第5話『桜の指導』

翌日。

今日は他の部員さんも集まって練習が始まったよ。改めて全員で自己紹介。

「フォワード志望の1年、福田 舞です。宜しくお願いします。」

スラッとしたちょっと背の高い彼女は攻撃的なポジションが好きみたい。髪はショートで、いかにもな感じの真面目な部活少女っぽい。


「こっちが2年生の渡辺三姉妹。」

「長女の莉玖りくです。」

「次女の羽海うみです。」

「三女の蒼空そらです。」

完全に一致してるよ…。仕草も髪型も顔も体つきも…。髪型も同じで全員おさげ。身長は平均的かな。筋トレをしっかりやっているようで、全員筋肉質だよ。

「見ての通り、一卵性の三つ子だな。私には誰が誰だか正直わからん。」

部長が言うのも無理はない。

「皆さんはどのポジションを?」

「うちら攻めって感じじゃないし、守る方で頑張りたいと思っています。」

リクちゃんが答えた。こういうのはお姉ちゃんが応えるんだ。


「私は2年の伊藤 伊織。いおりんって呼んでね。私もどちらかというと守りがいいかな。攻めも興味あるのだけどね。」

いおりんは昨日の動きを見ても守りはいけそう。髪はストレートで肩より長くて身長は平均的かな。サッカーは好きそうだけど運動は本格的にはやってないっぽい。


「そして私が2年で戸塚 紗理奈。同好会会長を務めている。一応キーパー志望だ。趣味は妹を愛でること。」

「あははははは…。」

乾いた笑いが出た。私を見る部長の目が真剣なんだもん。そんな部長だけど体格は一番がっちりしているよ。キーパーというよりはパワー系フォワードかディフェンダーの方が向いてそう。昨日の感じでもあんまりキーパー向きじゃなかったよ。攻撃的キーパーっていうならアリと言えばアリだけど、あの体格は勿体無いかな。背も高いしね。髪がかなり短いのもあって、見た目だけなら柔道やってそうな雰囲気かな。妹が好きって言っていたけど、たぶん小さいのが好きなんだよね。体の大きい人って小さいものが好きって人をそれなりに見てきたよ。


「俺は天谷 龍子。ポジションはフォワード、それしかできねぇ。俺にダメ出しがあったら言ってくれ。チームに迷惑かけるぐらいなら自ら辞める覚悟はある。よろしく。」

三つ子も福田さんもドン引きだよ。目が泳いでいるよ…。

天龍ちゃんはスッとした体型だけど力も瞬発力もあるよね。現段階で心配なのは体力ぐらい。小手先の技術よりセンスで得点するタイプかな。昨日の私の強めの弾道のパスもボレー出来ちゃうぐらい。身長もかなり高いし胸も大きい。髪はショートでさっぱりした感じ。


「最初は怖いかもな。今までが今までだったし…。まぁ、スポーツやるなんて初めてだし、暴力沙汰は絶対にしないから安心しろ。」

ニヒヒと笑うと案外愛嬌はあるかも。三つ子は姉妹で顔を合わせて反応に困っているようだった。時間はかかると思うけど、何とかうちとけていかないとね。勿論、天龍ちゃんの方も。


「えっと、2年の岬 桜です。宜しくお願いします。小さい頃からずっとサッカーやってきました。色々と教えられたらいいなって思っています。宜しくお願いします。」

ペコリと頭を下げた。

「に…、2年生だったんですね…。」

「あっ、福田さんより背が低いですからね。」

「皆からは福ちゃんって呼ばれています。」

「福ちゃんよろしくね。」

「岬先輩はどこのポジションですか?」

「桜でいいよ。えーっと、トップ下が希望かな。だから福ちゃんにもどんどんパス出すからね!」

「はい!」


これで今のところは全員。私は皆の意見を整理する。

「そうすると、一般的な4-4-2(DF4人-MF4人-FW2人、GKは1人で確定なので表記しません)で考えるとFW(フォワード=攻め中心)は天龍ちゃんと福ちゃん、MF(ミッドフィルダー=攻めも守りもする、攻め寄りなポジションを攻撃的MF、守り寄りなMFを守備的MFなんて呼ぶ)は今のところ私といおりん。DF(ディフェンダー=守り中心)は三姉妹ちゃんで、GK(ゴールキーパー)が部長ってことかな。」

「うむ、そうなるな。つまり後3人いないと試合は出来ないということだ。それと、一つ問題もある。」


「何?」

「4月の新学期までに部活として昇進出来なければ冬の全国大会には出られない。」

「え?そうなの?」

「そうらしい。部活への昇格の条件は公式戦に出られる人数がいること。つまり、後3人入部してもらわないといけないのだ。」

「新学期までにとなると、新入生を入れるってわけにはいかないね。」

「あっ…。そうか…。」

「部長!しっかりしてよー。」

私と部長の会話に皆が笑った。


「いや、うちの次女の香里奈かりながこの学校に進学希望でな。受験に合格すれば入部させて実質後2人かなって思っていたのだ。」

「あぁー、なるほどー。」

「その手も駄目だとすると、やっぱり3人か。まぁ、2人も3人も変わらんか。」

「俺が何人か捕まえてこようか?」

天龍ちゃんが話に割って入ってきた。

「ダメダメ。最低でもサッカーやりたいって人じゃないと…。結局辞めちゃったり幽霊部員になって試合には出られないよ。」

「そうだよなー。でも、知り合い通じて結構誘ってはみたのだけど、女子サッカーっていうと、痛そうとか、沢山走りそうとか、汗臭そうとかで避けられがちなんだよな…。」

部長の言葉は勧誘が難しいということを指していた。確かにそれは言えるかもしれないね。

でも…。


「私も協力します!絶対に全国大会出て、そして優勝したいんです!」

「おぉ~。」

「大きく出たな。」

「いやー、さすがにそれはキツいっしょ…。」

色んな感想が出た。だけど賛同者はいないよね。そりゃそうだ。今は試合出来る人数すらいないのだから。現実味もないし、練習量も圧倒的に足りない。経験もゼロに等しい状態だもんね。


だけど私は大真面目だよ。

「大丈夫。メンバーも集まるし、皆で協力するば成し遂げられるよ。」

「取り敢えず、今いるメンバーで練習はしていこうか。メニューは経験者の桜に任せたい。」

「いいよ!取り敢えずゴールも1個しかないし、攻めと守りで別れてミニゲームしてみよう。」

「無難だな。」

「違うよ。皆の実力を見せてもらって個別の練習メニューを考えます。」

「あぁ、なるほどな。よし!私はキーパーをやる。渡辺三姉妹といおりんがディフェンス、桜と天龍と福ちゃんでオフェンスに分かれてやろう。バランスが悪ければいおりんを攻撃に回してみよう。」


――――――――――


「ディフェンスチームは、まずはマークする相手を決めよう。」

部長である私の提案に全員がうなずいた。

「ウミが桜へ、リクが福ちゃんへ、ソラが天龍へマークだ。いおりんは状況に応じて動いてくれ。それとディフェンスラインもいおりんが決めるんだ。」

「わかった。やってみる。」

いおりんは結構信頼出来る。私と一緒にサッカーをやった時間も一番長い。彼女は経験も少しあるし、ヨーロッパのプロチームの試合をよく見て研究もしているのを知っている。とはいえ、本格的にサッカーをやっていたわけではない。どちらかというと私に付き合わされているうちにサッカーにはまった程度だ。


「桜は背が低い。あれではゴール前では、高さでも力でも競り勝つのは難しいはずだ。だからパスに専念してくるだろう。福ちゃんと天龍は背も高いしパワーもある。用心してマークしろよ。それに天龍は昨日見た感じだとサッカーの事はよくわかっていないから、破天荒な事をしてくるかもしれん。まどわされるな。」

作戦内容を決めろと桜に言われてやってみたが、全員がどう動けばいいかの指針が出来るな。

なるほどな。こうやって目標を一つずつクリアしていけば成長が分かるし練習の中身も濃くなる。

ディフェンスチームはそれぞれポジションについた。


――――――――――


「まず私はアシストに専念します。いろんなパスをあげてみるので、徐々に精度をあげていきましょう。こっちは3人、向こうは4人で数的に不利な状況なので連携が重要になってきます。ボールを持っている、または危ないところへは二人がかりで守ってくるはず。そうなった時にお互いが場所を確認しながらパスかシュートか選択していきます。」

「わかりました桜先輩。とても分り易い内容です。」

と、福ちゃん。こんな当たり前の説明が分り易いとか、今までどんな練習だったんだろうかと不安になるよ。

「よくわかんねーけど、、球がくれば叩きこんでやるよ。」

「天龍ちゃんはそれでいいよ。」

彼女には、兎に角サッカーに慣れてもらわないとね。


相変わらずだけど、大丈夫。昨日あれだけパス出したけど、どれもこれもシュートには持ち込んでくれた。

「だけど昨日よりも速いパスがいくよ。」

「ほぉ?おもしれぇ。楽しみにしてるぜ。」

「昨日はスパイク履いてなかったからね。では、後は状況判断で動いてみてください。アドバイスはそれらを見ながら出していきます。」

「はい!」

「うし!」


ディフェンス側は既にポジションについていた。私達は逆三角形で展開し少しずつ進んでいく。

「いくよー!」

「おう!」

私の声に部長が反応した。ハーフコートのミニゲームの開始だ。フォワードの二人は前線へゆっくり走っていく。私は少しゆっくりとボールを運んだ。右に天龍ちゃん、左に福ちゃんだ。

こちらの作戦を見ているのか、ソラちゃんが天龍ちゃんへマークし、リクちゃんが福ちゃんをマークする。私のところにはウミちゃんといおりんが走ってきた。

「桜さん!お手並み拝見です!」

ウミちゃんは闘争心むき出しで私に襲い掛かってくる。


!!

しかし動きが荒い。ワンフェイントで抜き、いおりんが立ちはだかるけど、緩急を付けて一気に抜き去る。

「な!?」

「速い!」

追いかけてくるけど、スパイクを履いた私のダッシュに追いつけない。見かねてソラちゃんが私へ突撃してくる。少しでも私が止まれば、いおりんとウミちゃんが追いつくという状況だ。

私は迷わず右足を振りぬいた!

アウトサイドでかけた回転でボールは右へ三日月のように曲がっていく。そこでフォワード二人の動きを見ていた。

福ちゃんはこぼれ球を狙っている。キーパーが弾いたり、バーに当たったりした時に直ぐに動けるようにしている。

天龍ちゃんは…。私の期待通りの動きだ。ボールの軌道が読めるのか、既に落下地点へ移動している。直感なのか確信があって走っているのかは後で聞いてみよう。そして、バーに当たる直前にはシュート体勢に入っていた。


ガンッ!!


ドンッ!!!


見事天龍ちゃんがゴールを決めた。

「よっしゃぁあ!!!」

激しく両手でガッツポーズする天龍ちゃん。その姿を呆然と見るしか無いディフェンス陣。

「天龍…。よくボールの落下地点が分かったな。」

「あん?おめーらわからねーの?」

この言葉に、私以外のメンバーはびっくりした。そして私の顔を見る。

「だからいったでしょ?天龍ちゃんは生粋のストライカーだって。」

「天谷先輩凄いです!」

「フクも天龍って呼んでいいぞ。仲間だしな。」

「はい!天龍先輩!」


私は福ちゃんにアドバイスする。

「だけど福ちゃんも良かったよ。もしもキーパーがボールに触れたりしたら、その時は福ちゃんのポジションで正解だよ。」

「あっ…、ありがとうございます!」

「そうか、そういう時もあるわな。さすがフクだぜ。」

「いえ…、私は慎重過ぎるのがいけないと思っています。」

「今は自分の得意な個性を伸ばしましょ。」

「はい!」


そしてミニゲームは何度も続いた。

私がゴール前に運ぶポールは空中戦を強いるものや、低い弾道のクロスだったりスルーパスだったり。

そこでメンバーの特性がだいたい見えたかな。

そんな時だった。背後から視線があるのに気が付いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る