3輪: ゆくりなく使い魔
「君は魔法少女だね!ボクのことはいいから、君は早く逃げるんだッ!!」
人質となっている少年がそう叫ぶ。
なんて、優しい男の子なんだろう。
多分、わたしと同じくらいの年。
助けなきゃ。
不利な
──どうやって、彼を助ければいいんだろう…
考えなくちゃ。
「
──オ゛ゥェェェエエァ゛ッ!
ハムタロスは、
吐き出された物体は、放物線を描いて手元に。
なんか汚らしいけどキャッチ。
ちょっとベタベタ。
「その
魔照器を向け、魔力を放てばメイザーポインターが標的をロックオンするんだ」
「え?どうやって使うの?」
「手持ちの武器でも君自身の身体でもどこでもいい。“そこ”に魔照器を固定しようと思い魔力を込めれば、“きっと”装着できるさ」
「…きっと、って」
人質となっている少年より仝儕の方が遙かに身長が高い。
飛び上がって渾身の魔力を込めた膝蹴りを仝儕の顔面にお見舞いしてあげる。
「いくよっ!これで決めるッ!!必殺・
猛ダッシュから跳び上がり、魔照器に魔力を放つ。
魔照器からピンク色の魔光線が射出。やがて、円錐状の光束が出現。
──あッ!
仝儕は、魔光線の直線延長上に人質を持ち上げ、遮る。
「くだらんな、お嬢さん!」
ピンク色の円錐光に全身が覆われ、ロックオンした方向に魔力増幅された推進力が加わり、軌道修正出来ない。
──いけない!少年をロックオンしてしまった!
集束された魔力の光に包まれ加速、一直線に飛来。
光速に達する膝蹴りが放たれる。
「なん…だと…!?人質
──一瞬の交錯
仝儕、少年、魔法少女が交錯。
光の矢となった膝蹴りは、驚異的な速度のまま、仝儕の背を抜け、後方3m付近で人の姿を取り戻し、間もなく着地。
右膝には、確かな感触が、しかも、二体分。
恐る恐る振り返る。
目の前の仝儕は、石膏のように色を失い、無数の
「!?うわあああぁぁぁぁーッ!!!ど、どうしよう…」
「慌てないで魔斗華。大丈夫、少年は助かるよ」
「え?どうすれば…」
「まだ新鮮な遺体であれば、Mポイントを使えば“組合”の甦生サービスを受けられるよ」
スマホをバックル位置から外し、変身を解く。
外したスマホのMポイントアプリを開き、ポイント数を確認、残念なお知らせ、全然足りない。
倒したばかりの仝儕の獲得Mポイント予定が載っている。
──
ポイント反映は先だし、そもそも全く足りない。
「…うーん、他者への甦生サービスを利用できる程のMポイント貯まってないよ…」
「そっかそっか。それなら“裏技”を使おう。魔斗華、君は、使い魔創生サービス利用分のMポイントはあるかい?」
組合の使い魔創生サービスのポイント消費量を確認。
「うん、ギリギリなんとか足りるよ」
「それなら大丈夫だよ。まず、使い魔創生サービスで少年を使い魔にするんだ」
「え??使い魔って、召喚するものじゃないの?」
「そうだね、一般的には、召喚、が多いね。でも、使い魔っていうのは、何も異界の生命体だけを指すものじゃないんだよ。理論上、この世界にはある有機物、無機物限らず、全てを使い魔にするチャンスがあるんだ」
「そうなの?人も使い魔にできる、ってこと?」
胤獣ペンギンが饒舌に続ける。
「そうだよ。普通、人には意思があるだろ?異界の生命体を使い魔にする時もそうだけど、意思や魔力によって使い魔にされることに“抵抗”するんだ。
でも、今ここに転がっているのは、“元少年”なんだ。もう、ただの肉塊なんだよ」
「…じゃあ、助からないじゃない…」
胤獣は喉を鳴らす。
「それが違うんだ。まだ、新鮮、だから。抵抗出来ない肉塊は、すぐに使い魔に出来る。
使い魔ってのは、その精神も魂も体さえも、コントロール下におけるんだ、魔力を使ってね。
使い魔にしている場合、それは“意識体”として活動出来るんだ。それは
「でも、それは使い魔であって、もう元の人間じゃないよ…」
「だから魔斗華。Mポイントを貯めて甦生サービスが利用できる迄の間、使い魔として少年を“活かしておけば”いいのさ。甦生サービスを受けることが出来るポイントが貯まったら、使い魔としての拘束を解き、改めて甦生させればいいんだよ。使い魔である間、“新鮮さ”を維持出来るからこその“裏技”なんだよ」
「!?本当なのっ?」
ハムタロスは、その手、というか羽でスマホを指す。
「さあ、早く、出来るだけ早く、新鮮な内に使い魔創生するんだ」
「うん、分かった」
使い魔創生サービスをタップして詳細ページに。
すぐにカートに入れてMポイントで決済。
利用規約とか読んでる暇なんてないので即行、同意する、を選択。
スマホのカメラで使い魔にするものを選択、つまり、少年の遺体を捉える。
起動音──サーヴァント・サービス!
画面に各種設定が表示される。
容姿、髪や瞳の色、服装、性格、属性、種族、年齢、性別、使用言語、身長、体重、癖、口調、宝具、固有スキル、魔名…etc.
「…う〜ん、使い魔としての初期設定がたくさん表示されてるよ。好きなのを選べばいいのかな?」
「おいおい魔斗華。彼を生前と全く同じまま甦らせることを考慮すれば、使い魔としての新たな設定を加味しないで、そのまま使い魔にしなければいけないよ」
「あ!そっか。でも、クラスくらい設定しても大丈夫だよね?」
「そうだね、それくらいなら影響はほとんどないと思うよ」
「うん、分かった」
設定のクラスから『
カメラのフラッシュが
「わたしに逃げろっていってくれた彼は、まさにパラディンに相応しいと思うの」
「聖騎士!上位クラスじゃないか。この少年は意外と逸材なのかもね?」
「さあ、目を開けて!」
少年は程なく、目を覚ます。
血色を取り戻し、目をパチクリとさせ、周囲を見渡す。
「君が助けてくれたのかい?ありがとう!」
「…あ、うん…」
仝儕と一緒にわたしの魔空飛膝蹴りで一度絶命した、なんていえない。
しかも、今は“使い魔”として仮の命で動いてる、なんて絶対にいえない。
「ボクの名は、
「わたしは魔斗華。同じように春から中学生。よろしく…」
「そっか!同い年なんだね、こちらこそよろしくね」
少年と電番、メアド、LINEを交わす。
「今度、助けてくれたお礼をしたいから、連絡するね!」
「あ、うん。わたしは近辺の修復をしないといけないから、また…」
少年は屈託のない笑顔を浮かべ、立ち去った。
仝儕との出来事や使い魔に関して、一言も少年にいえなかった。
言い訳がましくなるし、ふって湧いたような重過ぎる現実を伝えるのはきつ過ぎる。
「魔斗華、出来るだけ早く使い魔のことについて、彼に話したほうがいいよ。
使い魔は、君の魔力を元にして動く擬似的な活動体に過ぎないのだから、本人にもそれを意識して貰う必要があるんだよ。魔力供給出来ない状況や何等かの防魔障壁、魔力障害、解呪の類他、魔力的な繋がりが遮断されてしまえば、彼は元の姿、遺体、に戻ってしまうのだから」
「……うん」
ハムタロスの助言、尤もだった。
でも、その決断ができない。
──誰かに相談しなきゃ
迷いを一瞬でも緩和するかのように、街角の修復をする。
一通りの修復を終え、
本当はすぐに引き返したい気分だけど、それだと負けたような気がするので続行。
魔法少女になって以来、こんなに気が晴れないのは初めて。
魔法少女は、もっと素敵じゃなきゃいけないのに。
こうなったら、片っ端から冥世の仝儕を退治しちゃうんだから!
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