破茶滅茶行進曲

もへじ

第1話『親子喧嘩』

 昔々、人々がまだ摩訶不思議な存在たちを信じていた頃。

 天に轟く雷は雷神の、大地を揺るがす豪風は風神の仕業とされていた。しかし時が経つにつれて人間は科学技術により気象現象を解明していき、風神雷神はいつしか架空の伝承の中の存在となってしまっていた。

 ところが…。


 雲の上。一人の少年が大人の男…恐らく父親…と激しい言い争いを繰り広げていた。少年は十代後半だろうか。半袖短パン。短髪は強風に逆立ち、青白く空を引き裂く稲妻が、まだどこか子供っぽさの残った顔立ちを暗い空の中に浮かび上がらせていた。少年に相対する男の表情は険しい。厳つい顔の父親の髪はさながら獅子のようで、その眼光も相応しい威厳と迫力を湛えていた。ほどよく日焼けした筋肉隆々の肉体は上半身があらわで、太い腕を胸の前でどっしりと組んでいる。

「まだ分からないのか!」

父親が少年に怒鳴った。少年は一瞬びくつくも、視線は頑として逸らさない。

「もう知らん…。好きにしろ!」

父親は怒鳴った。雷鳴が轟き、空が震えた。

「悠、お前はしばらく下界に落ちていろ」

冷たいその言葉に少年が目を見開くと同時に、父親はその逞しい腕で少年を掴み上げた。

「離せ!」

少年は喚くも、父親はちらりと少年を一瞥して告げた。

「ああ、離してやる」

手を少年から離す。

「!」

はるか空の上。少年は雲から落とされ、稲妻の雨の中を声にならない悲鳴を上げながら真っ直ぐに落ちていった。

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