乙女は向日葵のように微笑んでいる。



「どうして俺の部屋に? というか俺の部屋は爆破でもされたのか?」



近くで聞き覚えのある喧騒がするが、それどころではない。いち早く状況を把握しなければ……



「ユウさんの部屋? 爆破?」



俺の質問に彼女は首を傾げてしまう。



「だって俺は寝てた訳で、ここ俺の……いや、まさかな」



先程とは逆の方向を確認してみると、眼前にはラグナシアのワイシャツ、斜め上には控えめな膨らみ……


念のために枕の触感を確認すると、俺が履いているスラックスと同じ材質の手触りと人工的な弾力感……



晴天と荒野、いつもより柔らかい枕、岩のように固い敷き布団、俺を覗き込むラグナシア……



謎は全て解けた!



ラグナシアの膝枕です。

どうもありがとうございました。



「なに達観したような顔してるのです? 頭を打って、おかしくなってしまいました? 一応まだ『教習中』ですからね」



「教習中……」



その一言により、次第に記憶が蘇ってきた。


確か『教会都市』の遥か遠方で行われる大蛇オロチ討伐戦の教習に来たのだ。



「大丈夫、薄っすら思い出してきたよ。けど俺は何で荒野の真っ只中で寝ているんだ? しかも頭が、とてつもなく痛いんですけど」



頭の迷宮に迷い混んでいる謎に対して、疑問符だらけの頭から必死に絞り出した質問を口にしてみた。


大蛇討伐戦の最中に『何か』があり、気を失ったのは確かなのだが頭痛の発端がどうしても思い出せない。



「ユウさんったら本当に薄情なのですね。『エイハブ様』達が身を呈して私たちを護ってくださったことを覚えていないのですか?」



美少女名探偵があっさり解明してくれた。



「まじか」



「はい、マジも大マジ。事実です」



イタズラっ子のような笑顔で彼女はそう言ってのける。



そんな純真無垢な彼女の優しい眼差しを見ていると、教会都市の大衆から女神と呼ばれる所以も納得がいくのであった。




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