第拾話 【1】 久しぶりの再会
僕の攻撃で吹き飛んで行く白邪の妖気は、既にばらけています。3つにね。
だから僕は、このタイミングでお札を使ったんです。だってそうしないと、妲己さんにまでお札の効果が出ちゃうから。
「ぐっ……!! あぁ……ま、て。待って! 離……れ、るなぁ!」
「無駄ですよ、華陽。妲己さんの分離の能力は、過去にも抵抗出来なかったんでしょう? 抵抗出来ていたら、僕なんか無視して、直ぐに白邪になっていたでしょう?」
「くっ……うぅ、あぁぁ……わた、しの。私の野望がぁぁ!!」
そして、もう白邪の姿ではなくなった華陽が、そう叫ぶと同時に、体から大量の妖気を噴出していきます。
これは、どういう事? 僕はここまでやっていませんよ。
すると丁度、華陽の足下で、何かが蠢きました。
「……ふぅ。決着よ、華陽。私の分離の能力で、たった今あんたの妖気と、あんたを分離させたのよ」
「なっ……あぁ、わ、私の妖気まで……! 妲己……妲己ぃぃいいいい!!」
なんと、華陽の体から出て来た妲己さんが、華陽に手をかざし、再度分離の能力を発動していたのです。
だけど華陽は、最後の力を振り絞り、足を振り上げ、未だに膝を突いている妲己さんの頭を、思い切り踏みつぶそうとしてきます。
「死なないわよ……私は、ただでは死なないわよ! あんたらも、道連れよぉ!!」
まさか……殺生石にされていた、三大妖狐の1体、玉藻の前ですか? 復活しちゃってる!!
華陽と合体して、白邪になっていたから? それが妲己さんの能力で分離され、本来の妖狐の姿に……?
あ、頭が……いや、それよりも。早く妲己さんを助けないと!
「神風の禊!」
「ぐぁっ?!」
危ない……間一髪でした。華陽の足が、妲己さんの頭に当たる寸前で、何とか相手を吹き飛ばすことが出来ました。
「椿。あんた遅すぎ」
「あぅ……ごめんなさい」
久々の再会の言葉がそれですか?
それと「遅い」って言うのは、さっきの攻撃を止めるのが遅かったのか、妲己さんを助けるのが遅かったのか、いったいどっちなんでしょう?
するとそう言った後に、妲己さんはふらつきながらもゆっくりと立ち上がります。
「とにかく、今ので殆ど妖気が無くなったわ……それで、華陽は?」
「……石像になった」
丁度僕が吹き飛ばした直後に、石像になっちゃいました。僕に吹き飛ばされた体勢のままでね。
凄く情けない姿だけど、華陽にとっては屈辱だろうし、これはこれで良いかも。と思っていたら、その石像になった華陽から、更に妖気が漏れ出しています。しかも、石像になった華陽の体に、ヒビまで入り始めています。
「よし。このまま全ての妖気を分離させて、あいつの体から妖気を全て放出すれば、妖気を失った事と同じになる。そしたらあいつは、あのまま崩れて霧散する。私達の勝ーー」
「待って下さい、妲己さん。もう、ここまでで良いです。分離の能力を止めて下さい」
「はっ? あんた何言ってんの?」
確かに、何言っているんだってなるよね。だって華陽には、散々な目に合わされたし、大切な人を2人も奪われた。
当然、許せる訳がない。
でも、何でろう……このまま殺したら、僕も
どんな理由でも、簡単に命ある者を殺したら、それだけで、悪になる事だってあるんです。だから……。
「殺しは、しません。このまま華陽には、ここで永遠に石像になってもらいます」
「ふざけないで、椿。こいつをこんな所で生かしていたら、いつか復活して、またーー」
「そう簡単には復活は出来ないよ。華陽には、わら子ちゃんと美亜ちゃんが共同で作った、不幸しか起こらない呪いのお札を張り付けたから、そして……」
そのまま僕は、情けない格好になっている華陽に近付き、神術を放ちます。
「神風の禊」
触るとこっちにも不幸が起こるので、風で落とすしかなかったです。
華陽の石像は、ガラガラと音を立てながら、中央の吹き抜けの穴に落ちて行きました。これでもう、復活をしようにも、その穴から引きずり出すのも一苦労になります。よっぽどの華陽の信者でも無ければ、誰も助けには来ないでしょう。
「…………」
それでも妲己さんは、僕をギロりと睨みつけてきます。だけど僕だって、負けじと睨み返します。
だって今の妲己さんは、本来の姿である金髪ツインテールで、僕より少し年下な雰囲気の妖狐なんですから。そのつり目をつり上げても、あんまり怖くありません。でも、服は着て欲しいですね。
「私に近寄らないで」
「僕の方が年上に見えるから?」
「…………」
「妲己さん、無言は肯定と捉えますよ。僕の記憶の中でも、妲己さんは体の場所だけを思い出させようとしていましたよね。妲己さん本来の姿を思い出させようとして来なかったのは、こういう事だったんですね」
「うるさいわね……だいたいこれはねーー」
「分かっています。天狐様の呪術でしょ?」
「そうよ。だから……って、椿あんた。まさか!」
そうでした。妲己さんは、半年前から記憶が飛んでいる状態でした。つまり、僕の記憶が戻っている事を知らないのです。
「……バカね。私のあのメッセージ、伝わらなかったの?」
「伝わってます。伝わった上での、僕の判断です」
すると妲己さんは、呆れているのか呆然としているのか、何だか良く分からない表情になりました。
「しょうがないわね。今回はあんたが活躍したし、あんたの顔を立てて上げるわ」
「ありがとう……妲己さん」
「お礼なんて良いわよ。それよりも、私が記憶を戻すなと言ったのは、何も力の暴走だけじゃないのよ。良い? 椿、あんたは……」
それも分かっているよ、妲己さん。
妲己さんは華陽よりも、僕の事を調べていたんだと思う。ううん。僕と、僕のお父さんとお母さんの事を……かな。
「僕は、選定をしないといけないのでしょう? 選定者を止めるか、それともーーこのまま暴れさせるか。今、選定者を暴れさせているのは、八坂さん……だよね?」
「なっ……!? まさか、もう始まっているの?!」
すると、僕のその言葉に妲己さんは驚き、そして白狐さんと黒狐さん、それに天狐様にも確認を取るかの様にして、目で訴えていきます。それに対して皆は、黙って頷きました。
因みに天狐様は、人間界の様子も見られるから分かっていたのでしょうけど、僕のお父さんとお母さんは、僕の言葉から、選定がもう始まっているのだと察してくれました。
「椿、分かっているの? 選定をするという事は、あんたはーーんぐっ?」
ごめんなさい。そこから先は言わないで下さい。
多分、まだ誰も知らないと思うから。それは、僕と八坂さんしか分からないと思っていましたよ。いったいどこから……。
ただ、影の妖術で妲己さんの口を塞ぎ、無言で訴える僕を見て、妲己さんは再度呆れた顔をしてきました。そして指で、口を塞いでいる僕の影の腕を指してきます。離せって事かな?
「……ふぅ。ったく……あんたは本当に大馬鹿ね。あんた、白狐と黒狐の事はどうするのよ?」
「どうする?」
そんな事よりも急がないと。再会の喜びよりも何よりも、今は八坂さんを止めないと。このままじゃあ、人間界が大変な事になります。
それなのに妲己さんは、何故か僕の元まで近付いて来て、そして僕を見上げてきました。
僕よりも背が低いのに、何でこんなにも威圧感があるんですか? もしかして妲己さん、怒ってる?
「ふ~ん。それじゃあ、黒狐は私が貰ってもいいわけ?」
「えっ? 貰ってもというか、元々妲己さんと黒狐さんはーーつっ!!」
すると、僕が最後まで言い切る前に、妲己さんが僕のほっぺに平手打ちをしてきました。まぁ、ビンタですけど……あまりの事に、びっくりしちゃった。
「妲己さん……何を?」
「つまんないわねぇ……あんた、つまんないわよ。何それ? 私、こんなつまんない奴の中にいたの? あ~虫ずが走るわよ」
「妲己さん……?」
「ぴゃーぴゃーと泣いてた頃の椿の方が、遥かにマシね!」
なんで? なんでそんな事を? 気弱な僕の方が良いって、なんで……?
って、ちょっと待て下さい。この流れ、何だかデジャブな感じがするんだけど。
「あ~ムカつく……ムカつくからさぁ、あんた殺して良い?」
「はっ? うわっ!!」
すると妲己さんは、僕の懐に飛び込み、そして僕を突き倒して来ました。それと同時に、僕はある物を奪われていました。巾着袋です。
「あっ……! ちょっと、返しーー」
「ふん……! 嫌よ~」
だけど、妲己さんはそう言いながら、僕の巾着袋の中から、食べても元に戻る、あのいなり寿司を取り出し、それを口の中に放り込むと、一口で全部食べてしまいました。
それと同時に、妲己さんの妖気が回復していきます。ついでに服も現れて、妲己さんの体を纏っていきます。それがまさかの、ゴスロリ衣装です。嘘でしょう? 妲己さんにそんな趣味があったなんて……。
「さ~て。こんなつまらない奴が、今から選定するって? 笑わせんじゃないわよ! どうしても選定したいなら、私を倒してからにしなさい!
「……退いて下さい、妲己さん!」
何でこうなるの? 折角妲己さんを助けたのに、稲荷山の頂上に向かう道に……八坂さんの元に行く道に、立ち塞がらないで下さいよ。
それと妲己さん。その行動、酒呑童子さんと被ってます。
と言うことは……また僕は、自分の事を考えていなかったの?
いや、そんな事は……だって
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