第参話 【2】 亰嗟2人の思惑

 それから場所を変え、僕達は今、近くの喫茶店に来ています。

 他にも一般人は居るので、ここで余計な真似をすれば、確実に目立つという事ですね。それでもそっちの妖具を使えば、目立たずにする事も出来るんじゃ無いのかな。


 長テーブルの席で、僕達は相手と向かい合わせになって座るけれど、皆警戒は解きません。


「困ったわね~そんなにピリピリされてちゃ、話せるものも話せないわねぇ~」


「あなたがそうやって、クネクネクネクネとしているからでしょう」


 この2人、あんまり仲は良さそうじゃないですね。それでも、相手の力量を分かっているから、手を出さないって感じです。


「さっ、ここは私達大人が奢るから、何でも好きな物を頼んで頂戴」


「マジっすか?! それじゃあ自分、チョコレートパフェで!」


 楓ちゃんは空気を読んでくれませんか?! というか、あなたの育ての親を殺した組織が、今目の前に居るんですよ? さっき移動する時に話したよね? それなのに、いつも通りのこの反応は、ちょっとおかしく無いですか……。


「あら~元気が良いわね~もちろん良いわよ~」


「ちょっと楓ちゃ――」


「椿ちゃん、今楓に話しかけても無駄よ。理性を保つのに必死みたいだから」


 僕が楓ちゃんに注意しようとしたら、海音ちゃんにそう言われ、止められてしまいました。

 まさか、楓ちゃんがそれだけ怒っているっていうの? 良く見たら普段通りなんだけど……逆に普段通り過ぎて怖いくらいだね。


 ここは敵地ではないし、何か盛られる心配はないと思うので、各自それぞれ飲み物を頼みました。全員、コーヒー以外ですけどね。


 ◇ ◇ ◇


「さて。それじゃあ、どこから話そうかしら」


 それぞれ頼んだ飲み物が来て、一口ずつ口を付けた後、丘魔阿さんがコーヒーを置き、そう言ってくる。


「その前にちょっと待ってくれる? あなた達は、何でそんな事を私達に話すの?」


 すると、相手が話し出す前に、カナちゃんが声を出した。

 確かに、そこは疑問に思います。こんな事をして、相手が得をする事は無いし、下手したらそのせいで、罰が与えられるかも知れません。それなのに、何で僕達に話してくれるのか、不思議でしょうがないです。


「答えは簡単よ。私は、亰嗟の目的なんて関係無い。言われた事はやるけれど、絶対に成功させてやる、なんて意気込みなんて無いわ」


「それだったら、何で……」


「面白そうだから」


 丘さんのその一言で、カナちゃんは黙っちゃいました。というか、この人のその一言が、狂気染みた声だったから、僕も背筋が凍ったよ。


「それじゃあ、あなたは?」


 カナちゃんが喋れないと見て、今度は雪ちゃんが、もう1人の相手、和月慎太に声をかける。


「私は普通の人間です。あなた達半妖や、妖怪のやろうとしている事には、全く興味が無いです。ただ稼げたらそれで良いんです。あなたが邪魔さえしてくれなければ、かなり稼げたのですがね」


 それしか頭に無いのですか、この人は。下手したら、人間が全員妖怪になっちゃうかも知れないのにですか? そんな相手の言葉に、僕は反論します。


「亰嗟の目的を分かっていますか? このままでは、人間が妖怪に――」


「それも、興味が無いと言っているんです。そうなったらそうなっただけの話。私はただ、運命に身を任せるだけです」


 この人も駄目でした。だけど、何だかしゃくに障るので、一言言い返します。


「それって、周りに流されているだけだと思うけど」


「子供に何が分かるんですか」


「これでも60年生きてますけど」


「何だ、ババァですか」


「バッ!! 僕はお婆さんじゃない!」


「椿ちゃん落ち着いて! 静かに」


 カナちゃんすみません……つい、相手のペースに飲まれちゃいました。周りの人には良く聞こえていなかったようで、助かりました。


「あなた達面白いわね~良いわ~」


「笑ってないで、早く亰嗟の目的とやらを話しなさい」


 その時、美亜ちゃんが堂々とした態度で、相手を急かしてきました。流石美亜ちゃん。君の性格が、少し羨ましく感じます。


「そうだったわね。とりあえず亰嗟は、目的の第2段階まで達成しているわ。段階は4段階で、第1段階は組織の固定化。これが1番時間かかったらしいわ。そして第2段階は、ある物を手に入れる事。その為にお金が必要だった場合を考え、資金集めをしていたのよ」


 そこまで言うと、丘さんは再びコーヒーを一口飲む。その亰嗟の目的なら、僕も少しは聞いた事がある。たしか……。


「その目的って……妖界を人間界にまで浸食させる事……だよね」


「あら、そこまで情報を手に入れているのね。でも残念ね。正しくは、人間界と妖界を反転させ、妖界を安定させる事、らしいわ」


 あんまり変わらないような気がするけれど。その前に、こんな話をここでしていて大丈夫なんでしょうか。


 そう思っていたら、和月さんが本を開き、何か口の形をした、変な妖怪を出しましたね。それがずっと閉じている……という事は。


「気付きましたか? こいつの口が閉じている時は、そこから半径数十メートルまでは、私達の声は聞こえない」


 それならば、遠慮無く話せるという事ですか。


「さて……第3段階は、言わなくても分かるかしらね? そのある物を使う為の鍵と――あなたよ」


 そう言って、丘さんは僕を指差す。やっぱり亰嗟にとって、僕は必要みたいです。


「でも、何で僕を?」


「正確には、あなたの中にある強大な妖気ね」


 その言葉を聞いて、僕は納得しました。

 だけど、本当に何でこんな事を言うんだろう? 何か目的でもあるんでしょうか。


 僕がその確認の為に、言葉を発しようとした瞬間、僕の隣に座り、チョコレートパフェを一心不乱に食べていた楓ちゃんが、そのパフェを食べ終えてスプーンを置き、向かいに座っている2人に話しかけた。


「ふぅ……んで、自分の育ての親を殺したのは、どっちすか?」


 楓ちゃん、それはちょっとストレート過ぎるよ。


「ちょっと楓ちゃん、なんだか様子が変だよ?」


 なんというか、楓ちゃんは殺気立っている様な感じで、少し様子がおかしいです。


「あらあら、何の話かしらね。残念だけど、私達は違うわ。人殺しはしてないからね」


「それじゃあ、誰っすか?」


「ちょっと、楓ちゃん!」


 流石に止めないと、これはマズいような気がします。他の皆も、目を丸くして驚いていますからね。


「無駄よ。楓はね、チョコを食べると別人になるのよ」


「海音ちゃん、そういうのは早く言って下さい」


 嘘でしょう? それじゃあ今の楓ちゃんは、復讐鬼そのものって事?! 何で海音ちゃんは止めなかったの……。


「ごめんね。楓は楓自身で、この事に決着を着けないといけないのよ。だから私は、それを手助けしてあげる為に、こっちに来て同じ所に住む事にしたのよ」


 あっ、そういえば、何で海音ちゃんがまたこっちに来ていたのか、それが謎だったんだけれど、そういう事だったんですね。


「早く言うっす。誰っすか?」


「あらあら、怖いわね~さぁね、雇われた殺し屋とか、そんな所じゃないかしら?」


「暗殺など、そういうのが必要な時には人間を雇っています。恐らく、その誰かでしょう」


「そう、っすか……」


 そう言うと、今度は海音ちゃんから飴玉を受け取り、それを口に放り込んだ。すると……。


「姉さん~! 怖かったす~!」


「戻った?!」


 チョコで変貌して飴玉で戻るって、君はどんな性格をしているんでしょうか。


 とにかく、資金集めの為に、妖怪の幼体を誘拐して、人間に売り飛ばしたり、麻薬と同じ働きをする妖草を売り飛ばそうとしたり、手段を選ばないその行動は許せないし、ちゃんと償うべきですよ。


「やっぱり面白いわね~だからあなた達に、亰嗟の目的を教えれば、もっと面白くなると思うのよね~」


「まさか……それだけの為に、亰嗟の目的を教えたのですか?」


 そうだとしたら、この人の考えが理解出来ないです。それでもまだ何か裏があると思い、僕は必死に考えます。


「言っておきますけど、このオカマの行動なんて、分かろうとしない事です。近くにいる私ですら、分からないのでね」


 あっ、和月さん。その言葉はタブーな気がしますよ。


「ちょっと~ニューハーフと言いなさいな」


「どちらでも同じでしょう。それにどちらかと言うと、男なのに女の格好をしているのがニューハーフで、男の格好のままで女っぽい事をしているのが、オカマじゃないのですか?」


 そう言われたら、イメージするとそんな感じですよね。でも、それはそれで違うと言われそうな気もしますね。


「……わ、私ったら、今まで何てミスを。良いわ、もうオカマでも……オカマでも良いわよ」


 あれ、認めちゃった。案外簡単に納得しちゃっていませんか? 大丈夫ですか?

 だけど、これでだいぶ時間を稼げましたよ。あとは、警察の方で話を聞けば、全て分かるよね。


「さて、あんまり時間も無いですし。丘、あなたの気まぐれも、もう良いでしょう?」


「えぇ、良いわよ~本当は、そこの半妖の子達をこっちに引き込みたかったけれど、どうみても無理そうだからね~」


 そんな目的も持って、僕達に接近していたんですか。やっぱり油断出来ませんね。だけど、もう逃げられ無いよ。


 だって、この喫茶店の周りは、既に捜査零課の人達が取り囲んでいますからね。


「お前達の方が、外に連絡を取れたようだし、この結果は読めていましたよ。では、今度会う時は容赦なく、その身を確保させて貰います」


 そう言うと、和月さんは本をパラパラとめくり、煙の様な妖怪を大量に出してきた。

 それこそ、次から次へと沢山出してくるもんだから、辺りが見えなくなるくらいの、濃い煙で一杯になっています。これ、周りが見えない……。


「うっく……しまった!」


「あはははは! また遊びましょうね~あなた達」


 この煙、振り払っても振り払っても全然払えません。

 丘さんの声は聞こえたけれど、もう何も見えません。多分、逃げられちゃいました。


「あ~もう! あんた戦った事があるなら、これ位予想しときなさいよ!」


「ご、ごめんなさい……」


 美亜ちゃんに怒られて、僕はしょんぼりです。


 その後に、捜査零課の人達と、白狐さん黒狐さんがここにやって来て、僕達の無事を確認していました。

 そしてやっぱり、再度辺りを見渡してみても、丘魔阿と和月慎太の姿は無かったです。


 あの2人、多分このまま放っておいたら危険です。何とかしないと……。

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