第弐拾壱話 【1】 危ない癖

 美亜ちゃんの家族の事件から数日間は、取り調べとかで色々と落ち着かなかったよ。


 しかも美亜ちゃんは、しばらく僕の部屋で泣きながら寝ていたし、白狐さん黒狐さんも、酒呑童子さんを必死に追いかけていたしで、何だか慌ただしかったです。


 そして今日も、美亜ちゃんは僕のお布団の中で、僕の尻尾に引っ付いています。


「う~ん……数日はしょうが無いとは思うけれど、流石にこんな長い間しおらしい美亜ちゃんだと、調子が……」


 窓から差し込む朝日が、美亜ちゃんの目元の涙を照らしていて、何というか……やっぱりドキドキしちゃいます。


「う~美亜ちゃん……そろそろ僕がもたないよ。起きてよ~」


「うにゅぅ……あともうちょっと」


「そう言って、僕の尻尾をスリスリしないで!」


 僕は女の子なんだから、そういう事は好きな男子にでもして貰って下さい。


「起きて! 美亜ちゃん!」


 とにかく起きてもらわないと。だから心を鬼して、僕は美亜ちゃんの尻尾を引っ張ります。いつまでも甘やかすのが優しさとは限らないからね。


 だけど……。


「は……にゃぁぁ……ん」


「色っぽい声を出さないで!」


 何で? 尻尾を強く引っ張っているのに、何で起きないの。


「ちょっと、美亜ちゃん!」


「ふみゅ……うみゅぅぅ。もっと……」 


「もっとじゃな~い! 美亜ちゃん、絶対わざとでしょう!」


 これ、僕をからかっているやつだ。

 何だかんだで、美亜ちゃんの事が分かってきたからさ、それが甘えているのかからかっているのか、だいたい分かるようになってきたよ。


「ん~すぅすぅ……」


「寝たふりしない……妖異顕現」


「わぁ~! 分かった分かった、起きるわよ。全くもう……」


 ようやく美亜ちゃんが飛び起きました。全くもうはどっちですか……。

 傷心なのは分かるけれど、それを利用して僕をからかうなんて、本当に良い性格していますね、美亜ちゃんは。


 ―― ―― ――


 その後、朝ごはんを食べに大広間に向かうけれど、その前にと、美亜ちゃんが空き部屋に向かう。


 そしてその部屋を開けると、そこには美亜ちゃんのお兄さん、吾郎さんと弥太郎さんが居ました。


「あら、もう起きていたのね」


「おう、美亜。おはよう」


「おはよう~美亜お姉ちゃん!」


「だから……はぁ、もう良いわ。って、何アホ面してんのよあんた」


「いや……いつから居たのですか?」


 ビックリなんですけど。昨日の晩御飯の時は居なかったよね。


「あぁ、すまない。昨日の夜遅くに着いたんだよ。君がお風呂に入っている間にね。美亜には、その時に事情を説明したけれど、君はまだだったね」


「僕達は、妖草の件には一切絡んでいないから、一応逮捕は無かったよ。あれは、父と美海がやった事だから」


「それでも、黙認していた罪はあるよね? それはいったい……」


 やっていないからって、罪にならないわけではないですからね。そこは気になるよ。


「そもそもね、この2人が内部告発をしていたから、センターが動いたのよ」


 ちょっと納得いかない顔をしていたのかな? 美亜ちゃんが僕の顔を見た瞬間、そうフォローしてきましたよ。

 でもそれなら、確かに罪には問われないでしょうね。それよりも、事件解決への貢献として、お礼があるかも知れません。


「だけど、家が燃えちまったろ? だから、センターに住む所を相談していたら、鞍馬天狗の翁が話しかけて来てくれてね。美亜もここに住んでいるという事だから、俺達もここに住む事にしたんだよ」


「正確には、僕達が了承する前に引きずられてだけどね~」


 あぁ、おじいちゃんならやりそうですね。良いから来いって感じでね。


「あぁ、そうそう。美瑠もここに住む事になったのよね。あの子も妖魔に操られていたし、罪には問われなかったわ」


「美瑠ちゃんもですか?」


 そういえば、美瑠ちゃんが妖魔の付いていたぬいぐるみを持っていた事で、少し気になる事があるんだけど……。


「美瑠ちゃんの持っていた、あの妖魔の付いていたぬいぐるみ。父親から貰ったんだよね? どうやって、あのぬいぐるみを手に入れたんだろう?」


「あっ……」


 美亜ちゃん、今まで気付いていなかったのですか? お父さんから貰ったって言ってたじゃん。


「亰嗟からだよ」


「えっ?」


 吾郎さんから、意外な言葉が飛び出してきたので、僕はビックリしてしまいました。


「美瑠の能力を見た亰嗟が、あれは使えると判断したらしくてね。そこで、これを使えばあの子を好きなように操れると、そう言いながら親父に渡していたのを、俺はこっそりと見ていたんだよ」


 凄い……内部告発をするくらいだから、それだけの情報収集をしていたんですか。


 とにかく亰嗟というのは、それだけ怪しい集団なんですね。


 妖具の方も、どこから収集しているのか分からないけれど、だけど多分、良からぬ方法で手に入れると思う。

 しかも、妖魔さえも手懐けているというか、収集しているというか、もう色々と危ないですね。

 更には、妖怪の子供を攫って売り飛ばしたり……って、良く考えたらかなり危ない犯罪集団でした。


 だから白狐さんと黒狐さんも、それを牛耳っているボスと、どこかで繋がっていそうな酒呑童子さんを、問い詰めているんですね。


『おぉ、椿よ。ようやく起きたか。早速なんだが、酒呑童子の奴も朝方に帰ってきて、今も部屋で寝ているらしい。今度こそとっ捕まえて、事情を聞く。そこで、お主の影の妖術で、奴を縛ってくれんか?』


「あっ、分かりました」


 白狐さんが僕の後ろからやって来て、そう言ってきました。黒狐さんも一緒だけど、何だかうんざりした顔をしていますね。でも、そういう事なら喜んで協力しますよ。

 やっぱり酒呑童子さんは、色々と怪しいですからね。今の所僕を助けてくれているけれど、妲己さんと同じように、まだ気を許せません。


 そして、美亜ちゃんのお兄さん達は大広間へ、僕達は酒呑童子さんの部屋へと向かった。


『良いか、あいつ相手にコソコソしていてもしょうが無い。一気に部屋に突入し、捕獲するぞ』


 何だか……悪い事をした妖怪を、捕まえに来ているみたいなんですけど。気にしないようにしましょう。

 朝ごはんはまだだし、お腹は減っているけれど、1回くらいは影の妖術が使えそうですね。


 そして、僕が黒狐さんの能力を解放したのを確認してから、皆で部屋に突入します。


『酒呑童子! 今日こそ……はっ?!』


『ぬっ……?!』


 えっ? どうしたの2人とも、急に立ち止まって。早くしないと、酒呑童子に逃げられちゃうって。


 そう思って、僕もその部屋を覗いて見ると、そこには酒呑童子さんと一緒に寝ている、美瑠ちゃんの姿がありました。

 だけど、布団がめくれててね……その、美瑠ちゃんがどんな格好で寝ているか、分かってしまったのです。


 なんと、裸なんです。


「えっ? 美瑠……ちゃん。まさか……」


 良く見たら酒呑童子さんも、上半身が裸で、その筋肉質な体に、美瑠ちゃんが引っ付いて――って、これもうアウトです。はい、アウト。


「妖異顕現! 黒槌土壊!!」


「ゲフン!!」


 犯罪者は、潰しておかないといけませんよね。

 妖術でハンマーを出して、それで僕は酒呑童子を叩き起こします。


「いってぇ! なんだなんだ!」


「何だじゃありません! この、ロリコン犯罪変態者~!」


「待て待て! 何がだ?! 落ち着けおま――って、お前何て格好で何処で寝てやがんだぁ!!」


『酒呑童子よ……流石にその子は不味いだろう……』


『あぁ、流石にな』


 白狐さん黒狐さんも怒っているというか、もう呆れているし。蔑んだ目で酒呑童子を見ていますよ。


 だから、容赦しなくて良いよね。


「ちょっと待て! 誤解だ、何もしてねぇ!」


「5階も6階もありますか! 黒槌土壊!」


「待てつってんだろう!」


 逃がさないよ! その一物を潰しておかないといけませんからね! まさか、幼い子供までターゲットとは思いませんでしたよ。


 世界中の女子達の為に、この淫獣は成敗です。


「ま~て~!!」


「うぉわぁ! 待て待て、めちゃくちゃチャージしてんじゃねぇよ! それやべぇ!」


 屋敷の外に逃げようとしないで、大人しく潰されて下さい。


 ―― ―― ―― 


「あ~あ~追いかけて行っちゃったわね。ほら美瑠、起きなさい。あんたいつまで裸で寝る癖ついてんのよ」


「ん~? あっ、おはよう美亜お姉ちゃん。あれ? 鬼丸は?」


『むっ……まぁ、そうだと思ったわ』


『嘘つけ白狐。思い切り怪しんでただろう?』


『うるさいわ。それよりも、あれをどうする?』


「面白いからほっときましょう」

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