ユニクロのスウェットとともに目覚める朝

朝10時15分、この家で暮らし始めて30年、目覚めとともにこの天井と向かい合うのは単純計算でもう1万回以上になるってわけ。


明日こそなにかを変えようと奮い起った昨夜の気持ちは、朝とも昼とも言えない怠い時間の中で音も立てずに砕け散り、繰り返される日常のなかに今日も溶け込んでしまった。


家の中には人の気配がない。父親は数年前に死んで、70歳の母親は朝の6時からパートに出ているからだ。


僕は布団にくるまって、iPhoneでヤフーニュースとまとめサイトをチェックする。そうやって身体をじゅうぶんに温めて、ベッドから抜け出したときには時計はもう11時近くを指している。


お尻の半分あたりまでずり下がったユニクロのスウェットパンツを引き上げて、ウエストの紐を結び直す。


ねずみ色、もといグレーのスウェット生地はすっかり毛玉だらけで隠しきれない貧乏臭さを醸し出しているにもかかわらず、首元のリブや縫製はやたらに頑丈で今年も買い換える機会を失ったままだ。


一歩踏み出すごとにギシギシと鳴る階段はうっかりすると踏み外しそうだ。この家に引っ越してきたときはまだ僕も幼く、全力で駆け下りることができたのだが。踏み外さないように、慎重に一段ずつ下りていく。

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