第4話
「歩!ちょっと歩!」
私はちょっとだけ後悔している。
お爺ちゃんがタブレット見始まって4時間が経とうとしている。
まだ途中らしく、何かあると直ぐに私を呼びにくる。
「今度はなに?」
「疲れたから横になって見ようとしたら、画面がクルッって回って横になってくれないんだよぉ。これじゃぁ寝っ転がって見辛いんだよぉ…。こういうの何とかならんの?」
はぁ…。
タブレットを奪い取り、画面の自動回転機能、つまりタブレットを回転させても画面は常に上を向く機能をオフにする。
アクビをしながら渡す。
「もう夜も遅いから、続きは明日見なよ。」
「もうちょっと…。もうちょっとだけ…。」
本当に子供みたい…。
でも、気持ちは分かるよ。
もうちょっとだけ起きて様子を見ることにした。
ついでに私もお婆ちゃんのブログをスマホで見てみる。
どの記事も愛情に溢れているというか、ほのぼのしていて、読んでいると安心感というか、そんなものをもらえる気がした。
そんな優しさに包まれて、私はいつの間にか眠りについていた。
ドタドタドタドタッ!
「歩!歩!!」
ドンドンドンドンッ!!
何よ朝も早くから…。
スマホの画面を見ると、まだ朝の6時だった。
「どうしたのー?」
眠い目を擦りながら起きる。
「お婆ちゃんの日記を消しちゃったんだ…。あぁ、どうしよう!」
はぁ…。
消せる訳ないじゃない。
スマホのブラウザで確認する。
当然消えていない。
上着だけ羽織って扉を開けると、泣きそうなお爺ちゃんがあたふたしながら立っていた。
タブレットを渡されてみると、電源ボタンを押してみる。
案の定電池切れだった。
「これはね、バッテリーで動いているの。だからつけっ放しだと直ぐに充電切れちゃうよ。」
私はお婆ちゃんの部屋から電源コードを持ってくる。
「これをコンセントに挿して、反対側はここに磁石でくっつくから。そんで、5分ぐらい充電したら電源ボタン押してみて。」
「あわわ…。焦ったじゃじゃないか、もー。」
ホッとした表情を見せながら自分の部屋に戻っていった。
ついでにこのまま起きよう。
顔を洗って歯磨き済ませて着替えをする。
直ぐに畑に出て野菜達の状態を確認した。
雑草を抜いたりしながら手入れをしていく。
ざっと手入れが終わると台所に行って朝食の準備をする。
居間に持っていくと、既にお爺ちゃんが座っていた。
テーブルの上にはタブレットが立てられていた。
「どこまで読んだの?」
「ん?一年前くらいかな。」
「そう。ご飯先に食べちゃってね。」
「………。」
無言でご飯を食べる。
タブレットを見ながら…。行儀が悪いよ。
「そのタブレット、間違って味噌汁や醤油こぼしたら壊れるからね。そしたら見れなくなるからね。」
その言葉に敏感に反応すると、直ぐにタブレットの電源を消してオロオロするお爺ちゃん。
どこに置いたら良いか分からなくて、結局、半べそかきそうな顔で私の顔を覗きこんできた。
タブレットを受け取ると、壁際にあるタンスの上に置いた。
「慌てないで、ちゃんと噛んで食べてよね。」
もう…。
でもちょっと可愛いところあるよね。
こんなに必死になって読むとは思わなかったもん。
結局お爺ちゃんが全部の記事を読み終わったのは夕食前だった。
夕食を食べながら感想を聞いてみた。
「で、どうだった?」
「………。」
野菜を食べながら、表情は淋しげだった。
「俺さ、ずっとお婆ちゃんのこと振り回して、結局何もしてやれなかったんじゃないかと思ってさ…。」
あ…、ネガティブに捉えてる…。
「楽しそうな写真見るとさ、俺なんか居ないほうが良かったんだと思うよ。」
しょんぼりして小さくなるお爺ちゃん。
でも私は否定する。
「絶対そんなことは無い!」
珍しく声を張り上げた私に、お爺ちゃんはちょっとビックリしながらも注目してくれた。
「お婆ちゃんはね、畑をやっている時も、料理を作っている時も、いっつもお爺ちゃんの話しをしていたよ!」
悲しげな表情で微笑むお爺ちゃん。
それはまるで、私の前だからお婆ちゃんはそう言ったんだと言わんばかりだ。
「それにちゃんと読んだの?記事の下に書いてあるコメントには、またお爺ちゃんの新曲が聞きたいってあったじゃない!」
私の言葉にお爺ちゃんは敏感に反応した。
「もう…、歌はいいんだよ…。それは何度もお婆ちゃんに言ったし…。」
「え?」
「歌は…、もういいんだ…。歌うこともない…。」
そう言うと立ち上がり自室に行ってしまった。
どういうこと?
確かにお婆ちゃんのブログの中では歌に関することは、このコメント以外ではなかった。
記事ではお爺ちゃんの紹介ページ以外に一切触れていなかった。
もしかしてタブーだったの?
でも、どうして?
歌手は辞めたけど、音楽に関する仕事はずっとやってきたじゃない。
それはやっぱり歌が好きだったからじゃないの?
ブログによって二人のことが少しずつ見えてきた感じ。
だけどそれは知らなくても良かったことまで掘り起こしちゃったかも知れない。
これ以上首を突っ込むことに
私はどうしたら良いかわからなくなった。
だけどこのままで良いとも思わない。
そうだ…。
お婆ちゃんとやり取りがあったメモリーさん、この人に何か知らないか聞いてみよう。
私はお爺ちゃんが置いていったタブレットを手にし、さっそくメールを送る。
会ってお話がしたいと…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます