僕を攻略しませんか?

澪。

ワンパターンな愛はダメですか?

「なぁ結衣ゆい、俺の事どう思ってる?」

隼人はやとと付き合い始めて二ヶ月が過ぎたある日、私は電話越しにいつもと変わらない口調の彼の質問にいつもと変わらない様に

「好きに決まってるでしょーっ」

と答えた。

5秒程の沈黙ちんもくが流れ、隼人が次にはっした言葉は

「別れよう」

の一言だった。


「で、振られたショックを食で埋め合わせる為に早朝の五時なんかに私をファミレスに誘ったと」

親友の千里ちさとが呆れた様な顔をしながらワッフルを口に運ぶ。

「高校一年生でやっと掴んだ春を逃したのが辛くて仕方なかったんです…」

顔をテーブルに伏せながら私は経緯けいいを語り終えた。

「大体分かったけど結局結衣は今どうしたいの?」

最後の一口を食べ終えた千里は二時間くどくどと話した私にしびれを切らして結論を急かす。

「…振られた原因が知りたい」

私がそう言うと"知ってた"と言わんばかりの表情で千里がため息をつく

「結衣さ、もう一回自分の言ってた事思い出してみなよ」

思考が停止しかけている頭をフル活用し、私は先程まで話した言葉を思い出す。

「隼人くんがいつもみたいに"俺の事どう思う?"って言ったからいつもみたいに"好きに決まってるって言っただけだ…よ?」

何も分からず、ただただ言葉を復唱ふくしょうする私にイラつきを覚え始めた結衣は

「だからその"いつもみたいに"って言うのに飽きられたんでしょ!」

と少し声を張り、私に答えを教えた。

鳩が豆鉄砲食らった様な顔をしている私に千里は

「二ヶ月間、ずっとワンパターンな愛の言葉言われてたら流石に飽きるわ!」

と追い討ちをかける。

「なるほど…」

とは言ったものの私にはワンパターンな愛の言葉のどこが悪いのかが分からなかった。

本当に好きなら愛されている事を実感する言葉を貰えるだけでもいいんじゃないのか?と思った、しかしそれが通用するのは漫画やドラマの世界だけだと気付くのはもう少し先の事だった。




それから後の一時間

私は千里に恋愛についてみっちり教えてもらった。

本当はもう少し語りたかったのだが、モーニングで混みだした店内にいつまでも居座る私達を見る店員さんの迷惑そうな目線を感じ、予定より早く切り上げ会計を済ませて家路に着いた

語ったと言っても七割は頭が追いつかず覚えていないのだけれど…


家まであと少しといった所で誰かを探すかの様に周りをキョロキョロしている同い年位の男が目に入った。

(少し困ってる風だけど道に迷った感じでもない…?)

人を探している様だけど右手にはケータイを持っているし連絡は取れる、大丈夫だろうと横を通り過ぎようとした時だった

眞崎まさき 結衣ゆい

男は聞こえるか聞こえないかの声で私の名前を呼んだ、私の足が止まる。

そっと男の顔を見るとお菓子を貰った子供のような満面まんめんの笑みを浮かべていた

「あの、何か…」

と言おうとしたのもつかの間、私はその男に抱き寄せられ耳元で囁かれた。


「僕を惚れさせて下さい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る