僕、妖狐になっちゃいました
yukke
序章 弱肉強食 ~僕の日常~
第壱話 いつもの僕の日常
いつもの様に、僕は気が重くなる中で、学校への道を歩いて行く。
たまに変なものが目に入るけれど、気にしないようにしている。少し、怖いから。お化けとか妖怪だったらどうしよう……。
他の家では、元気良く学校へと向かう人達がいて、親がそれを見送っている。僕はそれを、ただ羨ましく見る。
良いなぁ……僕にも、あんな家族が居てくれたらなぁ。
僕のお父さんは、今の義母さんと再婚しているけれど、2人とも僕が邪魔らしくて、居ないもの扱い。
それに当の僕は、中学以前の記憶がない。2人はそれすら、気にする素振りもないんだ。本当の親なら、心配するでしょう……?
だから本当に、あの2人が僕の両親なのか、それすらも怪しいものなんだよ。
あの場所に行った時、その夜は決まって変な夢を見る。楽しそうに笑う女の子と、その子の手を引く両親の姿。とても、幸せそうな夢を。
そんな普通の家族が欲しいから、あんな夢を見てしまうのかな?
それとも、伏見稲荷大社のお稲荷さんの所に行くことで、記憶の無い部分の何かが、刺激されているのかな?
気が滅入ってしまいそうになる。気になる事があっても、言い返したい事があっても言い返せない。
こんな気弱な僕自身、何とかしたいよ。
僕に本当の両親が居るのなら、その人達と会ってみたい。例えどんな事があっても、会ってみたいなぁ……。
時々そんな事を考えながら、また現実に引き戻され、重い足取りで学校へと向かった。
ーー ーー ーー
教室に着いた僕は、いつもの光景にため息が出そうになった。これもいつもの事だけど、僕の机には、女の子のスカートが置いてあった。
同級生の誰か妹のを盗ってきたのだろう。
とにかく気にしないふりをして、それを後ろのロッカーの上に置いた。後でちゃんと持って帰ってね。
僕は今、14歳で中学2年生。そんな多感なこの時期に、陰湿ないじめを受けています。原因は女顔で気弱だから。
背は1番低くて丸顔で、目は二重でパッチリ。せめて髪だけはと思い、男らしくなるようショートヘアーにしてみても、サラサラのその髪質と小顔のせいで、どんなに男らしくしようとしても女らしさがにじみ出てしまう。
それが原因でいじめられているんだから、たまったものじゃない。
「おいおい、それはお前のじゃないのかよ~!
「そうだぞ! せっかく、見つけてやったのによ!
因みに槻本翼は、僕の名前です。
とにかくクラスメイトがうるさいです……いい加減にしてくれないかな。だから僕は、うんざりして目を逸らして無視を決め込む。
「おい! 無視すんじゃね~ぞ!!」
「せっかく構ってやったんだよ! 感謝しろよ!!」
するとその内の2人が、そう言いながら僕を突き飛ばす。
だいたいいじめをするグループのリーダーは、この太めの人と、中学生なのに髪を染めている人の2人が中心となっています。
名前? 覚える気は無いよ。こんな事をされていて、覚える気にもなれない。
周りの人も、それを見てクスクス笑っている。
何で笑うの。どこがおかしいの? 何で僕なの。
そしてHRになり、黙って先生が入ってくる。その間に騒ぎは聞こえているし、知っているはずなのに皆を止めない。
先生何で? 大人は止めないとダメなんじゃないの? 僕が無口だから? ねぇ、何で。
僕の心はもう……ボロボロだよ。
ーー ーー ーー
「……た、だいま」
学校が終わって家に帰った僕は、誰にも聞こえない様にそう言うと、薄暗い家の中に入って行く。
今の僕の家は、一般的なごく普通の大きさの家。
周りは住宅街で、ちょっと行った所に大きめのスーパーがあって、駅も歩いて5分の所にある。住むにはとても便利な場所。学校へも歩いて20分くらい。
家に入ると、そのまま廊下を歩いてリビングに入る。リビングの明かりは消えていたから、誰もいないのは気づいている。その後僕は、テーブルの上の書き置きを見つけた。
『なっちゃんへ。お母さんは近所の人と映画を見に行った後、食事をしてきます。晩ごはんは好きな物を頼んでね。ママより』
なっちゃんとは、僕の義理の姉である。
姉は
この書き置きをしている時に、僕の事は頭に無かったのかな? 相変わらず、居ない者扱い。その書き置きには、僕の名前も、僕に当てての文字もない。
本当にいつからなんだろう……僕が要らない子になったのは。いや、もしかしたら僕は、この家の本当の息子じゃないのかも知れない。それなら、この反応も当然じゃないか。
そのまま僕は、自分の部屋にされている、以前は物置だった場所の部屋に向かい、カバンを下ろす。そして家を出て、いつもの所に向かった。
ーー ーー ーー
最寄り駅から電車で二駅。そこは僕のお気に入りの場所。駅の目の前にある大きな鳥居には、こう書いてある。
『伏見稲荷大社』
僕はここに来ると、いつも心が落ち着く。何でかな? でも、分かる気がする。
ここのお稲荷様の像には、魂が宿っていると僕は考えている。だって、たまに視線が合うからね。
その大きな鳥居をくぐり、まっすぐに参道を歩く。そこから更にもう1つ鳥居をくぐると、その先に本殿が見えてくる。
だけど、これから向かうのはこの先の山。そこに僕の味方が居てくれている。そのまま僕はひたすら進む。
山道だから結構しんどいかもしれないけれど、木々の匂いと、外の暑さも忘れるくらいの涼しい風が気持ちいい。そして、たまに他の参拝客が通り過ぎる。
お正月は人でごった返しだけれど、この時期の平日は観光客くらいかな。それでも人は多いけど。
でも、この前のお正月の時は怖かった。中国人みたいな人達が好き勝手していて、鳥居にもたれかかり写真を撮っていた。その時、お稲荷さんの像から怒りのオーラが出ていたよ。
ここは色んな神様がいるけれど、有名なのは、商売繁盛の神様です。騒いで観光する所ではないんだよ。
「あっ、着いた。どうも、こんにちは」
そう考えている内に、両脇に大きな2つのお稲荷さんの像のある、開けた場所にたどり着く。
この2体が僕の味方。
いや、味方なんて図々しいよね。お稲荷さんにとって、僕みたいな人物はどうでも良いはず。
それでも僕にとっての心の支えは、この2体のお稲荷さんなんです。
「ねぇ、聞いて。お稲荷さん。僕はまだ、頑張らなきゃならないんでしょうか? もう、疲れたよ」
いつもいつも僕は、危ない人みたいにこの2体に愚痴を言っている。罰が当たるよね。でもこうでもしないと、もう僕は耐えられない。
だけどこうやって、ネチネチグチグチとこのお稲荷さんに愚痴っているのも嫌だ。嫌なのに、やっぱり止められない。
「ねぇ、お稲荷さん。僕、この性格を直したいです。お願いします」
でもダメだよね……守り神様にこんな事を頼んだら。そういうのは、自分で何とかしないといけない。
「……ごめんなさい、やっぱり今のは忘れて下さい。それじゃあ、もう暗くなりそうだし、また来ますね」
そう言うと僕は、駆け足で今来た道を戻って行く。
古の都、京都。
ここには色んな神様が居るみたいだけれど、本当かな? だって本当にいたのなら、こんなに荒れた世の中にはなっていないよ。
「ーーっ?!」
入口の大きな鳥居をくぐり、駅へと向かおうとした時、僕は背後から何かの視線を感じた。
「なんだろう……気のせいかな? あっ、早く帰らなきゃ。閉め出されて、二度と家に入れてくれなくなるや」
そして僕は、再び駆け足で駅に向かって行く。
お母さんは遅くても、お父さんが帰る前には家に居なきゃならない。居ても一緒だけどね。
ーー ーー ーー
家に着いてから、僕は再度ガレージを確認する。
「よかった、お父さんはまだだね」
駐車場に車が無いからお父さんはまだだけど、家の玄関扉を開けると、リビングに明かりが付いていた。
やばい、お姉ちゃんは帰っている。
「ちょっと翼~! あんたまたあそこ行ってきてたの?!」
二階の部屋にこっそりと行こうとしたけれど、駄目だったみたいです。リビングの扉を開けて、お姉ちゃんが近づいてくる。
「あんた、そろそろあそこに行くの止めてくれるぅ? キモいんだけど?」
今のお姉ちゃんは制服を着崩していて、大きな胸が強調されている。自称Dカップだって。僕にはよく分からない。
スカートも膝上20センチくらいにまで短くしていて、下着が見えそうです。
顔は悪くないようで、黒くて肩までのセミロング。二重の目に、まつげは付けまつげをしていて凄くパッチリしている。
そして話し方で分かるように、お姉ちゃんはギャルと呼ばれる人みたいです。
「あんたほんとに女々しいわね。見ててイライラするからさ、とっとと施設行ってくんない?」
「で、でも、おじいちゃんが言って……」
そうだ、僕は性格を変えたいって、お稲荷さんにもそう言ったじゃないか。ここで頑張らないと、どこで――
「あ~もう! だったらおじいちゃんの所に住みなさいよ! 鬱陶しいわね!」
「ご、ごめんなさい……」
ダメだ、どうしても怖い。お姉ちゃんの言葉に、泣きそうになりながらも僕はそう答えてしまった。
もう怒らないでよ、お姉ちゃん。血が繋がっていないから? だからこんな扱いをするの? この家に居るのも辛い。せめて気弱な性格がなければ……。
お稲荷さんお願いします、もう神頼みしかないんだ。そう簡単には変わりそうにない。だから、僕の願いを叶えて下さい。
そして、この家族が本当の家族じゃないのなら、本当の家族に会わせて下さい。
僕も、人並みの幸せが欲しいです。
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