怪奇現象?
馬井卦瑠
フィクション:ノンフィクション=1:1
第0.5話 飛び降り自殺
ある夜。暗闇の中、怪しげにそびえる廃校舎。そこに一人、靴を脱いでメガネをそのそばに置き、屋上の端に立つ少年がいた。周辺には人っ子一人いない。引き止める人もいない。
少年は学校で悪質ないじめに遭っていた。机上の花瓶、死を仄めかす落書き、上履きの中に潜むカミソリ...挙げればキリがない。我慢できなくなった少年は屋上に来た。この苦しみから脱出するためにそこにやってきた。
「オレが死ねば、アイツ等苦しんでくれるだろうか?お前らのせいでオレが死んだって、分かるかな」
靴の下には告発文書が挟んである。それが先生に知られれば、いじめの生徒の名前が知れ渡ることになる。
「...死ぬのは怖くない。オレは死んで、アイツ等を陥れてやる...!」
覚悟を決めた少年は、端から身を投げようと足に力を入れる。
『飛び降り自殺は死ぬほど痛いですよ』
頭に直接響いてくるような声が聞こえた。不思議で、今まで経験した覚えのない声だった。少年はその声の発生源に身を向ける。少年の背後十メートル辺りにうっすら光ってるような男がいた。少年は絶望的な視力の持ち主なので、はっきり見ることはできないが、彼は徐々に少年に歩み進むことは分かった。
「来るな!それ以上近づくと飛び降りるぞ!」
その言葉に、男は止まる。
『聞こえているし見えてるのか...霊感がある訳じゃなさそうですけど』
「霊感?何意味わからないこと言ってんだ!邪魔するな!オレは...!」
『知ってますよ』
「何を知ってるんだよ!」
『君の痛みも、死の痛みも知ってます。死んでも何の解決にもならないということも』
「じゃあ、どうすればいいんだよ...この苦しい生活を続けて何の得があるって言うんだ...!」
『死んだら、この世に未練のある者は、終わりの見えないさまよいが始まるだけなんですよ』
「...」
『僕は自殺した人の末路を嫌というほど知ってます。繰り返させたくはないのですよ』
「...」
『生きていれさえいれば、いいことはあるんです』
「...分かったよ。妙な説得力があるあんたの言うことを聞くよ...あんた、名前は?」
『サトウという者です』
そうして少年は遺書を破り捨て、靴を履いた。靴紐を結んで、メガネをかけて顔を上げると、そこには階段に続く扉があるだけで、あの光る男はいなかった。
・・・・・・
自殺願望者は、死に瀕することでその魂が黄泉の国に近づく。それによってこの世のものではないものを見てしまうことがある。それは霊感の有無に関係がない。
少年はこうして幽霊を見た。彼に自覚はなかったが、扉を締めた音を聞いていないのにいなくなった人がいたという状況的にそうとしか考えられない。踏みとどまった今、少年がサトウを見ることはない。彼に霊感はなかったのだ。生きる道を選んだ彼は、踏み入れかけた霊界から足を引っ込めたのだ。
「あれからあの人を見ることはなくなった。そういえば感謝の言葉を伝えるの忘れてた。いるかも分からないけど、あの時はありがとうございました、サトウさん」
『お役にたてたようでどうも』と、聞こえた気がした。
「...オレは生きます。どんな手を使ってでも...!」
・・・・・・
少年の命を救ったその幽霊は、またその未練を満たすために、終わりの見えない旅を再開する。
その数年後、その幽霊は運命的な出会いを果たす。霊感を持ち、未練を克服することに手を貸してくれる生きた人に会うことになるのだった...
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