エクシィズ ~超人達の晩餐会~

シエン@ひげ

『シンジュク決戦編』

プロローグ ~ある日の同居人との他愛のない会話~

 隣にいる慣れ親しんだ人間が、実は人知を超越した力を持っていますといわれたらどんな気分になるだろう。


 自分がアニメや小説、あるいは漫画だったりゲームの中に出てくる奥儀を取得できるといわれたら、喜んで使い方の説明を問いただすだろうとスバルは確信している。カッコよくて美しい異能の力と言うのは、大体の人間が憧れるのだ。

 思春期であるスバルの年齢なら特に。

 しかしそれは自分ではなく、別の人間が持っている。

 スバルは横で遅めの昼食を取る同居人の青年に視線を送った。弁当の白米を口に運ぶ同居人と視線が重なる。


「……なんだ」


 訝しげな視線を返された。この少し無愛想で、それでいて目つきが妙に鋭い青年と同居し始めて今年で4年になる。始めて会った時は視線を送ってくるだけで、常時観察されたのを覚えている。年は向こうが上の筈なのだが、警戒心の強い子供と暮らし始めたような錯覚さえ覚えた始末だ。


 そんな彼は、力を持っていた。


 その事実は街の人間なら誰もが知っている。彼は街で唯一力を持った人間だった。

 だが、力を持っていることは知っていても、それが具体的にどんな物なのか。 それをスバルは知らなかった。彼との付き合いも長い。いい加減、隠しごとを一切なしにした『ハラを割った話』という付き合いをしたかった。


「アンタはどんな力を持ってるのかなって思ってた」

「そうか」


 答えてくれることを少しは期待していたが、ある程度予想した通りの言葉が返ってきた。彼は話したくない話題になると大体この一言で済ませてしまう。

 明確な拒絶の意だった。


「見せてくれないの?」

「見せる意味があるのか?」

「いや、無いな。興味があるだけだし」


 スバルがそこまで言い終えた後、同居人は少々考えるように目をつむる。

 数秒もしないうちにまた瞼を開けた。


「見せるような物でもないさ」

「でも、今見せてもいいかなって考えただろ」


 食い下がるようにスバルがいうが、同居人はどこか遠くを見つめるような、虚しそうな表情をしていた。


「確かにそう思ったが、別にいい物じゃない。自慢にもなりはしないさ」


 力を持った青年は、そういって昼食の続きをとる。バイトの休憩時間が終わるまで10分程度だった。

 遠く離れた土地では力を持った人間が集まり、自分たちが世界をおさめるのに相応しいのだ、と主張しているらしいが当の本人である彼はその力について否定的である。


「力が地味なの?」


 気になったので、何も考えずに口に出す。


「地味か派手かの問題じゃない。力があるっていうは、お前が思うよりも楽しくないってだけの話だ」

「でも、アンタだってそれを使って便利だと思ったことはあるんじゃないの?」


 結局のところ、人間は自分の持つ特技が強大であればあるほど自慢したがるものである。少なくともスバルはそう思っていたし、目の前にいる6つ年上の青年もそうだろうと勝手に思っていた。


「無いと言えば嘘になる」

「ほら、やっぱり」


 どこか勝ち誇った表情をするスバルに、同居人は怪訝な表情をする。

 昼食が中々進まないことに対する苛立ちも、多分に含まれているのだろう。


「なにがやっぱりだ」

「いいなぁ、て僻んでるんだ。俺だって出してみたいんだよ、こう、ばぁーっ、てド派手なエフェクト出して敵を倒すような大技!」


 両手を広げてド派手さをアピールするが、青年は特に興味も持たない様子だった。

 ただ、彼が興味を持ったのは別の言葉である。メンチカツを飲み込み、口元についたソースを拭ってから少年に尋ねる。


「お前の敵って、誰だ」

「え?」

「お前は今、自然と敵って口にしたな。お前に敵がいたとは驚きだ」


 やや皮肉っているかのような口調が、スバルに突き刺さる。

 同居人は彼の表情が変わったのを確認してから、再び口を開いた。


「知ってると思うが、今はお前の同類と俺の同類は戦争中だ。お前が敵っていうのなら、俺が敵になるな」


 真剣な眼差しでスバルが射抜かれる。会話だけで見れば、ちょっとした冗談だと受け取ることもできたのだが、そう感じるにはこの男はいささか冗談を言わない上に几帳面だ。


「じょ、ジョーク……だよ、な?」


 顔中が汗だくになりながらも、スバルは尋ねる。

 それを見た同居人は意地悪な笑みを浮かべた。


「別にその気になっても構わないぞ。俺と暮らすのが嫌になったら、何時でもこい。相手になってやる」


 多分、彼なりのジョークだ。だが、それにしてはいささか度を越している上に、やけに自信満々な表情をしているのがスバルには不気味だった。


 常々感じていたが、彼と自分たちの間には見えない隔たりがあるように思える。育ってきた環境が起因しているのか、それとも生物としてのDNAの違いがそうさせているのか。

 いずれにせよ、丁度いいことに彼らとスバルたちを明確に分別する言葉がある。


 力を持つ新人類と、力を持たない旧人類だ。

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