第漆話 【2】 3人のコンビネーション

 滅幻宗に囲まれていても、周りは下っ端のようだし、落ち着いて戦えば何とかなるかも知れない。それにこっちには、黒狐さんも居るからね。


 それと幹部の2人、栄空と峰空がまた分身体かも知れない。向こうは、そういうのを使うのが得意みたいだから。

 あと、分身体は札に込められた妖気が切れたら、自然に消えるそうです。あとは、その術者を倒す事。


 この2人を倒して、分身体の橋鬼が消えれば、それだけで助かるんだけれど……消えなければ最悪ですね。


 そんな風に僕が考えていると、急に周りの下っ端の人達が、僕達に襲いかかって来ました。


『ふん。妖異顕現、黒土の骸龍くろつちのむくろりゅう


 すると黒狐さんが、初めて聞く妖術の名を口にしました。

 その瞬間、地面の土が盛り上がって形が変わっていき、真っ黒な龍の様な姿になりました。


 しかも、それが大きいし長いし骸骨みたいだし、何ですかこれぇ。


『数で攻めて来られた時の為の妖術だ。さぁ、暴れろ骸龍!』


「グォォォオ!!」


 黒狐さんがそう叫ぶと、土の龍は叫び声を上げながら、滅幻宗の下っ端達を叩き飛ばしたり、体当たりして吹き飛ばしたりしていきます。


 下っ端の人達はどうする事も出来ずに、ただ人形の様に吹き飛ばされているだけ。


「あっ、いつの間に! 妖異顕現、影の操!」


 姿を消していても、僕には分かりますよ。妖気で場所が分かるのです!

 そして僕も、影の妖術を発動して、自分の影の腕をを操り、姿を消している栄空に向かって伸ばします。


「おっと、危ないですね……あなたは感知能力が高いのですか、厄介ですね」


 すると次の瞬間、黒狐さんの雷の妖術が僕の横を通り過ぎ、栄空を襲う。


「危ないですね。それにしても、もう下っ端達はダウンですか。情けない」


 避けられはしたけれど、大変助かりました。

 でもね、僕の横を雷が通り過ぎたからさ、僕の毛が静電気で逆立っているんだけど……。


『うぉ……すまん、椿……くっ、ププ。何とも愛らしい姿に』


「怒るよ、黒狐さん」


 何笑っているんですか、全くもう。

 そんな事を言っていたら、今度は峰空さんが襲って来ました。しかも、札から何か円盤の様な物を取り出して、それを黒狐さんに投げつけて来ましたよ。


 空を切る音がするので、多分危ないやつですね。


「黒狐さん危ない!」


 とりあえず、影の妖術で黒狐さんの影を操って、無理やり伏せさせます。


『ぐぉ! 何をする椿……って、何だと? 土で出来ているとは言え、俺の妖気を含んだ骸龍が、真っ二つに』


 峰空は、とんでもない妖具を出してきましたね。

 それ、ちょっとやそっとでは防げないレベルですよね。さて、どうしましょう。これはちょっと厳しいかも知れません。


 強力な妖術を考え無しで使っても、妖気切れが早まるだけだから、仕留める時とか、どうしようも無い時に使うしか無い。


「というか、あの分身体の2人は、いつ消えるんですか?」


 すると、僕の言葉に目を丸くした相手の2人が、僕の言った事を否定してくる。狐らしく、ちょっと騙してみたんだけれど、上手くいったようですね。


「私達を分身体と決め付けるとは……なるほど、先程からどうも動きがおかしいと思ったら、そういう事でしたか」


「ふふ。残念だけど、私達は分身体じゃないわ。というか、それは靖君なら分かると思ったのだけど?」


「1度騙されたんだ。そう簡単に、自分を信じられ無くなっているんだ」


 どうやら、分身体じゃなかったみたいですね。

 先輩は薄々気が付いていたようだけど、前に騙されているからか、確信が出来なかったみたいです。


 でもそれなら、捕まえてしまって、札の術を解かせれば良いんじゃないかな? あとは零課の人に渡せば、と思ったんだけれど……。


「さ~て、分かって頂いた所で、早く消えていただけませんか? 私は妖怪も半妖も、それに味方する人間も、全てを消し去りたいのですからね」


 そう簡単にはいかなかったです。

 栄空は容赦無しに、そこら中に爆発する札を投げ、次々と爆発させて、僕達の視界を奪っていく。しかも、足場まで悪くなっているよ。


「ちょっと栄空! 他はともかく、椿っていう妖狐だけは殺しちゃ駄目よ!」


「何故ですか? 妖怪は全て滅さないと……」


「それをする為に、その子の力が必要なのよ。奈田姫様の指示が聞けないの? それなら、どうなるか分かるわよね?」


 どうやら滅幻宗は、仲間同士の仲は良く無いみたいですね。こんな喧嘩をするくらいだからね。


「あ~イライラしますね。私は妖怪だろうと半妖だろうと、人ならざる者は今すぐ消し去りたいのですよね」


「それは無理よ。あなたの力じゃね」


「ほぉ……では、やってみますか?」


 えっ、待って下さい。何この妖気。

 何で栄空と峰空から、妖怪と大差無い程の……ううん、妖怪以上の妖気が出ているんですか。


 でもこれ、この妖気の質は、どこかで……。


「はい、ストップ。これ以上は止めましょう、感づかれるわよ」


「…………」


 峰空の言葉に、栄空は我に返ったのか、落ち着きを取り戻したようになって、その人から湧き出ていた妖気も消えました。


 でも僕は、この栄空が人間とは思えないようになってしまいました。

 出来たら捕まえて、その事情を聞きたいけれど、出来るかな? こっそりと術式吸収していたから、バレずに発動すれば、まだ捕まえられるかも知れません。


「術式解放! 黒鉄の鎖舞!」


 実は、術式吸収していたのは鎖の妖術。これで、鎖を太く堅く強化して、スピードも付けて一気に捕獲です。


「あら、隙をついたつもり? でも、これくらいなら……」


 そう言って、峰空は手に持っていた、刃の付いた円盤を、僕の放った鎖に目掛けて飛ばしてくるけれど、強化した僕のこの妖術は、それでは切り裂けないよ。


 その後、何回か鉄のぶつかり合う音が聞こえたと思ったら、峰空の方の武器がボロボロになって、そのまま地面に落ちた。

 そして、僕が放った鎖は傷1つ無いです。だからこのまま、相手を捕まえます。


 鎖を蛇の様に動かして、相手を翻弄させ、動きが見切れなくなった所で、一気にそれを巻き付けて御用です。


「くっ……嘘でしょう?! この私が……」


「ふん。無様なものだな、峰空」


「栄空、あんた1番最初に捕まったでしょ!」


 そうですね、栄空は抵抗すらしなかっですよ。どうしてだろう。


「おや、こんな物で私は捕らえられませんよ。こうやって、この札の力で錆びさせれば……ほら、あっという間に脱する事が出来ます」


 嘘でしょう……栄空が、札を器用に鎖に触れさせた瞬間、一気に錆びてしまって、軽々と鎖を壊されてしまいました。


『椿、問題ないぞ。こうすれば良い!』


「むっ?!」


 すると今度は、黒狐さんの妖気が一気に膨れあがり、次の瞬間には、僕の鎖が炎に変化し、相手を襲っていました。

 黒狐さんの神妖の力ですか。相変わらず最強過ぎますよ、その能力は。


 でも、相手はお札を使って爆発を起こし、その炎を爆風が掻き消しました。


「大人しくしろ! 栄空!」


 だけど今度は、先輩が札を栄空に向かって投げつけた。

 すると、見事に栄空の腕や足に札が張り付き、その部分が石化して固まっていく。


「おや……これはとんだ失態ですね」


「ちょっと先輩、流石に石にするのは……」


「大丈夫だ、剥がすと戻る」


 そうなんですね。石化するもんだから、一瞬焦っちゃいました。


「やれやれ、一気に分が悪くなりましたね……ですが」


「そうね、どうやら向こうは終わったようだしね」


「どういう事ですか?!」


 僕達に捕まったというのに、何この余裕な2人は……。

 峰空の言葉に嫌な予感がした僕は、そう問い詰めるけれど、もう遅かったようです。

 2人のいる場所に、黒い円の様なものが地面に現れ、2人はそのままゆっくりとそこに飲み込まれていく。


 これは、逃げようとしている? 違う! 誰かの手によって、逃走の手助けをされているんだ。


『くそ! 逃がすか!』


「駄目だ! 間に合わない!」


「残念~今回私達は、ただの時間稼ぎなのよ。厄介な妖狐を押さえておくだけのね。目標は、また今度捕獲すれば良いし、今日はここまでね。またね~」


 そう言って、2人は地面の影に吸い込まれる様にして消え、そのまま黒い影もゆっくりと消えていきました。


 これは、完全にやられました。


 とにかく、急いで戻らないといけません。まだ全て終わっていない。終わらせてたまるかです。


 だけど、勾玉から聞こえてくる白狐さんの叫び声が、僕を更に絶望に叩き落とす。


『クソ! 椿よ、すまん! 座敷わらしが、山神に連れ去られた! あいつはいったい何なんだ?!』

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