摩天楼・華

-彼女がお花(ご祝儀)を付ける訳-

「なんなんそれ」

「こないしてな、セロテープ後ろに貼ってくっつけるねん」

「なんでそんなことするん」

「きれいやろ、まあるい花みたいで」


さっき休憩時間に作ったまあるい花をまあこは舞台で踊る役者にあげた。

その役者が出てきて踊り出したらそわそわし出し、

お財布とハンカチ入ったくたびれたヴィトンのバッグを

「ちょっと持っといて」と私に渡し、

踊ってはる最中のその子の胸に、

髪止めのピンで、

まあるい花を付けて咲かせた。


「あんた」

「何いな」

「あれ何枚くらいくっつけたん」

「あああれかいな」

「あんなんして。あんたそんなお金あるん」

「あるかいな。あんたかて知ってるやろ。うちのお父ちゃんの稼ぎ少ないん。

40越してもたいした役職もつけへんで子供私立にもいかされへんのに、

そんな持ってる訳あれへんやないの。あんたと一緒や」

「ほななんであんなん」

「毎日こつこつためてんねやがな。

あんたと一緒にレジ打ったパート代、お父ちゃんにうまいこと嘘ついて。

毎晩のお父ちゃんと和子のおかず1品削って。

バリューとライフ梯子して10円でも安い肉と野菜買うて、

近所の奥さんが出来ひん縫いもんして小銭稼いで」

「そこまでして」

「あんた見てたか。可愛いやろあの子。

花つけたら可愛い顔で「ありがとうございますて~」言うて。

可愛いやろ。さっきもせやがな。

あんたなんや恥ずかしい言うけどあれ「送り出し」言うねん。

舞台終わった後にな、

あないして役者さんがお見送りしてくれはるねん。

あの子そん時でもまっ先に私んとこ来て

「おかあさんありがとう!」言うて。

ほんま可愛いわ。あんな息子おったらええのになあ」

「息子て」

「息子やがな息子息子。

こんなおばちゃんがあんな息子みたいな子ぉに変な気持ち持つ訳あれへんやん」

「そらそうやな。あはは」

「せやけど綺麗やったやろあの花」

「うん、まあるい花な。綺麗やな」

「私付けに行った時お客さんザワザワ言うてたか」

「言うてた言うてた。うわぁ言うてた。拍手しとったで」

「せやろ。せやろう。また来たってや。

あの子ほんまええ子やねん。

もうすぐ座長さんになりはるねん。応援したらんと」


初めて連れて行ってもらった帰り、

マクドで100円のコーヒーを啜りながら、

まあこはニコニコ笑ってた。

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摩天楼・華 @yumemaboroshi

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