第163話 vs機体選び ~カイト編~

 旧作、ブレイカーズ・オンラインで選択できる機体総数は60機近くに及ぶ。

 次回作であるNEXTには劣る物の、特徴や武装を探る分では前作の筐体でも十分だった。

 新作であるNEXTの情報がまだ出回っていない為、新機体を紹介しづらいのもある。


「とりあえず、ポッポマスター」

「誰がポッポマスターだ」


 前作の筐体に移動し、本格的にゲームの登録作業を行うカイト。

 隣でレクチャーし始めるサボり学生、赤猿を訝しげにみやると、名前の登録を行い始めた。


「基本的に、ゲームで登録する名前はスコア一覧でも表示される。あんまり恥ずかしくない名前にしろよ」

「じゃあ、ポッポマスターは論外だな」

「俺は結構好きなんだけどな」

「貴様の好みなんぞ知るか」


 一蹴すると、カイトは適当に名前を決定させる。

 登録名は『ハゲタカ』だ。


「結局鳥の名前が入るんだ」

「ポッポマスターよりはマシだ」


 やや獰猛な猛禽類にクラスチェンジを果たした後、カイトは機体の選択画面に入った。

 本来、ブレイカーズ・オンラインではメインとなる機体を選び、その後装備するパーツを選んでから戦闘画面に入る。

 その為、普通にプレイする分には準備に時間がかかるゲームなのだが、その手間を省く役目をカードが果たしているのだ。

 専用カードにデータを登録することで、準備画面を飛ばして戦闘に入る事が出来る。

 時間圧縮に一役買っているのだ。

 そして、カイトの場合はここからが本題だった。


「さて、ハゲタカよ」


 律儀に登録名で名前を呼び直してくれた赤猿が、腕を組んでレクチャーを開始する。


「ブレイカーズ・オンラインでは大きく分けて3種類のブレイカーを扱う事になる」

「知ってる。本物のブレイカーに乗ったことがあるし、戦った事もある」

「なるほど、なら話は早い……って、戦った事があるぅ!?」


 赤猿にとって完全に想定外な事実が飛び出した。

 彼だけではない。

 後ろから全国区プレイヤーのレクチャーを盗み聞きしようと集まったギャラリーも同様だ。

 彼らは全員、画面の中のブレイカーしか動かしたことがないのである。

 本物の機動兵器は一種の浪漫だった。


「そ、それはあれか!? お前が動かして倒したのか!?」

「なんて言えばいいんだろうな。俺が自分から動いたっていえば良いのか」


 ただ、戦闘の様子を一言で説明するのは非常に難しい。

 生身で倒した例もあるが、専用機を倒した経験はほぼスバルに依存している。


「もしかして、アンタどっかの国のレジスタンスとかそんな奴か?」


 赤猿がジト目になって聞く。

 反乱者呼ばわりされたこともあるので、間違っていない気がした。

 

「まあ、それだと思う」

「アイツはどんな友好関係してるんだよ……引退したって聞いてたのに」

「色々とあるんだ。俺にもアイツにも」

「そうそう。私と彼のようにね」


 相変わらずカイトの隣をキープし続けるエレノアが、余計な事を口にし始める。

 一度搭乗したことがあるとはいえ、彼女はブレイカーの知識を持っているわけではない。

 ゆえにこの場では、ただの見学に徹する事しかできないのだ。


「貴様は黙る事を知らんのか?」

「だって寂しんだもん。ウサギは寂しくなると死んじゃうんだぞ」


 隈で染まった右目で軽くウィンクしてきた。

 気付きつつも、カイトはそれを指摘しないでおく。

 付き合いの長そうな雰囲気を出しているふたりに、赤猿が歯噛みし始めた。


 それはさておき、機体選びだ。

 読者諸兄には説明するまでもないが、ブレイカーは大きく分けて3つに分類することができる。

 火力重視のアーマータイプ。

 速度重視のミラージュタイプ。

 癖の強いアニマルタイプの3種類。

 

「仮面狼とやりあうなら、体力が少ないミラージュタイプは避けた方がいい。アイツは最初の一発を当てるのが上手いんだ」

「なるほど」


 頷きつつ、カイトはレバーを動かす。

 使用機体カテゴリがミラージュタイプにセットされた。


「俺の話聞いてた?」

「当たり前だ。隣で喋っておいて何を言う」

「じゃあ何でミラージュタイプを選んでるんだよ!」

「それしか動かし方を知らない」


 シンプルで単純な答えだった。

 カイトはスバルがミラージュタイプ以外を動かしている姿を見たことがない。

 ゆえに他のタイプを選択すれば、まず操作技術を学ぶだけで時間がかかるであろうと考えた。


「サル。貴様は普段何を使ってる」

「誰がサルだ。……使ってるのはミラージュ」

「相応の実力を持つアーマータイプ使いがいるなら話は別だが、そうでないならミラージュで正面から勝負してやる。真剣勝負なら、同じ土台でやりたい」


 因みに、アニマルタイプは根本的に弱キャラであると以前スバルから聞いたことがある。

 なので、カイトとしては最初からミラージュタイプ以外の選択肢は無かった。

 カイト本人の戦闘スタイルと一番合っているのも理由である。


「問題はミラージュタイプで登録されている機体のどれが俺に合うか、だ。アイツとの相性はどうでもいい」

「なるほどね。自分のやり方に合った方法で勝負するわけか」


 確かにその方がのびのびと戦える。

 赤猿は納得すると、今度こそ己の知識が必要な領域へとステップを進めた。


「アンタの戦い方って、どんなのが望み?」

「アイツみたいなの」

「私のことかな?」

「仮面狼のことだ」


 アバウトな質問だったが、カイトは的確に答えてくれた。

 これまでの会話からある程度察してはいたが、彼と仮面狼は大分似通った戦闘方法を好んでいる。

 だとすれば、必然的に辿り着く機体も同じものだ。


「それなら、これしか選択肢はないな」


 画面の中に並ぶ20機近くのブレイカー。

 その中のひとつに指を向けると、赤猿はそいつの名前を呟いた。


「正式名称は『夜天狼』っていうんだ。アイツの愛機の元となった機体だよ」

「ほう……」


 かつて、敵に見つかると厄介だと言ってへし折ったスバルの愛機。

 その姿を拝むことは無かったわけだが、こうして元となった機体を見ると中々感慨深いものがある。

 これに改良を重ねていった結果が、スバルのダークフェンリル・マスカレイドなのだ。

 そういえば、カノンのダークストーカーともどことなくデザインが似ている。


「ダークストーカーに似てるな」

「あれ、デスマスクを知ってるのか?」

「元、部下だ」

「……なんていうか、世間って狭いんだな」


 赤猿の疑惑の眼差しを無視し、カイトは改めて夜天狼を眺める。

 引き締まった黒いボディは鍛え上げられた戦士を連想させ、頭部から僅かに見える牙が狼のような凶暴さを意識している。

 だが、初期武装を眺めているとカイトはある点に気付く。


「飛行ユニットは無いのか?」

「夜天狼は元々地上で戦う機体なんだ。飛行ユニットなしでもすばしっこく動けるし、本来は避けながら地上戦を制する機体だよ。空を飛んでる相手が殆どだから、そういうのにはジャンプして跳びつくか大砲で撃ち落とすとかしてやんなきゃダメだけど」


 だが、スバルはそのセオリーを無視し、空中での接近戦特化に仕上げた。

 飛行ユニットを装備させ、地上戦で優位に動ける足をコンボパーツとして組み込んだのである。


「ダークフェンリルの武装は?」

「ナイフとダガー。刀がふたつ。遠距離用にはコストの低いエネルギーライフルを持たせて、防御はシールド発生装置って感じ」


 獄翼を奪った時に装備していたのとほぼ同一のラインナップだった。

 どれだけダークフェンリルに拘っていたのか、よく理解できる。

 だが、今度スバルが画面の中で用意する機体はダークフェンリルではない。

 カイトと同じように、新たに作り上げる機体だ。

 果たしてそれがダークフェンリルや獄翼と全く同じ形に収まるのかと考えると、カイトは違うと思う。


 スバルの戦法を誰よりも近くで観察してきたのはカイトだ。

 そのカイトが、ほぼ完全に動きをトレースしてしまっているのだ。

 そんな奴を相手に、同じ戦法を仕掛けてくるだろうか。


「サル。アイツは接近戦以外は強いのか?」

「こなせるよ。近距離から遠距離までなんどもござれ。ただ、一番得意なのが近距離だな。遠距離は使えなくもないけど、外した時がデカすぎるから」


 隙を狙われるのをなるだけ避ける為、機動力に物を言わせたミラージュタイプを選ぶ必要があった。

 旧人類である彼が、特化された新人類達に立ち向かう為には限られた環境をフルに活用しなければならない。

 今も同じだ。

 だが、この時に限って言えば相手はブレイカーズ・オンラインに特化された新人類ではない。


「……素直にこれを使ってくるかな」

「なんか言ったか?」

「いや」


 とりあえず、スバルが愛した機体を知ろう。

 無言でそう考えると、カイトは夜天狼をセレクトした。


 1週間後、戦いの舞台に立つ『THE・イレイザー』の基盤が誕生した瞬間である。

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