第弐拾肆話 【2】 まるで酔っぱらいの喧嘩?

 物凄い衝撃波を出しながら激突する2人だけど、やっぱり若干、酒呑童子さんが押してる?


 あっ、茨木童子の刀の攻撃を受け止めた。

 その後、そのまま刀ごと押し返して、ぶん殴ーーろうとした所で、茨木童子が華麗に後ろに宙返りして、それを避けました。


 ただ、その後に酒呑童子さんが追撃しているけれど、どういう術なのか、茨木童子はそれを舞うようにしながら、フワフワと飛んで避けています。そのついでに、刀で斬りつけていますよ。


「ちっ……! 相変わらず避けるのがうめぇなぁ!」


「あなたは相変わらず、技が豪快ですね」


 そして茨木童子は、そのままゆっくりと地面に着地して、酒呑童子さんの言葉にそう返しました。


 確かに、見ていると2人は正反対ですね。


 酒呑童子さんは、豪快で大振りな技が多く、相手の攻撃も無傷で受け止める事が多い。

 それに対して茨木童子は、繊細な技が多く、隙を突くような動きをしていて、相手の攻撃を全て無傷で避ける事が多いです。


「しかし、私の目的はあなたを倒す事ではないのですよ」


 そう言うと茨木童子は、懐にしまっていた手鏡を出してきます。

 よく見ると、そこには僕の姿が映し出されていました。鏡をこっちには向けていないのに? それってまさか……!


「この転換鏡。こうやって、手鏡の様に小さくする事も出来るのです。そして、場所を転換する事も可能なのですよ。あなたの居る、その場所をね……」


 その瞬間、僕が映っているその鏡の中の風景が変化します。

 それは丁度、茨木童子の居る手前の景色です。だって後ろに、酒呑童子さんが映っているんだもん。


 そして気が付くと、僕の目の前の景色が一瞬で変化し、そこに茨木童子が現れました。じゃなくて、僕が移動したんだ!


「この程度なら、少ない妖気で出来るんですよ」


「ビックリしました。なるほど、そうなんですね。それじゃあ……」


 だからって、僕はもう慌てません。これは絶好のチャンスでもありますからね。

 目の前に、僕を過小評価している、茨木童子がいるんですから!


 そして僕はまだ、白金の毛色のままで、尾も3本のままなんですよ。


「……ちょっと、倒れておいて下さい。白金の浄化槌じょうかつい!!」


鬼刀きとう鬼頭おにがしら鬼柳きりゅう流し舞い」


「へっ……?!」


 思い切り相手の至近距離から、ハンマーにした尻尾を打ち付けたのに、それを下に降ろしていた刀で、あっさりと受け流されちゃいました。そして僕は、そのまま地面を打っちゃってしまいました。

 その場所が大きく陥没したけれど、それよりも茨木童子は、いつの間に僕の前に刀を出してきたのですか?

 気が付いたら、蝶が舞っているかの様な動きをした刀が、僕の攻撃を軽く流していましたからね。


「あなたのその姿、その力。油断は出来ませんね」


「…………そうですか」


 前言撤回。茨木童子は、一切油断なんかしていませんでした。

 だけど次の瞬間、その茨木童子の顔面に向かって、酒呑童子さんが殴りつけてきました。だけど、それも簡単に交わされていますよ。


「お優しくなったもんだなぁ、茨木童子。今の技は、カウンターで斬りつけるものだろう?」


「えぇ、斬りましたよ」


「へっ? えっ、あっ?! ぼ、僕の服が!!」


 斬ったと言われて、僕は慌てて自分の体を確認しました。

 するといつの間にか、僕の巫女服が斬られていて、胸の部分が露わに……。


「見ちゃ駄目でーーあぁ、遅かったみたい」


 なんだか無性に恥ずかしくなってしまって、僕は慌てて自分の腕で体の前を隠します。だけどその行為は、もう遅かったみたいです。斬られた部分が広くて、結構見えちゃっていました。

 それで、その……白狐さん黒狐さんが、鼻血を出して伸びちゃっています。ということは、バッチリ見られちゃいましたね。


 うぅ、どうしてこんなにも恥ずかしいんだろう。別に今までは、そんなに気にもならなかったのに、いったいなんで……?

 いや、分かっています。記憶が戻って、女の子の時の感覚が戻ったからです。だから恥ずかしいんです。


「やはり記憶が戻った事で、女の子としての感情も戻っていますね。さて、これで……おっと!」


「ふん。やっぱりそういう事をしてくるか……まぁ、お前ならやってくるとは思った。だがな、こいつを舐めるな」


 酒呑童子さんが僕の事をそんな風に言ってくるなんて……うん、確かにその通りです。

 恥ずかしがっている場合じゃない。なにか、変わりになるものは……あっ、そうだ!


 そして僕は、巾着袋から包帯を取り出し、巫女服の上を全部脱ぐと、包帯を胸の辺りに巻き付けて、それで胸を隠しました。


 今は戦闘中! 気を引き締めるんだ。僕!


 羞恥心なんてあったら、あっさりとやられてしまいます。

 僕はやられるわけにはいかない。敵の手中に落ちる訳にはいかないんです。


 そしてその後、僕は茨木童子を睨みつけます。


「やれやれ。これで何とかしたかったのですが、そうはいかないですか……地獄の呼び出しをして、体に負担をかけてしまったので、これ以上の長期戦は不利になりますね。ならば、仕方ないです」


 すると茨木童子は、指をパチンと弾き、何もない空間からいきなりひょうたんを出現させました。

 だけど良く見たら、指輪のようなものを付けているので、恐らくそれが、色んな道具を入れておく為の妖具なんでしょう。


「やっぱり使うか」


「あなたは『寝酒』を使っているんでしょう? 2つも使うと、まずいのでは?」


「馬鹿言うな。この酒呑童子に、飲めない酒は無い。それに、飲める数に限りもねぇわ!!」


「そうですか。それでは私は、3個ほど用意しましょう」


「それなら俺は5個だな」


 待って待って……!! そのひょうたんに『酒鬼』って書いてるってば! それは、副作用がキツいやつじゃないんでしたっけ?!

 茨木童子もそれを使ってくるとは思っていたけれど、どれだけ酒豪かを競わないで下さい!!


「しょうが無いですね。それじゃあ、5個ずつ飲んで倒れなかった方の勝ちと言う事で」


「おもしれぇ、乗った。いくぜ!!」


 あぁぁぁ……酒呑童子さん、それは乗らないで下さい。どうなるか分からないんですよ! って、駄目ですね。2人とも一気に、そのひょうたんに入ったお酒を飲んでいきます。


 1個、2個3個、4個……全くペースが落ちずに、ガブガブと飲んでいきます。本当に大丈夫なんでしょうか?


 そして遂に、5個目も飲み干し、お互いにひょうたんを投げ捨てます。そして……。


「ーーで、なぁんで倒れねぇんだ!!」


「何故倒れないのですか!!」


「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」


 僕の至近距離で、いきなり組み合わないで下さい! しかも、2人同時に叫びながら、同時に攻撃しているじゃないですか!

 その後に、初めに放れた衝撃波の、その数倍の威力がある衝撃波が、僕を襲ってきました。

 おかげで僕は、木の葉のように軽々と吹き飛びます。2回目ですよ……これ。


「うぶっ……!!」


 すると急に、僕の顔に柔らかな感触が広がり、温もりを感じました。


『大丈夫か?! 椿よ』


 その声を聞いて、白狐さんが僕を受け止めてくれたんだと気付きました。


『全く……あの2人何をやっているんだ』


 それに続いて、黒狐さんが呆れた様に言いました。その前にさ、2人とも何で、僕の姿を見ないのかな?


『つ、椿よ。その……代わりの服は無いのか? 目のやり場が』


「へっ? あっ、ごめんなさい。まさか、一瞬で斬られるとは思わなかったので……」


 白狐さんのその言葉で分かりました。今の僕を見たら、鼻血が出て、また気絶しちゃうかも知れないんですね。


 それ所じゃないんだけどね。


「あなたは相変わらずの大酒飲みですねぇ……飲むことしか考えていないんじゃないですか? 飲んだくれの役立たずの裏切り者が」


「あぁ? そういうてめぇも、毒舌になんじゃねぇか。酒飲むと性格変わるのは良くねぇぞ~」


「うるっさいっなぁ!! 鬼頭、怨霊豪斬おんりょうごうざん!」


「おおっとぉ! そんでキレやすい。バッカじゃねぇかぁ!? 典型的に駄目な酔い方だよなぁ!!」


「このぉっ……!!」


 あの……さっきの茨木童子の攻撃で、ここの地獄が縦に真っ二つに割れて、上の階の地獄が見えているんですけど……崩れないですか? ここ。


 そして、もう一つ……。


「白狐さん黒狐さん……あのさ、なんだか……」


『言うな、椿よ』


『あぁ……そうだな。ただの酔っ払いの、どっちもどっちな喧嘩なんて、見せられる方はたまったもんじゃない』


 そうですよね、それですよね……。


 元師弟の2人が、馬鹿な事で言い争っている様にしか見えないです。だけど、これはこれで何とか隙が出来ないかな?


 そしたら、僕も茨木童子を狙えるのに。

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