第2話 思い出の賛美歌 その7


 あれから三週間後、私は飛行機に乗っていた。あの後、誰が呼んだか救急車がかけつけて運ばれていった。直哉は両足を複雑骨折しただけで後遺症もなく退院できるらしい。

 医者曰く『なんであの高さから落ちてこの程度ですむのだ』と熱弁された。

 一応、口裏合わせで直哉が足を滑らして落ちたことにしたけど、警察にも思いっきり事情聴取をうけた。実際には思いっきり直哉を投げ飛ばしたら、片付けでガラス戸が開いたままになっていて、そのまま落ちて行ってしまったのだ。

 さすがにあの時は本当にやってしまったと思ったけど死んでなくて何よりである。

 それから直哉の看護していたのだけど、病院内で私の知らないうちにどうも直哉に彼女ができたらしい。直接はまだ会ってないけど直哉のうかれ方はこっちでさえ腹が立つ。

 とはいえ、せっかく直哉に彼女ができたのだし、二人の仲を割って入るのも悪いと思って前に見つけたあれに挑戦しようとこうして飛行機に乗っていたりする。いつもなら絶対に残って彼女の動向を探って、からかうネタ探すところだけど今回は私が悪い訳のだし。好きにやれ直ちゃん。私は応援しているぞ!

 そんなこんなで私はグロッセル王国に向かっているのだ。一通り読んだ資料をひざの上に置くと宙を見上げる。飛行機は一度空港を経由してグロッセル王国に向かうことになる。

 飛行時間十七時間、寝ても覚めても飛行機の中。はっきり言ってうんざりしてしまうほどの長い空の旅。何度も王国の資料を読んだが暇な時間というのはできてしまう。

 思わずうたた寝をしてしまっていたらアナウンスが流れていた。

「お客様もうじきグロッセル空港に着陸いたします。シートベルトを締めて、もうしばらくお待ちください」

 私はその声を聞いて慌てて目を覚ました。もうじきグロッセル王国に到着する。

 グロッセル王国は近代的な技術を率先して取り入れ発展してきた先進国のひとつである。海に面し、カルバッタ郊外を始めとする森林地帯が多く残った自然に恵まれた国である。国境付近にはリニアモーターカーが備え付けられていて国を一周できる。他の国の流通などにも役立っている。この国の有名なところは大統領政府があるにもかかわらず、王政がいまだに存在して根強く政治に干渉して動かしていることだろう。

 私は飛行機から降りて簡単な手続きを済ませに向かった。紺色のジーンズにジャケット。中には黒地のシャツを着込んでいる。靴は足首を覆った軍隊が装備していそうな重みを持ったブーツを履いている。旅は身軽な格好で動きやすく丈夫のものを私は好んで着ている。海外なんて大抵こんな仕事のときしか行かないし、そもそも観光できている訳ではない。

 単にお洒落に疎いせいなだけなんじゃないのって直哉には突っ込まれたけど。

 そんなことを頭の中によぎりながら笑顔で応対してくる入国審査官が出てきた。私は入国申請書の記入欄にサインする。

 私の腰には携帯用のパソコンを身に付けている。これは体のナノマシンが異常を発生した時の用意である。異常を即座に修正しないとと命取りになるからである。

 手続きを終えると大人が入れそうなトランクを引きずり空港の出口へと向かった。

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