第拾陸話 【2】 黒い尻尾で叩き割れ!
この展開を待っていましたと言わんばかりに、僕達は全力疾走をする。
美亜ちゃんは、3階から2階に行ったり来たり、僕は右に動いたり左に動いたりと、ジグザグ走行をしながら、ヨーヨーを避け行く。
「この、こいつらぁ!! 良いから当たれよ! 街を、人を滅ぼそうとする害悪だろう!!」
それは僕達には関係ないし、滅ぼそうとも思っていませんよ。勝手に決めつけないで欲しいよ。
この姿になって分かったのは、生きている人間が1番恐いと言う事でしたね。
そして、ヨーヨーを避けながらも、僕は炎を飛ばしたり、影の妖術を使い、相手を錯乱していきます。
そうする事で、ヨーヨーへの意識を逸らしているんです。これは今、咄嗟に思い付いた事ですけどね。
「あのさ、1つ聞きたいんだけど。君達の目的って、妖怪退治をして、一般人を守る事なの?」
「当たり前だ!!」
「でもさっき、その一般人を傷つけたよね?」
「なっ、ぐ……だ、黙れ!」
閃空は、完全に我を忘れている。
喋り方も、余裕の無い喋り方で、憎しみを込めた目をしながら、僕達を睨んでくる。それだけで、ある程度の想像は出来ましたよ。その滅ぼされた街の、生き残りなんだって事をね。
だけど、そんな話は聞いた事が無いんだよ。
街が滅ぼされたって事は、それだけ人が死んでいるって事だけれど、そんなのがあったのなら、大きなニュースとかになっていて、他の街でも大騒ぎですよ。
「ねぇ。その街が滅ぼされたって、いったい何時の事?」
「あっ?! そんなの……そ、そんなの――あれ?」
僕の言葉に、ヨーヨーを止めた閃空は、いきなり頭を抱えて悩み始めた。
別に意図したわけじゃ無いけれど、そのせいでヨーヨーが威力を失って落ちていき、しかも他のヨーヨーを何個も巻き込んでいて、遂には絡まってしまった。
昔の事を、覚えていないんだね。しかも、それを今気が付いたって感じだよね。
「しまった……ちくしょう! いつあったかなんて、そんなのは覚えてないが、とにかくあったんだよ!」
「やっぱり……君も滅幻宗に? でもね、それでもやったらいけない事はあるんだよ」
僕はそう言うと、ゆっくりと閃空に近付いて行く。
まだ使えるヨーヨーが、2~3個は残っていそうだし、それを何とかしないといけない。
すると、今度は美亜ちゃんが、上から閃空めがけて突撃をし、さっき引っ掻いた方とは別の手を、同じようにして引っ掻いていく。
「うぐっ?! くっそ……」
その攻撃で閃空は、手に持っていたヨーヨーを何個か落とした。でも、あと1個残ってるね。閃空はそれを、何としても僕に投げつけようとしている。
しかし、美亜ちゃんに引っ掻かれているからなのか、思うように動かせていない。
それでも、投げつける様にして飛ばして来たけれど、スピードも出ていないし、何よりさっきまでと比べて弱々しかった。そのまま地面に落ちちゃったよ。
「とにかく、君は君のしたことに対して、償いをするべきだよ。だから、大人しく捕まって」
そして僕は、閃空に向かって走りだす。捕まえるのなら、今しかないと思ったんだよね。
だけど、閃空は予想外の行動をして来た。
なんと、予備として残していた最後のヨーヨーを使い、吹き抜けの上階に飛んで行ったのです。上階のアクリル板に引っ掛けて、そのまま跳び上がって行っちゃったよ。
君は忍者か何かですか……。
「う、嘘……」
普通は、ヨーヨーで人の体を引っ張るなんて出来ないから、これには驚いちゃいましたよ。
だけど、滅幻宗特製となると、それも可能なんだろうねって思っちゃいます。
「残念、そんな事させないわよ!」
すると、それを3階から見ていた美亜ちゃんが、ヨーヨーの紐を切ろうと飛びかかって行く。
美亜ちゃんナイス――って思ったんだけれど、良く見ると閃空は、美亜ちゃんの姿を捉えていた。
「馬~鹿! それは読んでいたよ!!」
そう言うと閃空は、さっき僕に向かって投げたヨーヨーを、チラッと確認をした。
僕がその視線に気付き、さっきのヨーヨーを見ると、何とそのヨーヨーの回転が止まっていなかった。しかもよく見たら、それが逆回転している様な――
「しまった、美亜ちゃん! さっきのヨーヨーに、バックスピンをかけられてた! そっちに飛んで行くよ!」
慌てて大声を出したけれど、それはもう遅かったみたいで、逆回転のかかったヨーヨーは、凄い勢いで地面を跳ね、僕の横を掠め、閃空の手元に戻って行った。
すると閃空は、そのまま手首を捻るように動かし、キャッチはしないで、返す勢いで美亜ちゃんに当てようとしてくる。
「くらえよ、化け猫――うぐっ?!」
だけど閃空は、急に顔をしかめ、その手を止めた。
だから、ヨーヨーは美亜ちゃんには当たらず、下に落ちてしまい、紐でぶら下がっている状態になってしまった。
いったい、何があったんだろう……。
「ふふふふ……その手が痛むのね。ほら、頑張らないと、3階にもたどり着けないわよ~」
「いっ……つ。く、くそ、何だこの手は!! お、お前……その爪に、毒でも仕掛けたのか?!」
そう叫ぶ相手の手を良く見ると、何とその手が、2倍近くにまで膨れ上がり、しかも見るからに痛そうで、スゴく真っ赤になっていた。
「ふっ、毒でも何でも無いわ! 猫に引っ掻かれると、下手したらそうなる場合があるって事よ! 聞いた事は無いかしら? 猫ひっかき病って」
えっと……聞いた事があるような気はするけれど、詳しくは知らないや。
それよりも、あれは相当痛むのかな?
閃空は手に力が入らないようで、ヨーヨーを握る事も出来ないでいるよ。
つまり、3階にヨーヨーを引っかけていても、痛みでたぐり寄せる事も出来ないし、痛くてぶら下がる事も出来なくなっている。
そのまま、閃空は吹き抜けを落ちて行く。
「ちっ……くしょ!」
これは正に、今がチャンスって事だ!
その姿を見て、僕は白狐さんの力を解放し、その体毛を白くすると、ありったけの力を後ろ足に込め、そのまま飛び上がり、閃空の元に向かって行く。
そして、閃空よりも高く上がると、今度は黒狐さんの力を解放し、体毛を黒くする。
「なっ……何を?!」
「僕の友達にした事。そして、一般人を傷つけた罪。滅幻宗がやって来た事に比べたら、これでも全然足りないけれど、自分の未熟さを、しっかりと噛み締めるんだ!」
こんなにも感情的になったのは、恐らく初めてだよ。
そして僕は、前転するように体を前に曲げると、尻尾を真上に掲げ、それで叩きつける様な体勢を取ると、新しい妖術を叫んだ。
「妖異顕現、|黒槌土壊<こくついどかい>!」
その直後に、僕の尻尾が黒いハンマーみたいになったので、そのまま閃空めがけて、ハンマーになった尻尾を叩きつける。
「がはぁっ……!!」
この妖術、人型で使うと、何処からともなく黒いハンマーが出て来るけれど、狐型だとこうなるんだね。人型でもこういう使い方をしたいから、ちょっと練習してみようかな。
「ぁぁああっ!?」
なんて、自分の妖術を解析している間に、閃空は吹き抜けの空間を、凄いスピードで下へと落下して行く。そしてそのまま、地面にヒビが入る位の勢いで、床に激突した。
「――っ?!」
それはもはや、普通の人間では耐えられ無いレベルで、背骨にヒビでも入るんじゃないかって、そう思うくらいの衝撃だけど、確か以前に玄空が、滅幻宗は特殊な訓練をしているって、そんな事を言っていた気がするし、きっと大丈夫だよね……死んでいないよね。
「椿~着地の事も考えてる?」
「えっ? あ~! しまった! お、落ちる~!」
美亜ちゃんの声で気が付いたけれど、倒す事に専念していて、叩きつけた後、着地をどうするかなんて考えていませんでした。
この4本の足で、必死に水掻きする様にしても、駄目ですよね……。
と、とにかく、着地をしないと。
「ぐはっ?!」
「ったく、しょうが無いわね~」
すると美亜ちゃんが、2階にスルスルっと降りて来て、そのまま僕に向かって飛んで来ると、ギリギリで僕の尻尾を口で咥え、そのままの勢いで、反対側に飛び移って行きます。
尻尾は止めて欲しかったんだけれど、この際しょうがな――
「ぎゃん!?」
「あら、ごめんなさい」
痛いですよ……美亜ちゃん。
僕は顔を下にして、美亜ちゃんにぶら下がっている状態だったから、そのまま真っ直ぐ反対側に向かうと、当然アクリル板に激突するわけだし、そんなの見れば分かるはずなのに、美亜ちゃんはそのまま突っ込んだのです。
「美亜ちゃん! 今の、絶対わざとでしょ?!」
「だから、ごめんって言ってるじゃないの。とにかく、急いで下に降りて、あいつを拘束するわよ!」
「ちょっ――待って、美亜ちゃん!」
僕はまだ、アクリル板の内側にいて、そこに必死にへばり付いている状態なんだから、せめて引き上げるくらいはして欲しかったです。
一生懸命後ろ足を動かすけれど、中々引っ掛ける事が出来ないし、全く上がれない……
せっかくカッコ良く決められたのに……これじゃあ締まらないよ。
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