振り返ってみても一緒に歩いている。《今日はどうする?》

筆々

第1話

 チリチリと肌を焼くような日差しの下、僕は歩いていた。

 懐かしいやあんなことがあったと想いを馳せるよりも先に、体が暑さに対応しきれなく、様々湧き上がってくる記憶の羅列を暑いの一文字で上書きされていく。


「……クソ、何で東京より暑いんだよ。これなら沖縄に住んでた方がまだ諦めがつく」


 僕は悪態を吐き、懐かしき校舎を見上げる。


 今日は墓参り――高校3年間を過ごした最も騒がしい記憶のある場所であり、僕は毎年ここに訪れていた。


 律儀に毎年訪れる必要のないのだが、体が、心がここに来るように呼びかかる。

 それは呼ばれているからなのか、それとも懺悔の気持ちからなのか、僕には判断することは出来ないけれど、最早習慣となっているこの行動に意味を付加することは無意味だろう。


「――学校は閉校か……まぁ、ろくな生徒がいなかったから当然か」


 僕がこの牢教高校という俗世から隔離されたような、周囲が木々で隠されている学校に通っていた頃から10年の時が経ち、すっかり廃墟のようになっていた。


「廃校の廃墟――まさに天然の牢獄だな」


 ここに一人で置き去りにされたのならば、恐怖のあまり飛んでいる鳥に話しかけてしまう程度には寂しい気持ちになるだろう。


 僕は煙草に火を点け、頭を掻きながら煙を吸い込む。

 そこでふと、僕は携帯電話を取り出し、インターネットを開き、ニュースを眺める。

「こんな人のいなさそうな町で毎年よく披露するな」


 地元のニュースサイトを開いたところ、そこには稀代のマジシャンが格安でマジックをこの町の人に見せるという宣伝がされていた。

 このニュースも毎年見る。毎年この時期になるとそのマジシャン――ひき肉田 天麩羅子が町の老人や子どもを集めマジックショーを披露するのである。


「僕たち以外にも物好きがいるってことだな」


 隣の市と結合され、そろそろ消滅するんじゃないかと噂されているこの町――静岡県の山の方にある町であり、10年前はそこそこ人がいたのであるが、僕が卒業すると同時に、ほとんどの人間がいなくなったらしい。

 デカくもなければ小さすぎるわけでもない。ようは中途半端なのである。


 僕は感傷に浸るのは得意ではない。終わったものは終わったものだと割り切れる性格をしていると思っている。

 けれど、ここで過ごした3年間は何よりも頭に残っており、高校時代のクラスメートに会えば、酒の席で延々とその時のことを話す程度には引きずってる。


 もっとも、僕の青春時代の9.5割は幼稚園からの腐れ縁との思い出であるが……。

 僕はふと、こんな暑い日のことを思い出す。


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