演目:橋渡りく

レスト

第1シーン 小学校1年生

 ボクが小学1年生のときの話をする前に、知っていてもらわないといけない知識がある。それは、この世界には「誰でも等しく才能が与えらえれる」というお約束があること。

 才能っていうのは「足が速い」とか「人に教えるのが上手い」とか、そんなもの。中には人殺しの才能なんてものもあって、その人自身が才能を選べるわけじゃないから、与えられる才能はランダム。言ってみれば運ってわけ。

しかもその才能も結構細かくランクづけされるから、同じ才能を持っていても役に立つ度合いが違ったりする。才能は生まれ持ったが最後、成長することはないから、ランクが低いまま生まれてしまったら、もうずっとそのまま。昔の身分制度みたいだなあ、っていつも思う。

 でも、お約束なんて所詮は破られるためのもの。現にボクは「才能」を持っていない。

――と言うとなんだか誤解されそうだけど、ボクの場合はいきすぎた「才能」――。一般的に言う「能力」を持ってしまった。

 ボクが話したかったのは、ボクが「能力」を持ってしまった小学1年生のときの話。



 ボクには年齢が5歳離れたお兄ちゃんが一人いる。ボクが能力を持ったのは、ボクが7歳でお兄ちゃんである橋渡空はしわたりそらが12歳のときだった。「能力」って、「才能」と違って力が強いから、ボクの体の負担も大きい。どんな負担か……そうだね、才能は風邪を引いたようなもんで、能力は病気を発症したようなもんだと思って。

 ボクが病気を発症したから、橋渡家はパニックに!! ……は、ならなかった。橋渡家は両親が共働きだったし、放任主義だったから、ボクとお兄ちゃんは必然的に一緒に家事をしたりして、仲良しなきょうだいだったんだ。そんなお兄ちゃんとは、ボクが能力を持ってからはどうにもならない壁が生まれてしまった。

 お兄ちゃんは「欠陥品」だなんて馬鹿にされる、「才能なし」だった。当たり前に才能を持つ人が圧倒的に多い中、才能を持たないお兄ちゃん。そしてあてつけかのように、妹であるボクは行きすぎた才能である「能力」を持ってしまった。さっきランクづけされるって話をしたけど、ボクの能力はAランクっていって、才能か能力か、学者でも意見が分かれる中途半端なランク。だからボクは「Aランクの才能です」って主張した。

 みんなが持ってるものを持ってないのと、みんなよりも強すぎるものを持ってしまったボクらきょうだい。まあ、どうなるかは見えてる。そう、いじめられる。マイノリティって言葉を知ってるかな。少数派のことを言うんだけど、人間って少数派の人を認めるのはどうも怖いんだね。認めるのが怖くないと、今ごろ同性愛者はもっとのびのび生活できてるはず。

 両親は相変わらず放任主義。もしかしたら両親も、ボクらマイノリティのきょうだいを生んだことに何か負い目を感じていたのかもしれない。それは小学校でも中学校でも変わらなくて、高校受験するときなんか「才能なしが受かる高校なんてない」って先生に言われたり、就職するときの面接でも「才能なしだから」って理由で落とされたらしい。親は何も言わなかった。今考えるとひどい話なんだけど、「才能なし」に対する対応としては、それが一番正しかった。

 さて、そんな仕打ちを受けているお兄ちゃんが平気なわけがない。そこでお兄ちゃんは自分より弱いものに目をつけた。

もうみんなわかるよね。そう、ボクこと橋渡りく。実の妹であるボクに、目を付けたんだ。

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