アルケミー

橋場はじめ

第1話

 雪が降りそうな位寒い日に、NSGに所属する行使者である莉灯 京也と妹でありマナである里香はとある部屋に呼びだされていた。


「二人に新しい任務がある」


 そう話を切り出したのは目の前にいる二人の上司である藤堂 将大まさひろである。

 幼いころ親に捨てられた二人の親代わりであり、上司であった。仕事はできるしいい人なのだが少し性格に難がある。


「今回は、とある高校に潜入して護衛をして貰う」


 普通は高校に護衛を必要とする人間はいないのたが少数ながら存在するのも事実だ。だがしかしそういう場合は初めから護衛が付いているのが当たり前である。

 そう疑問に思った京也達が聞く前に顔に出ていたのか藤堂が口を開く。


「今回護衛して貰うのは、夏海なつみ 加耶かやと言う学生だ。なお質問は受け入れられない」


 質問が受け入れられないということは当事者にも教えられないほど機密性が高いということだ。

 そして、それは任務が難しいということでもある。


「分かりました、それで俺達が潜入する高校とは?」


「浜白はましろ高校だ。里香は義理の妹と言う事にするから学年も一緒だ、その方が動きやすいからな」


 確かに都合が良いのは事実だが、そうしたほうが面白いからというのもありそうだと京也は感じた。同じ学年にするだけなら四月生まれと三月生まれにすれば問題はないはずだ、わざわざ義理の妹にする必要はない。藤堂とはそういう男だ。


「・・・」


 里香もその事に気付いたのか藤堂を睨んでいる。


「おいおい、そんなに見つめるなよ照れるだろ我が娘よ」


 藤堂は何時もこんな感じなので里香からあまり好かれていない。


「こんな奴ほっといて早速準備しに行こ、お兄ちゃん」


 そう言い里香は京也の腕を掴み部屋をでた。

 京也はこれさえなければ良い親替わりなんだが、と日々思っていた。

 里香も口は悪いが嫌っている訳では無いみたいだ。


「お兄ちゃんは、今回は何持って行くの?」


「そうだな、やっぱブレン・テンかな」


「ほんとに、その銃好きだね」


 俺は昔からこのブレンを好んで使っている。

 色々な理由はあるのだが一番の理由は俺にとても馴染むからだ。

 相性の問題なのか他の銃よりしっくりくる。


「別に良いだろ、お前だってどうせP2000なんだろ?」


「まぁね」


 藤堂に拾われるまで二人で協力し合って生きてきたことや、NSGに入ってからも京也と里香は二人一緒の任務につく事が多かった。

 そのため普通の兄妹よりもこの二人は仲が良かった。


「そういえば、学校通えるのは久しぶりだね」


 二人は、普段学校に通ってなく任務でしか学校に通うことはないのだ。


「そうだな、最近は学校関係の任務やってなかったからな」


「任務とは言え学校に行けるのは楽しいよね・・・」


 ◇◇◇


 そして、転入初日。


「思ったより大きいな」


「今まで通った学校の中では一番大きいんじゃない?」


「かもな。まぁ、今まで通った学校と違ってこの中に寮もあるし」


 任務中二人は学校の敷地内にある寮で生活する事になっていた。

 自宅から通っている生徒もいるのだが護衛対象である加耶が寮で生活しているためである。


「それじゃ職員室に行こっか、お兄ちゃん」


「そうだな、何時までここに居てもしょうがないしな」


 NSGで見取り図を見せてもらっていた俺たちは道に迷う事なく、職員室へ歩きだした。


「ここが、職員室か」


「そうみたいだね。行こっかお兄ちゃん」


 ガラッと扉を開け京也たちは、職員室に入った。

 職員室に今いる教師は三十人ぐらいだった。


「すみません、本日転校してきた莉灯 恭也と里香です」


 そう京也が言い終わると待ってましたと言わんばかりに一人の教師が出てきた。


「ようこそ、浜白高校へ。私は貴方達の担任の智恵ともえ 唯ゆいです。これからよろしくね」


『よろしくお願いします』


 着ている服が新しいことや、見た目が若い感じからしてどうやら新米教師の様だ。


「二人とも、私が担任のクラスに転入する事になったからね」


 どうやら藤堂が裏で操作したようだ、まったくあの人は・・・


「それじゃ、二人のクラスに案内するわね」


「分かりました」


「はーい」


 二人とも返事をし智恵先生のあとについて行く。

 校内を歩いてみると、生徒の多さに驚く。

 藤堂から話は聞いていたのだが実際に見てみるのと聞くのではやはり差があった。

 敵も目標を襲いやすいように潜入しているだろうと、京也は考えていた。


「お兄ちゃん」


 里香の呼ぶ声に考えるのを中断すると智恵先生が、クラスの前で止まっていた。

 上を見てみると2-1と書いてある。

 どうやら考えている間に自分のクラスについたようだ。


「それじゃ、後で呼ぶから入ってきてね」


 そう言い残し先生は教室に入っていった。


「はーい、みんな席に着いてー」


 中から先生の声が聞こえてきた。


「今日は大事な連絡があります。なんと、このクラスに二人転入生がきます」


 先生がそう言うと、生徒達が盛り上がる声が聞こえてきた。

 高校生になって転入してくる生徒は少ないからな。

 これはどこの高校に行っても同じようだ。


「みんな、静かにしてください」


 その先生の一言で生徒のざわめきがおさまる。


「それじゃあ、転入生に入ってきてもらいましょう」


 どうやら俺たちの出番のようだ。


「ほら、行くぞ里香」


「うん!」


 そう言うなり、里香は歩きだしたのでついて行く。

 クラスに入ってざっと見回した限りでは30人前後の生徒が居た。

 もしかしたらこの中に敵がいるのかもしれない。

 やはり、対象を一番狙いやすいのは一緒に長い時間を過ごせる時間が多いクラスメイトだ。


「では、里香さんから挨拶をしてもらいましょう」


 里香は後ろを向いて黒板に名前を書き始める。

 そして書き終わると前を向き、


「本日転入してきました莉灯りとう 里香りかです。これからよろしくお願いします」


 里香の挨拶が終わると、「趣味はー?」とか「スリーサイズ教えて!」など声が聞こえてくる。


「はいはい、質問は後でねー。次は京也君お願いしますね」


 番が回って来たので里香が自分の名前を書いた横に京也とだけ書く。

 名字は同じだしもう一回書く必要もないからな。


「莉灯りとう 京也きょうやです。里香は義理の妹です。よろしくお願いします」


 自己紹介が終わると里香の時見たいに質問が来ると思っていたが、義理の兄妹だと言う事に興味を惹かれたらしく、「兄妹揃って顔立ちが良いな」とか「義理の妹とか羨ましい」などと騒ついている。里香の時もだったがこのクラス大丈夫か?と思い加耶を探す。

 ・・・いた。

 真ん中の一番後ろの席だ。前の席の生徒と話ている。


「二人の席は、一番後ろの廊下側の席です」


 加耶の右隣二つの席が空いている。

 ちょうど良い席になってくれたようだ。


「私廊下側に座りたいな、お兄ちゃん」


 里香は、廊下側が良いらしいのでその一つ隣(加耶の隣)が俺の席になった。


 席に座ると、


「分からない事があったら、私に聞いてね」


 と、加耶が話かけて来た。


「分かった、君に聞く事にするよ。えーと・・・」


 名前を知っているが、知っていると不自然なので分からない振りをする。

 すると加耶は名乗っていないことに気づいたようで、


「あ、私は夏海 加耶。よろしくね」


「加耶って呼んでも良いか?」


「うん、良いよ。二人は名字で呼ぶとややこしいから名前で良いよね?」


「おう」


「うん、呼び方は何でも構わないよー」


 加耶の自己紹介が終わったところに、先生が声をかけて来た。


「莉灯くん達は、後で寮の説明するから一緒に来てね」


 そう言い残し先生は、去って行った。


「二人とも私と一緒で寮で暮すんだね」


「ああ」


今日から、任務が終わるまでよろしくな。と心の中で呟く京也なのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る