正邪の理非
迷夢
第1話 開幕戦
事件の日、そのは高校が半休のため、俺 |東(あずま) |陸玖(りく)はリビングで寛いでいた。
そんな折に我が愛しの妹は神妙な面持ちで俺の目の前に来たのだ。そして、俺史でも高位に入る衝撃の事実を告げられる。
「ん~お兄ちゃん、これ似合うかな?」
「お、ばっちり決まってるぞ。どうした?」
「うん。これからデートなの」
デート。Dead? No. デート……
時が止まったのを感じたのだろう。清楚な恰好をした陸玖のエンジェルはその場で彼の方を見ながら口を開いた。
「……あれ、言ってなかったっけ? 私、去年の卒業式に先輩から告白されて彼氏……」
「……ちょぉっと、会ってみたいかなぁ……?」
幽鬼のように立ち上がり、妹にそう言うと彼女は困ったように小首を傾げて陸玖に告げる。そんな仕草も陸玖は可愛いと思った。
「……ん~でも、デートの邪魔しないでね?」
「……善処は、する」
確約しきれないことは約束しない。陸玖がそう言う言い回しをしたことを敏感に感じ取った妹は少し彼氏に面倒になったことを伝えようとして丁度、電話が鳴る。
「あ、もしもし?」
『あ、ごめん……ちょっと今いい?』
「うん、今丁度私も掛けようとしてた所なの……」
初々しいやり取りだ。反吐が出る。陸玖はそんなことを考えながら怨嗟の念が相手に届くように祈りつつ会話を聞きとる。
どうやら、彼の愛する妹は相手に困らされているようだ。大人げない陸玖は別れてしまえと念じた。
「え……そうなの……うん。それで、私の方もなんだけど……お兄ちゃんが彼氏に会わせろって……うん。そう。じゃあ、そうする? ちょうどよかったかもね? あはは……うん。うん……じゃあ、また駅前で……」
何やら楽しげに終わってしまったようだ。陸玖は軽く舌打ちした。そんな彼に妹は告げる。
「会うって。で、その代わりなんだけど……相手のお姉さんも来るんだって……」
「ほう……」
陸玖は妙な感心の声を漏らして彼の妹と共に出かける準備を開始した。
「姉ちゃん……そんな殺気立たないでも……」
「あら、殺気なんてそんなに出してないよ? ほら、道行く人たちは誰も気付いてない」
「ちょっとも出さないものなんだけどね……?」
あたしの可愛い可愛い弟に、彼女が出来たらしい。受験勉強で疲れていたところに付け入られてしまったのだろう。失敗した。
「はぁ……高校生になったんだから彼女の一人や二人くらい普通だよ……」
「普通って何? まさか、2股……」
「違うよ! 僕は彼女一筋だし!」
間髪入れずに反論して自分が言った台詞に赤面する弟はまさに天使。いや、大天使だ。しかし……反吐が出る。別れればいいのに。
「そっ、そもそも、姉ちゃんだってそろそろ彼氏でも作ったらどう? 花の女子高生だよ?」
「ん~これっていう相手がいないしなぁ……」
格好いいと思う相手はまぁそこそこいるし、割と惚れっぽい方だとは思う。例えばちょっと向こうを歩いてる兄妹連れのお兄さん。割と格好いいとは思えるんだけど……
「あ、東さん!」
「西先輩!」
ほう。あいつが……あの妹の方が……
「……美弥子、こいつが彼氏か……?」
「大雅、この子が彼女……?」
「「うん!」」
笑顔で初々しい感じをまだ見せる二人を前に私は先程格好いいと思った青年の手をしっかりと、きつく握って笑顔を張り付けて挨拶する。
「どうも、大雅の姉です。よくも……失礼、よろしくお願いします」
「あぁ、これはご丁寧に。美弥子の兄です……チッ……よろしくお願いします」
よし、戦争だ。
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