木漏日光はとりあえず殴る。

むくくん

第1話 平急人の何とも言えない出来事。


 平凡な高校生である僕は、窮地にあった。

ひ弱な僕がヤンキー三人に囲まれてしまっているのだ。

これを窮地といわずなんというのだろう。

「おい、足りねーじゃねーか!!」

ヤンキーの栄太くんが怒鳴る。怒鳴られてお金が出てくるなら僕は貯金箱に向かって怒鳴るであろう。だから怒鳴らないで欲しい。

「お金は無いところからは出てきませんよ・・・。」

少し本心を濁して言ったのだが、どうもダメらしい。

栄太は、「ふざけてんのかてめぇ!??」と怒り心頭の様子だ。

そうか・・・。殴られて済むなら殴られよう。


そもそも毎月の小遣いが5000円の僕に、月の中ごろに5000円を寄こせというのがそもそもの間違いじゃないか。

ゲームセンターで落ちものパズルゲームの「びちゃっとびちゃびちゃ」をやるのが趣味な僕には無理な話である。

そんなことを考えてもヤンキー達の怒りは収まらない様子で、これはどうしようもないなと思った。

僕のような人間は淘汰されていくのが人の常であろう。

別にびちゃびちゃがうまくても褒められないのである。

スポーツや勉強で優れてなければ・・・。


なんて殴られるついでに憂鬱に浸ろうとしていた。

晴天の霹靂であるが、なんかヤンキー日板くんが急に倒れている。

は。突発気絶症候群であろうか。

そんなことはなく、木刀で殴った人間がいるらしい。

ヤンキー椎名くんが叫ぶ。「てめぇ何しやがる!」と。


「いや、久々に殴りたくなって・・・。」と答えるは少女。

学校一番の問題児の木漏日さんであった。

「てめぇ、ただじゃおかねぇぞ!」

ヤンキー栄太は殴りかかるが、見事な後ろ回転の回避からの木刀。

「やっぱ人を殴るのは楽しいねぇ!」

これを言っているのは木漏日さん。もうどっちが悪いかわからない。

木漏日さんは日板くんに後ろからガッチリと捕えられてしまった。

立ち上がる栄太くん。フラフラしている栄太くんを見るのは至極笑えた。可哀そうである。「てめぇの可愛い顔にあざつけてやんよ・・・。」

意気揚々に殴りかかる栄太だが、木漏日を捕えている日板が急に倒れるものだから上手くかずに木刀で思いっきり顔面を殴られてしまった。


木漏日の手を見ると、スタンガンである。

日板くんはスタンガンで電気ショックをかまされたらしい。

「それ、スタンガン?」と聞くと、「そうだけど?」と木漏日さん。「いやぁ、久々に気持ちよく殴れたよ、ありがとう平くん。」

「そうかい、そりゃよかったよ。でも君には良心の呵責とかは無いのかい?」

「そんなものはないなぁ。私は殴りたいときに殴ってるの。」

そう笑顔で言われてしまっては、返す言葉も無かった。

「そうこれ、君に渡したかったんだ。」そう言って木漏日さんは安そうなスマホを渡してきた。

「なにこれ?」「キミ用のスマートフォンだよ。私のグループに入ってほしくてさ。それじゃ今度電話するよ!あ、それはお金いらないからー!!」

と意味不明なことを叫んで木漏日さんはどこかへ走っていってしまった。


さてこのスマートフォンはどうしようか。木漏日さんのグループとはなんなのか。

さっぱりわからないけど、なにか嬉しかった。

これからどうなるのかな。

そう思うと笑みが零れた。

しかし、木漏日さんは想像以上に破天荒な人だ。

稲妻のような人だなと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る