第参話 【2】 空魔の能力

黒槌岩壊こくついがんかい!!」


 僕は湯口先輩の、七妖剣による強力な攻撃を、ハンマーの様にした尻尾で受け止め、そのまま弾きます。足を切り落とされたら、流石に戦えなくなりますから。


「よっ……と!」


 その後、地面にうつ伏せになって倒れていた僕は、腕の力を使って後ろに飛び退き、先輩から距離を取ります。

 だけど、その後直ぐに、強力な衝撃波が飛んできました。また先輩が、ソニックブームを放ったんですか。でも、それはもう無駄なんです。


「術式吸収!」


 僕には妖術だけじゃなく、術的なものならなんでも吸収し、強化して返す力があるんです。

 さっきまでは、先輩がこの前とは違うソニックブームの出し方をしていたから、ちょっと焦っていただけで、基本的に僕にはこういうのは効きません。それでも、一発いいのを貰っちゃったから、体中が痛いです。


「ちっ……そう言えば、貴様にはそれがあったな」


 すると先輩は、今度は七妖剣を僕に向けてきます。普通に物理的な攻撃だけにするつもりかな? それとも、まだ何か能力を隠し持っているのかも……。


 だけどその前にーー


「湯口先輩。聞こえていますか! さっきのは、先輩の自我なんですか?!」


「ふん。違うな……あれはーー」


「うるさいです。あなたには聞いていません。僕が聞いているのは、湯口先輩です!」


「……だから、俺がそいつだったんだよ。俺が、湯口靖そのものだ」


「違う! お前は寄生妖魔だ! 先輩に体を返せ!」


「何を言っているのやら……自分の体を、自分に返せ? 意味が分からんな」


 このままじゃあ埒があかない。

 それなら、この寄生妖魔を弱らせて、押さえられている先輩の自我を表に出します。


「良いから、あなたは黙って、僕に浄化されて下さい!」


「ぬっ……?!」


 先輩を取り戻すには、やはりこいつにダメージを与えないといけない。他のあの3人のように、寄生妖魔が弱れば、先輩の体から追い出せる。もしくは、浄化してしまえば良いんです。

 ただし、寄生妖魔が体の中にいる状態で浄化させると、湯口先輩の気力次第では、先輩ごと浄化されちゃいます。


 だから僕は、寄生妖魔に少しずつダメージを与え、先輩の体から追い出す作戦に出ます。


 だけど……。


「弱い!」


「くっ……!? ぅぅうう!」


 ソニックブームなんて強力な力を使ってくるから、ちょっとやそっとでは相手に近付けないし、ダメージどころの話じゃないです。


 今だって、御剱を勢いよく振り下ろし、寄生妖魔に攻撃をしようとしたんだけれど、ソニックブームで防がれ、そのまま吹き飛ばされそうになっています。

 白狐さんの力でなんとか堪えているけれど、これ普通の妖怪だったら吹き飛んでいますね。


「あれ? レイちゃん?!」


 それと、何だか心もとないなと思っていたら、レイちゃんが肩に居なかったです。どうやら、さっきのソニックブームで吹き飛ばされ、この空間から弾き出されてしまった様です。

 実は今さっき、レイちゃんが吹き飛ばされたらどうしようって思って、確認をしてみたのです。もうとっくに居ませんでしたよ。


「くっ……!!」


 無事なら良いんだけど。結局ここは、僕1人で何とかしないといけない。という事になっちゃいました。誰の助けも求められない。


 僕1人で、先輩を助けないと!


「強化解放!!」


「くそっ!? ここでか! はぁっ!!」


 もちろん、考えなしに突っ込んでなんかいません。ちゃんと、吸収した相手のソニックブームを使おうと思っていました。ただ、ここで使うつもりはなかったです。


「いっ……! つぅ……耳が……!」


「ふっ。耳が良すぎるのも、困りものだな。吹き飛べ!」


 そして相手も、同じようにしてソニックブームを放ちながら、僕にそう言ってきます。


 ソニックブーム同士が激突するとどうなるか。


 なんてそんな事、現実で起こった事がないでしょうから、誰も想像は出来ないでしょうね。


 ソニックブームは、戦闘機とかが音速を突破した時に発生する、衝撃波による大音響の事。

 だから、ソニックブーム同士を当てるなんて事、現代ではほぼ不可能でしょうね……。


 でも、これは恐らく、先輩がその妖気を込めて生み出したもの。普通のソニックブームではないと思います。攻撃用に改良された、特別なものじゃないかな?

 だからこうやって、僕が吸収してぶつける事が出来たんです。


 そして、それが激突し合うと……。


「うわぁぁっ!!」


「ちいぃっ!!」


 空気が爆発したようになり、数倍の威力になった大音響と衝撃が辺りに響き渡ります。

 そして僕も先輩も、その場から弾かれるようにして吹き飛び、地面に叩きつけられてしまいました。


 ここが別の空間で助かりました……。

 場所は伏見稲荷で間違い無いけれど、あの場所のまま先輩と戦っていたら、白狐さん黒狐さんにもダメージがあったでしょうね。


「うっ……先輩は……?」


「あ~これは、参ったな……」


 そしてその後、何とか体を起こして立ち上がった僕は、同じ様にして吹き飛ばされた先輩を確認します。すると、先輩はもう既に立ち上がっていて、僕の方に向かって歩いて来ていました。


「本気を出さないと、ダメか」


 そしてそう言った後、先輩の体の奥から徐々に妖気が高まり、それが濃くなっていきます。そして、額から伸びた角みたいなものは枝分かれし、二又の矛のようになり、そこに妖気が集中していきます。

 体も筋肉が盛り上がり、適度に付いていた細マッチョな体から、ムキムキの筋肉野郎になっちゃいました。


 それ、半年前に会ったあの筋肉兄弟を思い出しちゃうよ。うっ、寒気が……。


「さぁ、くらえ。怨音斬鬼おんおんざんき


 しまった。変な奴等を思い出している場合じゃなかったです。先輩がーーいや、これはもう空魔ですね。

 空魔が七妖剣を掲げ、そのまま思い切り振り下ろし、ソニックブームを刃の形にしたものを、僕に向けて放ってきました。しかも良くみたら、それが鬼の顔にも見えてきます。


「術式吸収!」


 でも、これが術の類なら、これで吸収出来ます。そして予想通り、その刃は僕の手の中に吸い込まれていきます。

 だけどその後に、僕の後ろから殺気と妖気が同時に放たれてきました。


「バレバレです! 後ろ!」


 僕は御剱で、自分の背後を振り向きざまに斬りつけるけれど、そこには誰もいなかったです。


 あっ、上だ……上から妖気を感じる。


「うーーえっ? あっ、今度は左?!」


 僕が上を向いた瞬間、今度は左から妖気を感じ、左を見たら、右から妖気を感じます。

 これいったい、どうなっているの? 妖気を感じた方を見ても、結局そこに空魔の姿は無い。正面にはとっくにいないし、いったいどこに……。


 まさか……別の空間とか、異空間を行き来できる、そういう能力でしょうか?


 そうなると、ここは多分異空間でしょうね。

 妖界でもなく人間界でもない。ましてや、狭間なんかでもない。妖魔の力を使って、空魔が作った特別な空間って所でしょうか。


「あぅっ!?」


 すると、いきなり後ろから僕の髪が引っ張られ、上に持ち上げられちゃいました。


 女の子の髪を引っ張るとか、最低ですよ。


「強化解放!」


「ちっ……!!」


 地面に叩きつけられる前に、僕はさっき吸収しておいた、相手のあのソニックブームの刃を放ちます。

 これも強化しているから、その大きさは数倍になっているし、音も凄い事になっています。


 というか、僕の耳は大丈夫かな? さっきから聞こえづらくなっている様な……う~ん。

 流石に、鼓膜はやられたかも知れないです。早く決着を着けないと、僕の耳が聞こえなくなっちゃいますよ。


 それなのに、空魔はまた姿を消しました。別の異空間に移動したのかな?


 なるほど。こうやってちょっとずつ、僕の体力を消耗させる気ですね。だけど、そうはいきませんよ。


「こういう場合、酒呑童子さんに言われたのは……」


 それから僕は、ゆっくりと目を閉じて、相手が動くのを待ちます。ここで下手に動いても、体力を無駄に消耗するだけだし、相手の思う壺です。


 こういう場合は、まず集中して、相手が攻撃する一瞬の気配を察知し、カウンターを当てる。

 多分、相当難しいとは思うけれど、修行中あれだけ酒呑童子さんに酷い目に合わされたんです。その成果、今見せてあげる。

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