第301話 vsゾディアック

 空に開いた異次元への通り道。

 そこから放たれた赤い柱が大地に直撃し、波紋を広げては周囲を消し飛ばしていく。

 単騎で現れた銀色のブレイカーは巨大な銃身を構えたまま微動だにせず、銃口からエネルギーキャノンを放出し続けている。


「いい加減にしろ、コイツ!」


 至近距離で放たれたエネルギーキャンの波の中から黒い機影が飛び出した。

 獄翼だ。

 全身をメタル化させ、飛び跳ねた余波を弾きながら突撃する。

 その手に愛用の刀を握りしめ、銀のブレイカー目掛けて斬りかかった。

 銀の機影が背中の飛行ユニットをはばたかせ、後退。


「遅い!」


 刀身が銃口を一閃した。

 分割された銃身が爆発し、銀のブレイカーは僅かにバランスを崩す。


「よし、このまま」

『後退だスバル君!』


 後ろから通信が入る。

 直後、銀の機影から無数の光が走った。


「いいっ!?」


 その光に触れたらどうなってしまうのか、スバルはよく知っている。

 反応した瞬間に距離を離すも、光は獄翼に届いて爆発を起こしてしまう。


「うおわぁ!」

「ううっ!」


 コックピットを振動が襲う。

 スバルとアウラはこれに耐え、システムに繋がれたアキナはシートベルトに締め付けられながらも身体が揺れる。


『ちょっと、避けるならちゃんと避けなさい!』

「無茶言うな!」


 取り込まれたアキナが怒声を飛ばすも、あの銀のブレイカーから飛ばされる光の爆薬は避けようがない。

 射程が長いし、一瞬で何発もぶっ放してくるのだ。

 手でしか爆発させてこなかったオリジナルよりも数段優れていると言える。


「耐えれるって言ったからお前に頼んだんだろ!」

『そりゃあそうだけど、時間制限あるの忘れないでよね!』

「最初に話を聞かなかった奴が言うことか!」


 前回のサムタックでの戦いでまったく話を聞かずにガデュウデンをKOさせたアキナの暴挙を思い出す。

 あの後、無事に説明できたのだが『もっと早く言え』と怒鳴られたのは中々理不尽だったと思う。


「そんなこと言ってる場合ですか! あれをなんとかしないと」


 唯一、ふたりのやり取りを中断できるアウラが叫ぶ。

 このふたりは妙に喧嘩っ早いくせに仲が良いので、積極的に会話を切り上げさせないと延々と口喧嘩が続くのだ。

 疲れるだけだし、面白くないのでさっさと意識をシフトさせなければならない。


『ふむ、砲身を美しく破壊したのはいいが、いずれにせよ奴を下に向かわせるわけにはいかんな』


 ビューティフルローズロボが後方から追ってくる。

 この機体の装甲はビームをひたすら弾くので、先程のエネルギーキャノンもやり過ごすことに成功していた。

 だが、元々はとんでも性能のスーパーロボットである。

 他の機体に同じ性能を求めるのは酷と言うものだ。

 現に獄翼もアキナがいなかったら蒸発していたところである。


「かといって、あんなんじゃ迂闊に近づけないし」


 全身メタル化させて爆発に耐えれるようにしたのはいいが、獄翼には時間制限がある。

 相手はまだ未知の部分が多いブレイカーだ。

 速攻が得意だからと言って、向こうがそう簡単に乗ってくれるだろうか。


『よかろう。奴は美しいこの私が引き受けることにする』

「え?」


 どうやってあのブレイカーを倒してやろうかと唸っていると、後ろからローズロボがずいっと前に出てきた。


「アーガスさん」

『スバル君、君は後方から接近してくる機影を頼む』


 言われ、急いでモニターを確認する。

 確かにこの穴に突撃しようとして来る新人類軍の機体の反応がある。

 移動速度から察するに、ミラージュタイプだろう。


「確かに、スピードバトルは得意だけどさ」

「勝てるんですか?」


 スバルと同様の疑問を感じ、アウラが口を開く。


「あなたの能力は植物でしょう。爆発を相手にして、どうするっていうんです?」

『昔から草タイプは炎タイプに勝てないっていうわよ。大人しくアタシに譲りなさい』

『はっはっは、鋼でも炎は厳しいのではないのかね?』


 わかる人にしかわかりそうにない例え話が展開されるが、長くは続かない。


『最近の草は炎とて止められないのだよ。よく覚えておきたまえ』


 言うだけ言うと、ローズロボは突進。

 銀のブレイカーへと進んでいく。


「仮面狼さん、本当に任せて大丈夫だと思いますか!?」

「わからないけど、獄翼でアイツと戦うよりもマシだ」


 だから今は最善を尽くすしかない。

 後ろから来るブレイカーの処理が、今の最善だ。


「それに、あの人は馬鹿じゃない」

『馬鹿でしょ、アイツは』

「確かに馬鹿だけど、ただの馬鹿じゃないよ」


 アーガス・ダートシルヴィーとは付き合いが長い。

 好きで付き合いが長いわけではないが、それでも彼がどういう人物かは知っているつもりだ。


「あの人、自分の発言には責任を持てる人だ」


 あまりいい思い出がある人物ではないが、そういうところは好感が持てる。

 XXXの連中も同じだ。

 だから信じよう、彼の言葉を。


「それに、誰かが追手の相手をしないとね!」

『じゃあ、そいつらでウォーミングアップといくわよ!』

「おう!」


 獄翼が背中の飛行ユニットを羽ばたかせる。

 後方から迫るブレイカーの群れに突撃する前に、スバルは手早くある項目を入力していた。

 銀のブレイカーの名称だ。

 知らないとはいえ、仮の名称のままだと色々と不便である。

 なんて名付けようかと思って特徴を思い出してみた。

 身に纏う鎧から発射される光。

 あれが星座みたいに輝いているように思えた。

 安直だが、それ関連の名前でいいだろう。

 素早くゾディアックと入力し終えると、スバルは改めて操縦桿を握りしめる。






 植物は炎に弱い。

 なにも植物に限った話ではないが、生命は基本的に焼かれるとそのまま死んでしまうものだ。

 だが、アーガス・ダートシルヴィーにとって炎とは最初に克服すべき欠点でもある。

 彼の祖国は外敵によく狙われていた。

 敵が武器を持つと、自然と炎が飛び出してくる。

 アーガス・ダートシルヴィーは英雄でなければならなかった男だ。

 炎に屈することは、彼の人生において一度もない。


「ふはははははははははっ!」


 アーガスは笑った。

 例え相手が物言わぬ鎧であっても、その向こうには誰かがいる。

 その名前くらい深く刻ませておかないと、相手に失礼だろう。

 挨拶はすべてにおいて基本でもある。


「聞くがいい、鎧の使者よ!」


 ビューティフルローズロボが右手に赤薔薇を咲かせ、中からレイピアが飛び出した。

 花弁を散らしながらも繰り出されたソレは、接近戦を仕掛ける意思があることを相手に伝えている。


「我が名はアーガス・ダートシルヴィー! 天と地と海の狭間の中から生まれた奇跡の美男子。天然記念美貌!」


 言いたい放題である。

 もしこの場にスバル達がいたら、きっと白い目で見て来たに違いない。


「この美しい私は、貴様の爆炎に決して負けることはない!」


 言葉に応じるようにしてゾディアックが鎧を光らせた。

 銃口のない装甲から放たれた光がローズロボ目掛けて飛んでいく。


「なぜならば、美しい私は炎などとっくの昔に克服しているからだ!」


 光がローズロボに着弾する。

 爆発が巻き起こった。

 まったく動じることなく爆風を見つめるゾディアック。


「克服したと言った!」


 爆炎の中を切り裂き、ローズロボが現われる。

 その胸部には巨大な薔薇が咲き誇っていた。


「美しい私は常に己を美しく磨き上げることに余念がない。また、美しい花の品種改良にも余念がないのだ」


 ゆえに己の弱所はなるだけ潰す。

 己自身が美しくある為に醜いと思うことはせず、美しくある為に素晴らしいと思えることをしてた。

 勿論、その中には何度か間違いもあった。

 蛍石スバルや神鷹カイトとの一件は、本当に不幸な出来事だったと思う。

 けれども、自分がすべきことは悔やみ続けることではない。

 悔やみ、二度と起こさないことだ。

 その為にも、もっと強くならなければならない。

 強くなる為には美しさと共に花の手入れも不可欠だ。


「私は多くの時間と犠牲の元にこの美しさと強さを手に入れた。簡単に負けるわけにはいかんのだよ!」


 レイピアが鎧の隙間に届く。

 細い刀身が、ゾディアックの首を刺し貫いた。

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