2輪: 時凍る彼方の錯綜
ハムタロスは、しきりにわたしの
そんなことより、魔法少女専用コミュニケーションアプリ「
>NO出現注意報発表、警戒Lv.2:避難準備 一人で退治に出掛けるのは危ないかも
NOというのは“
固有名があるってことは、少なくとも、そう名乗っているか、わたし達と接触した機会のある連中だから、一般の冥世の仝儕より
わたしの所属してるクラン『
仝儕退治のクランの中では、Aランクに入る強者が揃う有名なチーム。
ちなみにわたし、Aランク・クランに所属した最年少記録保持者。これで幼稚園の時にテレビ出演しました。
有名人、なのですっ!
警戒レベル2の注意報、全く問題ないですね。
一応、ウェザーニューズのマナリポートch.を覗いてみる。
──千葉市中央区の
確かに、瘴度が多少高いのは気になるし、注意報は出てるけど、警戒レベル2が発令されるような魔象予報じゃないの。
確認の為に
目立った
気にする程でもないのでナンパ通りを西へ。
途中、ゲーセンに寄って胤獣ペンギンとプリクラ。
普段だったらそのままスクランブル交差点に向かうのだけれど、右折した裏道から千葉三越方面へ。
ここでもゲーセンに寄ってプリクラ。
撮影してたらスマホからビープ音が。
近くに設置済みの
メイダーを覗くと
魔力30,000ミリマナ毎秒(mm/s)以上の数値。
これはかなり高い値。確実にNO級。
ゲーセンから飛び出て猛ダッシュ!そして、叫ぶ。
『リリカル・マサクル・グリモワールッ!』
「変身!」
起動音──スタンディング・バイ・・・
スマホをベルトのバックル付近に当てると伸身捻り、刹那の時、マッパ。
──メタモルフォーゼッ!
眩しい程のメタリック・ショッキングピンクのプロテクターを覆い、右手を鷲掴むように天高く掲げる。
──チェーンジ・ウィッチ・アームド・フェノミナン!
魔法少女
「
変身ポーズと口上を決めると背後で大爆発。
もうもうとピンク色の煙をあげているけど、封縛の範囲内だから大丈夫。
背後にある日高屋はぐしゃぐしゃになってるけど、封縛を解く前に修復魔法をかければ元通り。
──ところで冥世の仝儕は?
封縛の中では魔力を持たないモノの時は凍る。
その封縛の中に動きがない。
──いない!?
ドコなの、冥世の仝儕は?
「これはこれは、お嬢さん。この封縛の紡ぎ手は、君かな?」
京成電鉄の高架上に佇み、スクランブル交差点を見下ろすヒューマノイド。
夥(おびただ)しい魔力を帯び、発している。
──なぜ、封縛に囚われていないの?
「ふふ、私が何故、君の封縛から逃れられているのか、不思議に思っている。違うかい、お嬢さん?」
──ハッ!
見抜かれている。
「いいえ、そんなことは思っていないわ。ただ、あなたをどうやってブチのめそうか、思いを巡らせていただけ」
「
余程、広範囲を対象とした結界域とするか、発動条件を
「それなら今直接、封縛で閉じ込めてあげる!エンバディ・スフィ……」
──!?
消えた。
今の今まで高架上で佇んでいたのに、一体ドコへ?
「魔斗華、アブない!」
ハムタロスの声。
とっさに身を屈め、左後ろに体を入れかえ、
──ッザン!
頭上を紙一重。
薙ぐように、不可視の、でも、魔力が
その刃は巨大な鎌の様相を顕わにし、後ろにあった看板と壁をバターでもスライスするかのように切り裂いていた。
まともにくらっていたら、プロテクターのフルフェイスも無事では済まない程の切れ味。
──それにしても・・
優に10mの距離はあった筈なのに、そいつは今、横断歩道に降り、左手方向2mもない距離に迄詰めてきている。
この動き、速さ。封縛外にあってはかなり…かなり厄介。
──どうしよう…
交差点を歩いていた大勢の歩行者達がざわめき立つ。
写メを撮る者、Twitterに書き込む者、仲間と雑談する者。あっという間に人集りへ。
封縛の中であれば認識もされない、気付かれもしない。
でも、この仝儕は、封縛の外にいる。
互いに群衆に認知されてしまった。
衆目に晒される中、仝儕の名うて等と完全武装した魔法少女。
これはいけない。周囲への影響が大き過ぎてしまう。
──それにしても、なぜ…
「ふふ、私が何故、鬪洞を張らないのか、妙に思っているだろう、お嬢さん?」
──またッ!?やはり、見透かされている
「魔斗華、深く考えちゃいけない!そいつは、人間の意識を、特に強い感情を読み取ることができるみたいだ」
ハムタロスの助言。
でも、考えるな、って凄く、とっても難しい。
「鬪洞を張らない理由を教えてあげましょう、お嬢さん。
私の糧はね、人間の感情なんですよ。特に“負”の感情。苦痛や苦悩、不安や不満、恐れ、怒り、悲しみ、絶望、嫉妬、蔑み、嘆き。人間が、ネガティブと考え、内にひた隠し、しかし、強い原動力になり得る可能性を秘めた感情のエネルギーが、私の好物」
「?」
「分かりませんか、お嬢さん?こう言うことですよ」
ほど近い群衆に大鎌を振るう。
たまたま、偶然そこに居合わせた母子が、その兇刃によって斬り伏せられた。
バケツをぶちまけたかのように鮮血が飛び散り、辺りを恐怖に染める。
見世物でも眺めているような、どこか暢気な雰囲気であった群衆が、一斉に悲鳴をあげ、逃げ惑う。
「む〜ん、トレビアン!人間達の悲鳴は、如何なる高級ワインよりも絶品」
「絶対に許さないっ!」
仝儕に殴りかかる。
渾身の力と魔力を込めて、大振りで力一杯、
その全てがヒラリヒラリと躱される。
「魔斗華、イケない!イタズラに体力と魔力を浪費するだけだよ」
「ふふ、そこの鳥類がいう通りですよ、お嬢さん。私がね、鬪洞を張らない、もう一つの理由を教えてあげましょうか?
それはね、お嬢さん。君程度を相手にするなど造作もない、からなのですよ」
大鎌をクルリと回し、石突きでおなかを突いてきた。
かなりの強烈な衝撃を受け、3m近くノックバックした。
「さて、お嬢さん。そろそろ終わりにしましょうか。君の怒りを主食に、ついでにその魔力を食後酒代わりに飲み干してあげましょう」
「──うふ、うふふ」
「!?なにがおかしいのです、お嬢さん?あまりの惨事に、気でも
「かかったわね、この化物!周りを見てみなさいよ」
「──?…なにも変わった様子は…?」
バックル代わりの
起動音──マジカル・パージ!
全身を覆う金属質のプロテクターの結合箇所にピンク色の光の筋が走り、ガチャリと音を立てて各部位が隔離、やがて、周囲360°あらゆる方向に分離したプロテクターが高速で弾け飛ぶ。
──メタモルフォーゼッ!
弾け飛んだプロテクターの中から淡いピンクの光を
やがて光は集束し、レースクイーンを連想させるような布面積の少ない上下セパレート、ピンク・エナメルのチューブトップにホットパンツ、アームカバーにグローブ、レッグカバーにブーツ。
──チェーンジ・ウィッチ・ダンスド・フェノミナン!
魔法少女
「あなたの愚行で、周りにいた人達は逃げ去りました。これで…全力を出せます。
天より
プエッラ・マガ・アプリをダブルタップ。
起動音──アクセラレイター!
「
周囲の時を置いてきぼりにし、肉体的、精神的、思考的、魔力的に圧倒的に極限的に加速。
視覚は勿論、感覚でも数値解析でも決して追いつけない速度。
色褪せた視界、凍り付いた時の流れ。
まるで時が止まったような、一瞬さえもが長く長く感じる程の出来事。
仝儕に攻撃。最初にジャブ、続いて右パンチ、左アッパー、フック、ボディ、再度ボディ、おまけにチン。
──ストーム・ブリンガー
超加速空間での七連コンボ“
名うて等の体が衝撃でフワリと浮かび上がり、程なく空中で静止。
起動音──ターン・エンド!
時は元の流れに戻り、色を取り戻す。
中空でピン留めされた仝儕は、コンボの衝撃による慣性を取り戻し、勢いよく吹き飛び、高架下のファーストキッチン前の壁に激突。
叩き付けられた衝撃で仝儕は、血を吹き出す。
「クッ…こ、これは…!?」
「幾らあなたが意識や感情を読み取る力があり、多少動きが速くても、わたしの
「……フフ、フハハハッ!既に、“張らせてもらいましたよ”」
「!?」
周囲の時が凍っている。
魔力を持たないモノの運動が停止している。
封縛と似たようなイメージ。違うのは、瘴気に満ち溢れていること、そして、この中では仝儕の魔力と身体能力は平時の約3倍。丁度、封縛とは逆の立場。
「お嬢さん。察しの通り、私は人間の思考と感情を読むことが出来ます。
“鬪洞も張らず”と思われた時点で、対策法は自ずから分かりましたからね。ついでにッ!」
仝儕の左腕に見ず知らずの少年が抱き抱えられている。
「“人質”を捕らせていただきましたよ。
見知らぬ母子に対するあの反応。お嬢さん、君はこういうシチュエーションに“弱い”」
絶体絶命のピンチ!
──どうすればいい、わたし…
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