第29話 vs元に戻れない関係

 愛ってなんだろう。

 今日は懐かしい顔ぶれからそういう言葉を聞く気がすると、カイトは思う。

 子供の頃に見た宇宙刑事は『躊躇わないことさ』と教えてくれたが、それが人を狂気に走らせるかは非常に疑問ではある。

 いや、確かに躊躇わなければ人間はなんでもできてしまうだろう。しかしそれで自身を殺す選択を取るのは、果たして愛と呼べるのだろうか。

 

 後で調べたが、一般的に愛とは相手を守ってあげたいと思う気持ち。

 いとしいと思う気持ち。

 かわいらしいと思う気持ちを指すらしい。

 

 では果たして愛してるとか、愛して欲しかったといった少女のことをカイトはどう思っているのだろう。

 結局のところ、一番肝心な点はそれなのだ。

 カイトがそれをハッキリさせないから、話の流れが妙な展開になっている。別に嫌いならハッキリとそういえばいい。それはカイトだって理解している筈だ。もしも理解していないのであれば、彼の保護者であるエリーゼの人格を疑うレベルである。彼の同居人であるスバルは、今回の一件をそう捉えていた。


 だがここにきて始めて、カイトは戦う以外のアクションを起こした。

 アウラがダークストーカーから身を投げて、ようやくである。彼はアウラと同じように後部座席からコックピットを開き、獄翼から飛び出す。


「あ、アンタこの一大事に何する気!?」


 後ろからスバルが何かいってくるが、すべて無視した。対応している時間すら惜しい。

 カイトは獄翼の腕を伝い、全力で走った。そして勢いをつけ、アウラと同じように飛び出した。

 身体が弾丸のように空を切る。アウラとの距離は見る見るうちに縮まっていき、伸ばした手が彼女の腕を掴んだ。


「リーダー?」


 瞼を閉じたアウラが目を開き、腕を掴む存在に驚愕する。思わず何度か瞬きをしていた。それほど意外だったのだろう。

 それもその筈。カイトだって自分のやっている行動が意外だった。気が付けば、すでに走り出していたのだ。そして理性がどうこういう前に、飛び出していた。理性が自分に抗議し始める頃には、既に彼女の手を取っていた。


「何やってるんだろうな、俺は」


 自分自身に向けてカイトはいう。獄翼とダークストーカーのコックピットは地上10m以上。XXXとして鍛えられた身ならば、着地は容易だろう。

 ところが、今回に限ってはそうはいかない。アウラは頭を意図的に地上に向けていた。これで大地に叩きつけられれば、いかに新人類とはいえ何のダメージもないとは思えない。更にいえばダークストーカーが落とした巨大な刀も転がっている。もしもここに落ちたら体は真っ二つになっているだろう。


 敵なんだろう。ならそれでいいじゃないか。

 

 カイトの中の理性がそう叫んだ気がした。

 だが身体がいうことを聞かないので、勝手にしろと命じた。すると、カイトは自然とアウラの手を引っ張っていた。


「どうして?」

「体が勝手に動いてた」


 アウラの疑問は、そのままカイトの疑問だった。

 6年前、全部に見切りをつけたつもりだった。ゆえに今更情が湧くわけがないと強がっていたのだが、案外そうでもなかった。

 

 結論からいおう。カイトはシルヴェリア姉妹が嫌いである。

 始めて会った時からよく泣くし、付きまとうし、おねしょはするし、任務で失敗はするし、口を開けば『リーダー』としかいってこない。

 うるさかった。何度か耳栓を持参したこともあったが、耳を塞いでも視界の中に入ってくるので無視もできない。当時はエリーゼの頼みということもあり、無下にはできなかったのもある。

 もしも彼女から頼まれなかったら、誰か適当な同期に面倒を押し付けていただろう。彼女たちの一方的な好意は、カイトにとって迷惑以外の何物でもなかった。


 ところが、それなりにいい年になった今。カイトはその姉妹の片割れを助けようとしていた。これには自身でも驚いている。

 シルヴェリア姉妹に対する哀れみがそうさせたのか、それとも情が今更湧いてきたのか、もしくは何もいわないで別れたことを後悔していたのかもしれない。


 だが、全部今更だ。


 今回は身体が勝手に動いた。カイトが自分の起こした行動を上手く言葉にできない以上、スバルが望んだ答えではないし、カイト自身が納得する回答ではないと思っている。

 抱いた感想といえば、カノンもアウラもしばらく見ない間に大きくなったな程度だ。


 逆にいえば、そう思うくらいの関心がカイトにはあった。


 もっとも、当の本人はまだ無自覚だったのだが。


「離してよ」

「やだ」

「やめてよ! なんで今になって手を伸ばしてくるのよ! ずっと待ってたのに!」


 アウラは泣き叫びながらも、カイトの手を放そうとしなかった。

 離せといいながらも、本人が離す気がないなら意味ないな、とカイトは思う。


「じゃあお前から離せよ」

「いやよ!」

「おい」


 なんだその返しは。

 カイトは思わず困惑した。支離滅裂どころではない。なんで数秒前に離せといったくせに、今度は離したくないといい出すのか。


「またどこかに行っちゃうんでしょ!?」


 その問いかけに、そうだ、と答えるのは簡単だ。しかしカイトはすぐにそれをしなかった。

 何故ならば、彼は自身の身体に僅かながらの違和感を覚えていたからである。背中が宙に引っ張られ始めているのだ。


「……リーダー?」


 カイトの困惑が伝わったのか、アウラが不思議そうな顔をする。その瞬間、彼の身体に繋がれた無数の銀の線が走り、カイトの肉体を締め上げた。


「――――っ!」


 声にならな痛みがカイトの身体を駆け抜ける。彼は焦点の定まらない目を必死に凝らし、いつの間にか真上にいた攻め手を睨む。


「またお前か、エレノア」


 その名前が出た瞬間、カイトとアウラの落下が停止する。ふたりは視界に捉えるのすら難しい銀の糸に絡め取られており、全身を締め上げられている。

 さながら、蜘蛛の巣に引っかかった獲物のようであった。


「カイトさん!」

『アウラ!』


 二機の黒いブレイカーから、スバルとカノンが叫ぶ。二人には何が起こっているのかわからなかったが、第三者がこの場に介入してきたのだということだけは理解していた。

 そしてやや時間を要した後、犯人が誰であるかも理解する。


「はぁい。エレノアだよ」


 カイトの真上。上空に黒い穴が浮かび上がり、その中から美女が這い出てくる。3体目の人形は、前の2体とはまた違った特徴があった。

 しかし最早個人の特徴では収まりきらなくなりそうなので、カイトはそれ以上のツッコミを入れないことにする。


「まだ生きてたのか。人形ごと焼かれたと思ったが」

「残念だけど、人形のストックがある限り私は不死身なんだ。つまり、君がいる限り私は死なない」

「やめろ」


 なにが悲しくて人形オバサンのストックにならなければいけないのか。もしもこれが就職先なら、こちらからお断りメールでも出してやりたいところだ。

 しかし今回はメールを出す手間は省ける。ブレイカーに乗っている同居人の少年に頼んで、エレノアを追っ払ってもらおうとカイトは思った。

 

「スバル」

「止めておきなよ」


 カイトの考えをあっさりと見抜いたエレノアが、彼を静止する。こちらを見下ろしていたスバルとカノンの動きが止まった。

 ふたりの首に、小さな蜘蛛が飛びついてきたのである。蜘蛛の尾から小さな針が飛び出し、スバルとカノンの首筋につきつける。エレノアの作り出した小さな玩具だった。


「もう巨大ロボットの介入なんてコリゴリだからさ。保険は掛けなきゃね」

「……人形専門だと思ってたが」

「専門は人だよ。でも、それ以外も作るさ」


 恐らくはアウラとカイトがコックピットから出て行った際に仕掛けておいたのだろう。復活の早さもさることながら、用意周到である。

 特にエレノアは、先程自分を刺したカノンのことを決して忘れてはいなかった。彼女が身体に電流を流す前に牽制を行うのを忘れない。


「あ、そうそう。根暗ちゃんにいうの忘れてたけど、妹ちゃんとカイト君を助けたかったら妙な真似しない方がいいよ」


 アウラの首に巻きつく糸が締まる。首筋から赤い染みがじんわりと浮かび上がり、アウラは悶絶した。


『貴様……』

「君にやられたの、結構痛かったんだよね。一応立場的には味方だけど、さきにやったの君だし文句ないだろ?」


 ない筈がない。文句大ありである。

 しかし悔しいことに、エレノアの言葉は大体正しかった。アウラだけではなく、カイトやスバルまでもが一瞬で彼女の手に収まっているのである。カノンが暴れたところで、彼女の手が届かない誰かが犠牲になるのは目に見えていた。


「ああ。そういえば」


 カノンにいってから何かに気付いたエレノアは、わざとらしく手を『ぽん』と叩くと挑発的な笑みを作った。


「痛かったので思い出したけど、そういえば私、アレで結構ムカついてたんだよね」


 エレノアが右手を挙げる。ソレと同時にアウラの身体がぐるん、と逆さまになった。アウラの長い髪は宙に垂れ下がり、動きやすさを重視したスパッツがもろに姿を現す。

 普段ならここで血相を変えて激怒するところだが、今のアウラにはそんな余裕はない。身体中を締め上げる銀の線が、彼女に苦悶の表情以外の動作を許さなかった。


「君の妹ちゃんも首からいっとく? ポキって」


 その一言にカノンが激怒して首筋から電流を流したのと、カイトが動き出したのは同時であった。

 カイトはエレノアの挑発にカノンが乗るだろう、と考えたうえで行動を開始していた。あの娘は表情が読みにくい髪形をしてるくせに、非常にわかりやすいのである。


 まず彼がおこなったことは、自身に絡む糸の駆除だった。力づくで糸から腕を引き抜き、爪を伸ばして上半身の糸を叩き斬る。


「あ!」


 エレノアがそれに気づいた時には、既にカイトは糸を頼りにアウラの元へと飛び付いていた。カノンの電流に気を取られた、一瞬の出来事だったのである。


「借りるぞ」


 カイトが切断した糸を手に取り、アウラのローラースケートに巻き付ける。それを見て焦るのはエレノアだった。彼女はカイトが何をしようとしているのか、理解していた。

 アウラが何かいいたげに表情を緩めた後、口を開く。


「あ――――」

「喋るな。喉が千切れるぞ」


 アウラを止めた後、伸びた爪がローラースケートに振りかざされる。

 折角用意した蜘蛛の操作も忘れて、エレノアが新たな糸をカイトに向けて伸ばしてくるが、もう遅い。彼の爪はローラースケートに叩きつけられ、その小さな車輪は猛烈な勢いで回転を始めた。

 先端に括り付けられた糸が、ローラースケートの回転速度と比例して巻き取られていく。


「うわっ!?」


 エレノアの身体が急速に引っ張られた。彼女の糸はアルマガニウム製である。あまりに細く、場合によってはピアノ線のように見えるソレは、いかなる場面でも人形を操作する為、滅多なことでは千切れない。

 職人、エレノアの拘りの逸品だ。これを一瞬で千切れるとしたら、それは同じくアルマガニウムを使用した武器か、巨大な質量で引き千切られるかだろう。現にカイトは何度もそれでエレノアから脱している。


 だがカイトは同時に、それが彼女の弱点でもあることを理解していた。


 この糸は頑丈ゆえに、自分からすぐに手放すことができないのである。だからこそ彼女の周りには常に人形がいた。どんな時でも第三者視点に切り替える為に、だ。

 そして今回も、恐らく潜んでいるだろう。


 カイトはエレノアの落下に従い、糸が緩んだ瞬間に山道を見渡す。この広大な木々の間に、コメットが潜んでいる筈だと彼は睨んでいた。

 実際、その通りである。コメットは木々の間に浮かぶ影の中に隠れるようにして状況を見守っていた。そしてエレノアが危機だと知った瞬間、空間に穴を空けて新たな人形を用意し始める。シルヴェリア姉妹は既に頼りにならない。アウラはまだ使えると思っていたが、彼女まで王国の目的から逸脱した行動をとるのであれば、リーダー共々エレノアに倒してもらった方が手っ取り早い。コメットはそう考えていたのだ。


 そして落下した瞬間を狙って、コメットが新たな人形を配置しようとしたその瞬間、彼は滝のような汗を全身から噴き出した。


 カイトと目が合ったのである。

 

 思わず口元がひきつったのを、コメットは自覚した。

 それを見たカイトが不敵に笑う。


「いいところにいるじゃないか、ゴミネコ」


 カイトの呟きは、コメットの耳には届かない。しかし黒猫の小さな体に猛烈な寒気が走った。何かやる気だ。その確信が、彼にはあった。

 だが、ただ落下していくだけのカイトに何ができるというのか。上には同じく糸を引っ張られ、落下してくるエレノアがいる。真っ先にこちらを倒しに来るのであれば、その瞬間にエレノアと挟み撃ちになる。そうなればコメットたちを倒すどころではない筈だ。


 大丈夫だ。彼がいかに規格外でも、まだ焦る必要はない。

 エレノアが破壊された瞬間を狙って、次の人形を冷静に配置すればいいのだ。コメットはそう考えると、深呼吸。自身の役割を果たす為、状況をギリギリまで見極めることに徹し始めた。


 カイトがアウラを抱きかかえ、右手を伸ばす。

 その大きな手は山道に降り立ち、指は大地を抉ってカイト自身とアウラのバランスを支えている。簡単にいえば、片手で逆立ちしている状態だった。


 一方、アウラのローラースケートの回転は止まらない。

 エレノアの糸はその回転によって絡め取られ、浮いていた人形をカイト達の元へと引き寄せていく。

 彼女は人形から伸びる糸を切り離せない。できたとしても、それは他の糸でカバーして順番に切り離す必要がある。ローラースケートの車輪に結ばれた糸は、2,3本だけではなかった。

 カイトは一瞬でその辺の使えそうな糸を手繰り寄せ、それを結んでいたのである。既にローラースケートは集まった糸によって毛玉のような形状に変化しており、不細工な造形となっていた。


「くっ!」


 エレノアが焦りの表情を止められないまま、ローラースケートの影と重なる。その直前に、カイトの身体がしなった。

 彼は右足を勢いよく振りかざし、片手で自身とアウラを支えた体制のまま、エレノア目掛けてそれを叩き込む。強烈な蹴りがエレノアの頭部を砕き、人形を勢いよく吹っ飛ばす。ローラースケートの車輪が、今度はエレノアに引っ張られて逆回転をし始める。カイトは足から爪を伸ばすと、空に蹴り上げてローラースケートに絡む糸を切断した。

 今度はエレノアだけが横に落下していった。


 その先に居たのはコメットである。

 彼は隠れ蓑からその様子を見ており、エレノアが蹴り飛ばされた瞬間には己に襲い掛かる人形の未来予想図が頭の中に完成していた。

 急いで転移して、この場から離れようと身を翻す。

 だが穴に飛び込む直前、吹っ飛ばされたエレノアの人形が小さな黒猫の身体を押し潰した。強烈な衝撃が黒猫を襲う。薄れゆく意識の中、黒猫は自身が空間転移の穴の中に飲み込まれたことを理解した。

 それは同時に、今来ている追手全員がカイトとスバルに敗北したのを意味している。

 次に意識を戻した時、ディアマットやタイラントにどう言い訳するか考えながらも、コメットの意識は闇の中に沈んでいった。





 スバルは首にこびりついていた蜘蛛の人形が動かなくなったのを確認すると、それを思いっきり放り投げる。

 彼は獄翼のコックピットから降り、同居人と弟子の妹の元へと真っ先に走って行った。


「カイトさん、大丈夫か!?」

「……疲れた」


 スバルの顔を見て、真顔でカイトはいう。それを見たスバルは『まだ大丈夫そうだな』と思いながらもアウラの方を確認する。彼女の方は重症だった。エレノアによって締め付けられた身体は、致命傷になりかねない程のダメージを与えていた。

 特に喉が酷い。締め上げられた跡がまだ残っており、皮膚には血の痕跡がある。素人目から見ても、呼吸困難になっている可能性すらある。彼女の目は何処か虚ろだった。


 だが、もうひとり目が虚ろになっている人物がいた。

 カノンである。彼女もまたダークストーカーから降り、カイトとアウラの下へとやってきていた。ただ、スバルとは違う点がある。

 彼女の手に、包丁が握られていた。カイトの爪とやりあっている、アルマガニウム製の凶器だった。


『リーダーは、もう私たちを必要としてくれない』


 ぶつぶつと機械音声の電子音が鳴る。ゆらり、とふらつきながら近づく姿は非常に危なっかしく見えた。


『アウラも私から離れた。師匠も。もう私には、なにもない』


 ならばどうするのか。エレノアの手が下されなくても、アウラはあのままいけば、また身投げと同等の自虐を行うだろう。最後まで共にいる筈だった最愛の妹まで、手の届かないところに行ってしまった。

 それを理解した瞬間、カノンは嘗てないほど揺さぶられていた。心は激しく動揺し、それに比例するように電流が包丁を駆け巡る。


『なら、せめて幸せだった頃のまま』


 カノンが包丁を握り直し、走り出す。

 狙いはカイトとアウラだ。妹の望みは完全に断たれてしまった。それで絶望し、身投げしたのだ。ならば彼女の為に、その手伝いをしてやろう。

 カノンはそう思いながらも、まっすぐ突進していく。


 だが、彼女の前に影が立ち塞がった。スバルである。

 彼は両手を広げ、倒れたアウラとカイトを隠すようにしてカノンの前に出た。少年の鼻先で包丁が止まり、カノンがいう。


『退いてください』

「いやだ」


 明確な否定の言葉だった。カノンは師に向かい、尋ねる。


『それは、私が嫌いだから拒否するんですか?』

「違うよ。妹さんやカイトさんもそうさ」

『でも、リーダーは私たちに関心を示してくれない。それじゃあ意味が無いんです』

「関心なら、あるだろ!」


 コックピットから真っ先に飛び出した姿を思い出す。

 そしてカイトはダークストーカーとの戦いの中で、『あんなこともできるようになったのか』とぼやいていた。それだけ見れば、関心がないなんていえない。


「君には見えなかったのか!? あの人が真っ先に妹さんに手を伸ばしたんだぞ!」

『!』


 カノンが息を飲む。その腕が震えはじめたのをカイトは見たが、それを知ってか知らずか、スバルは続けざまにいった。


「無茶して目が見えなくなりかけてるけど、そんな身体になってもまだ妹さんを助けてくれたんだぞ! すっごくわかりづらいし、何もいってくれないけど、この人がやってくれたんだ」

『う、うぅ……!』


 カノンの身体が震えた。正直なところ、傍から見れば誰もカイトが目の不調を抱えているとは思わないだろう。スバルも大使館での戦いを実際に見ていなければ、気付けた自信はない。


「もう君の望む関係には戻れないかもしれない。でも、信じてやれよ! 大切な家族なんだろ!」


 それが致命傷になった。カノンが崩れ落ち、両手が地につく。幾つかの水滴が両手の間に零れ落ちたが、それを見たのはスバルだけだった。


『なんでですか、リーダー。どうしてあの時、何もいわずに消えたんですか……』


 幾度目かの問いかけを聞いたカイトは、何も答えなかった。

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