第152話 vs激動神リターンズ(?)

 天動神の頭部が割れる。

 ゆっくりと地に崩れ落ちるその姿を眺めつつも、獄翼は着地。

 飛行ユニットの出力を上げる事もせず、ただSYSTEM Xを停止させる。


「ふぅ……まずは一撃」


 ヘルメットを外し、スバルが一息つく。

 取り込まれていたカイトの意識も本人の身体に戻っていき、他のふたりも無事だ。

 後遺症もない。

 見れば、モニターに表示されている残り時間は『0:03』だった。

 久しぶりにギリギリの戦いだと、素直に思う。


「や、やりましたね! あれならババァーンって発射されるおっきいのは出ません!」

「擬音で表現されてもね……」


 後ろのマリリスが勝利に浮かれる。

 だが、それにはまだ早い。

 彼女以外の3人は、いずれも知っている。


「あれ? 皆さん、どうしたんですか。折角倒したのに……」


 まわりの態度を不審に思ったのだろう。

 マリリスは訝しげに正面のスバルに視線を送る。


「うう……ど、どうなった!?」

「第二ラウンドにはまだ入ってないよ」


 横でカイトの意識が完全に覚醒する。

 だがマリリスは彼の帰還ではなく、シデンが発した言葉に反応した。


「え、第二?」

「天動神は中ボスなんだ」


 半年前、アキハバラに現れた巨大鳥頭。

 やっとの思いでそれを倒したと思えば、更なる敵が待ち構えていたのをよく覚えている。


「当然、激動神もいる筈だ。一度やられている天動神をわざわざ出してきている以上、ただ砲撃が強化されているとは思えん」

「うん。実際、タイムアタックが出来る勢いで倒しちゃったからね」


 その辺は一度戦い、特徴を見抜いているのもある。

 だがそれ以上に大きな勝因になったのは、敵の主要武器を弱体化できるマリリスの存在が大きい。

 

「もうアイツもマリリスの存在を理解した筈だ。次は、こうはいかない」

「あ、あの。皆さん先程からすっごい不穏な会話をしていますけど、倒してますよね? ね?」


 マリリスが現実を見ようとしないが、無慈悲にも天動神の胴体にひびが入った。

 

「え?」

「来た!」


 天動神の胴体から、機械の腕が出現する。

 まるで動物のお腹の中から這い出てくるようにして、腕は胴体の皮を引いさく。


「な、ななななななんですかアレぇ!?」


 機械でなければあまりのグロテスクさゆえに気を失っていたかもしれない。

 横で喧しくなるだけのマリリスを尻目に、カイトは呟く。


「あれが本当の敵だ。天動神も前座でしかない」


 天動神はあくまで入れ物である。

 真に恐るべきはサイキックパワーはその身に凝縮させた、20メートル級のブレイカー、激動神だ。

 

「全長は獄翼と同じ程度しかない。だが、サイキックパワーを全身に浴びた激動神は信じられんパワーを発揮する」


 出力だけで言えば、獄翼の比ではない。

 なんの武装も持たずに必殺の一撃を出すのだ。

 まともな馬力勝負をしたところで負けは目に見えている。


「どうする? また、あれをやる?」

「いや。あれをここでやると……俺が異次元空間に突入して生きて帰れなくなると思う」


 前に激動神を倒した方法をそのまま採用しようものならば、カイトの犠牲は必須だった。

 ここには発射された彼の胴体を受け止めてくる建物は無い。


「ん?」


 そんなことを考えている内に、天動神の腹部からブレイカーが姿を現した。

 20メートル級の灰色の機体だ。

 ここまでは以前現われたのと変わらない。

 変わったのは、そのフォルム。


「……檄動神じゃないのか?」


 半年前に戦ったブレイカーは、獄翼に近い人型だった記憶がある。

 だが、眼前に現れたブレイカーは頭から肩にかけて角が生えていた。


「あんな角あったっけ?」

「いや。あんな特徴的なのがあったら忘れないと思う」


 ただでさえ激動神は破天荒なブレイカーなのだ。

 唯一、インパクトが薄いとすれば外見が地味なくらいである。

 しかし、その外見にもアクセントが加えられていた。

 頭から伸びる角は肩の位置まで垂れ下がっており、そこからまた跳ね上がっている。


「羊か、あれ」

「見た感じ、激動神をカスタムしてるっぽいけど」


 面影があるので、そこは間違いないだろう。

 そこに羊のような角が加えられた程度のアクセントだ。

 何の意味があるのかはわからないが、一度破れた相手をそのまま出している以上、何かあると思って良い。


「油断するな。回避できないと判断したら、俺がまた出る」

「う、うん」


 相談をし終えると、タイミングを見計らったかのようにして激動神らしき機体が構えを取る。

 

『ファッキイイイイイイイイイイイィン!』

「あいつさっきから何であれしか喋らないんだよ!」


 当然のツッコミを行うと同時、激動神のボディーから赤いオーラが弾け飛ぶ。

 まるで火山噴火だ。

 檄動神から放たれる赤の柱が天まで昇る。

 直後、激動神に変化が訪れた。

 灰色のボディーがみるみるうちに白へと変色し始めたのである。


「赤じゃないんだ」


 半年前に見た光景が、若干の変化を取り入れて再現されていく。

 足の爪先まで白に変色すると、輝いた右足が一歩前に出る。


『ファッキン!』


 唯一、灰色のまま変色のない角が肩で揺れる。


『ファッキン!』


 輝く頭部。

 そのカメラアイが赤い輝きを放つ。


『ファッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィン!』


 今、ここに檄動神を改造して生み出された鎧専用のブレイカー、『白羊神』が降誕した。

 勿論、名前を叫んだところでスバル達には全く伝わらない。

 ただ、なんとなく機体名を叫んだんだろうなぁ、とは思った。


「今、絶対に名前を言った」

「奇遇だな。俺もそう思った」

「ボクも」

「え!? なんで皆さんわかるんですか!?」


 自分だけ仲間外れでマリリスは涙目になった。

 そんな彼女の主張を無視して、カイトは真顔で観察する。


「激動神のままだと思ってると痛い目を見そうだな」

「どういうこと?」

「お前は半年前に負けた奴を相手に、ペイントと角をつけたら勝てるのか?」

「アニメだと赤に塗れば3倍の速さになる奴がいるけど」

「それで3倍で走れるなら、俺だってペンキ被って角もつける」


 想像してみた。

 角をつけて、全身真っ赤に染め上げた神鷹カイト。

 

「……なまはげ?」

「何を想像した」


 まあ、それは置いておこう。

 重要なのは目の前にいる『元』激動神だ。


「スペックがわからない。だが、確実に前以上の出力はある筈だ」

「じゃあ、距離を置くのは」

「危険だな。少なくとも、あの必殺技は強化されてると思う」

「どっちにしろさ!」


 やることは変わりが無い。

 スバルはそう判断すると、獄翼のウィングを再度展開。

 出力を上げると、白羊神に向かって真っすぐ飛んで行った。

 鞘から刀を抜き、切っ先を向ける。


『ファッキン!』


 白羊神が右手を前にかざした。

 直後、凄まじい強風が放たれる。


「うお!?」


 獄翼が押し戻された。

 僅かに操縦桿に抵抗が発生したのを感じると、スバルは目の前の敵が何かやったのだと理解する。

 具体的に何をしたのかまでは理解できなかったが、ただ操縦桿を動かして近づける相手ではないらしい。


「カイトさん!」

「いいだろう。奴の力、見極めてやる」


 後部座席に座るカイトがアプリを起動させる。

 

『SYSTEM X、起動』


 ヘルメットが再びカイトの頭にすっぽりと収まった。

 獄翼の関節部が青白く光ると同時、カイトの意識は黒の巨人とリンクする。


『むっ!?』


 飛行ユニットの出力を下げ、地面に着地した瞬間、カイトは感じた。

 白羊神から放たれる暴風を。

 あらゆる物を吹き飛ばさんとする力を正面から受け、吹っ飛ばされそうになってしまう。


『まるで台風だな』

「アンタだって似たようなもんでしょ!」

『失礼な。台風に比べたら良識はある』

「アンタに言われちゃ台風もお終いだよ!」


 スバルの主張を聞いたシデンとマリリスが無言で頷いた。

 どうやら自分は何時の間にか災害と対等な立場になっていたらしい。


『なら、試してみるか!』


 足を踏み出し、ダッシュする。

 強烈な暴風を身体に浴びつつも、獄翼は進みだす。

 それこそ疾風の如く、だ。


 10秒もしない内に白羊神との距離が詰まる。


「やっぱアンタ、台風よりも凶悪だ!」

『喧しい!』


 結果はこちらにとって都合がいいのだ。

 いちいちそんなことを突っ込んでいると、倒せる物も倒せない。

 

『食らえ!』


 獄翼の五指から爪が生える。

 10の光の刃は、微動だにしないまま突っ立っている白羊神へと向けて振りかざされた。


『ファッキン!』


 だが、それが命中する直前。

 白羊神の手前に赤透明の壁が出現した。

 それがなんなのかを確認する必要はない。

 バリアだ。

 あれで爪で刻まれるのを防ぐつもりなのだ。


『嘗めるなよ。今更そんな薄っぺらいので!』


 しかし獄翼は躊躇うことなく、爪を壁に突き刺した。

 

『ぬ……!』


 堅い。

 直に爪を突き刺したカイトの第一感想がそれだった。

 爪は確かに壁を切り裂いてはいる。

 だが、剥ぎ取る事が出来ない。

 これまではどんなバリアでもバターの如くスライスしてきたが、こんなに抵抗力があるのは始めてだった。


「カイトさん、そのまままっすぐいけばこちらの勝ちです!」

「カイちゃん、根性見せて!」


 マリリスとシデンが好き勝手言っているが、彼女達の願いが叶う事は無かった。

 なぜなら、白羊神が左手を構えたからだ。

 脇腹で一旦貯める動作を行う、その構えには見覚えがある。


『いかん』

「サイキック・バズーカだ!」


 真っ先に気付いたのはカイトとスバルだった。

 カイトはバリアに突き刺していた腕をひっこめ、スバルは操縦桿を動かて距離を離す。


『ファッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!』


 白羊神の左手が突き出された。

 拳の先から赤の光が凝縮され、破壊のエネルギーとなって前方に放射される。

 眼前に張られていたバリアを突き破っての、力技だった。


「ぐううっ!」


 赤の閃光が獄翼の右手を掠める。

 コックピットを振動が襲うと、無機質な機械音が被害を知らせた。


『右腕大破!』

「カイトさん!?」

『大丈夫だ! 右腕がすっ飛ぶのは二回目だからな』


 全然大丈夫じゃねぇよ、それ。

 声を大にしてそう言いたかったが、今はそれどころではないのは理解している。

 右腕を消し炭にされたのだ。

 こうなってはカイトを取り込んでも再生できないし、装備されている大半の武器も制限される。

 獄翼は基本的に手で持って攻撃する武装が大半なのだ。

 それならば、腕を使わない武器で戦うまで。


『シデン、交代だ! 今ならバリアも無い。ぶちかましてやれ!』

「スバル君!」

「わかった!」


 カイトの提案を聞き、スバルが素早く後部座席を入れ替える。

 コードに繋がれたヘルメットがカイトからシデンへと覆い被さり、獄翼の意識を再起動させた。

 それに合わせ、獄翼の両足に6つの銃口が現われる。


『もう一度食らってみなよ!』


 左手で素早く銃を握ると、獄翼は発砲。

 引き金を引くと同時、両足の銃口を含めた7つの凶器が火を噴いた。

 銃口から氷の弾丸が発射される。


『ファッキン!』


 だが、それらの弾丸は白羊神に到達する前にその動きを止めた。

 回転が止まり、地に落ちる事も無く眼前で留まり続ける。


「嘘!?」

「何あれ、映画かなんか!?」


 マリリスとスバルが驚愕の表情を晒し出す。

 すると、白羊神は掲げていた右手で握り拳を作り出した。

 一瞬で拳を解き放つ。

 指を弾くような動作だった。

 しかし、その指に押し出されるようにして、氷の弾丸が獄翼に向かって反射する。


『ええっ!?』


 想定外の展開を前にして、次の引き金を引こうとしたシデンが慌てふためく。

 跳ね返された氷の弾丸が、獄翼の胴体を掠めた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る