何かが違う

杜乃日熊

第1話 主従関係

「お手」



「ワン!」



「おかわり」



「ワン!」



「伏せ」



「ワン!」



「ゴロン!」



「ワンワン!」



「チン×2カイ×2」



「わふ〜ん」






 公園の真ん中に、一匹の犬と一人の男がいた。

 一通りの芸を指示して、お座りをしている犬は目の前で仰向けに倒れている男を見つめる。

 彼の顔はとても満足そうだ。少々憎ったらしい面がまえではあるが。


「よし。今日もキレがいいじゃねぇか、太郎。この調子で来月の大会に挑むぞ!」


 太郎、と呼ばれた男は起き上がって目を輝かせる。ハァハァ、と舌を出して呼吸する様は犬のようである。


「ワンワン!ハラガヘッタゾ、ポチ!ワン!」


「馬鹿野郎!人語じゃなくて常に犬語を話せって言ったろうが!気ぃ抜いてると晩飯も抜いちまうぞ!」


「くぅ〜ん……」


 犬のポチはフン、と鼻を鳴らして身を翻し、そのまま歩き出す。

 太郎はポチの後を追う。勿論、四つん這いの状態で。彼の歩みは遅いもので、いつになってもポチには追いつけない。

 痺れを切らしたのか、ポチは立ち止まって振り返った。


「たく、ちょっとミスしただけでしょげてんじゃねぇよ。その程度じゃ俺はお前を見捨てない。毎日三食きっちりと食事も出す。その代わりに、お前は来月の大会で全力を尽くしてくれればいいんだ。それとも、俺とお前の関係はその程度だって言うのか?」


「違っ……、ワンワン!」


 ポチと太郎は互いに見つめ合う。ポチは太郎の気持ちを試すかのように真っ直ぐ見つめ、太郎はそれに精一杯応えるかのように見つめ返す。


「……そうだろう。だって俺たちは、最高のコンビだからな!」


「ワンワン、ワーン!」


 太郎の鳴き声がこだまする。

 決意を新たにした一匹と一人は、堂々とした歩みで家路に着くのだった。

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