第16話
スヤスヤ眠る翔輝さん。
一杯我慢させちゃったね。
隣では、ベッドに顔をうずめて泣き疲れて寝ちゃった歩…。
歩にも苦労させちゃったね。
全部私の我が儘のせいかも。
いいえ、全部翔輝さんが頑固だからよ。
それも超頑固。
もっと言えばスーパーウルトラグレートデリシャスワンダフル頑固ね。
さて…と。
物陰に隠れて、ずっと見ていた。
小林先生の話に昔を思い出すわね…。
トコトコトコとベッドを歩き、耳元までたどり着く。
「コホン…。」
言いたい事を頭でまとめましょう。
………。
「いつまでくよくよと悩んでいるの!!!」
「いつまで人のせいにして歌うのを拒否するつもりなの!!!」
「私が新曲聞きたいって言ったら聞きたいの!!!」
「さっさと新曲歌いなさーーーーーーーーい!!!」
翔輝さんはビクッとすると、
「ごめんなさい…。」
と寝ながら答えた。
馬鹿ねぇ…、本当に。
でも、私の事を守る為だったんだよね。
エスカレートした嫌がらせは、ついに襲撃にまで発展しちゃったから。
だから、私のことを心配して雲隠れしたよね。
山奥の田舎暮らしも楽しかった…。
でもね、私はずっと待っていたの。
内藤 翔輝が復活するその日を、ギターを掲げて歓声に応えるあなたに!
「もう、心配しなくていいの。」
「翔輝さん、あなたの想いを聞きたい。」
「30年以上我慢してきたの。それに私には時間がないから…。」
「今年の夏の終わりまでに、必ず新曲を聞かせてくださいね。」
「待ってます…。」
翔輝さんのつむっている目から涙が零れていた。
「必ず…、歌う…。必ず…。」
その言葉に私も潤んじゃった。
「今まで私を守ってくれてありがとう。」
「そして、必死になって底なし沼から引きずり出そうとしている歩に感謝しなさい。」
「けじめをつけなさい!!!」
「内藤 翔輝の生き様を!!!」
「皆が待っているステージで!!!」
「だからさっさと起きなさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!」
ガバッ!!
「あれ?ハァ…、ハァ…。あれ?」
翔輝さんが勢い良く起きるとベッドが大きく揺れた。
私はしがみつきながら再び物陰に隠れる。
そして、その反動で歩も起きた。
ムクッ
あれ?起き方に違和感があった…。
「お爺ちゃん!大丈夫!?」
「あ…、あぁ…。大丈夫。」
「先生呼んでくる。」
歩が立ち上がり、チラッとこっちを見た。
慌てて顔を引っ込める。
そして先生がやってきて診察をする。
心電図もとったりしたけど、特に問題はなかった。
良かった…。
今日は大事を取って翔輝さんは病院に泊まることになった。
歩が帰宅の準備を始めたころ、ガバッと開いていたカバンに身を潜める。
私が潜り込むと直ぐに閉じられた。
「じゃ、お爺ちゃん、今日は帰るね。明日迎えにくるから。」
「あぁ、心配かけてすまなかったな。」
「なに言ってるのよ。心配するのなんて当たり前でしょ。」
「そうか…。俺な…。」
「ん?」
「新曲を美里の為に歌うことに決めた。」
「本当!?」
「あぁ。」
「ング………。」
歩…。
「お願いだから泣くなよ…。」
「だって…。だって…。」
「ただ、一つだけ手伝って欲しいことがあるんだ。」
「何?何?なんでも手伝うよ!!」
「実は…。」
「実は…?」
「あるんだ…。」
「何が?」
「新曲…。」
「へ?」
「録音室一人で借りきって収録したレコードがあるんだ。」
「本当に?家にあるの?」
そうなの?初めて聞いたわ…。
「それが…。当時所属していたレコード会社にあるはずなんだ。」
「じゃぁ、返してもらえばいいじゃない。」
「うん…、まぁ、そうなんだけども…。当時、レコード会社内にもファンとアンチがいて、どこにいったかわからないんだ。」
「えーーー………。」
「そこには、美里への想いが込められている俺の歌が収録されている。歌詞はその時に思いついて、歌った後に歌詞書いた紙を処分しちゃって…。コードは何となく覚えているのだけど、ノリと勢いで収録しちゃったから…。」
「まぁ、お爺ちゃんらしいね…。」
「で、無事に撮り終えたのだけど、ゴタゴタしていたからね。直後に襲撃事件とかあって活動停止。そんで、チャリティーライブで引退しちゃったってわけさ。」
「うーん。」
不安そうな歩…。
そりゃそうだよね。流石に手がかりが成さすぎるわ。
「いや、まぁ、無ければ無いで、新たに書き下ろすのだけどさ…。」
「駄目!」
「だけど…、歩…。」
「絶対に探してくる!」
「いやー………。」
「たしか『日の出レコード』だよね。」
「そうだけど、本気で行っちゃう?」
「お願いしたのはお爺ちゃんじゃない。それにね、当時のお婆ちゃんへの想いが残っているのでしょ?ぜーーーーーたいに持ち帰ってくる!!むしろその歌じゃないと、私認めないから!!!」
歩のまっすぐで前向きな性格は誰ににたのでしょうね…。
だけど嬉しい…。
「さぁ、これから忙しくなるよ!新曲って言ったらライブなんだから!そっちの準備もするから、お爺ちゃんんも準備始めてよね!」
「え?え?」
そして歩は嬉しそうに病院を出て行く。
もうすぐ夏休み。
生暖かい夏の夜の空気がカバンの中にも入り込んできた。
そう思った瞬間、ガバッとカバンが開き歩が中をのぞき込んでいた。
「聞いていた通りだよ、お婆ちゃん。」
バレちゃった…。
「今日は少しお話しさせてね。」
そして私をそっと救い上げると肩の上に乗せた。
歩は私を振り落とさないようにゆっくりと、本当にゆっくりと歩いてくれた。
とても楽しそうに、そして嬉しそうに…。
何だか私までワクワクしてきちゃった。
これもそれも歩のおかげね。
そして私達は話し合った。
頑固で不器用だけど、最高に格好良い翔輝さんの話しを…。
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