茜色の空

深井健一

プロローグ

 いつも通りの駅で降りて、いつも通りの改札を抜け、いつも通りの道を通り、いつも通りの場所に向かう。道中同じ制服を着た人間が何人か居たようだが、同じように顔色は良くない。

 昨日も、その前の日も、その前の日も同じような景色だった。三日前は雨が降ってたせいか、余計に通学路が辛そうだった。今日も空を見ればその日と同じようなよく見れば皆が下を向いて歩いてるようだ。

 内一人は、周りを見渡しそれに気付いたのか、拳を握りしめ、すっと胸を張り、前を向いて歩き出した。どうやら周りと同じというのは嫌なようだ。その男は長目の髪を風になびかせ、少し大きな体を揺らし、歩きながら肩を回し始めた。そんな彼に近付く人物が一人居た。近付いた彼の肩を軽く叩き、横に並んだ。二人は同じように前を向いて歩いている。近づいて行った男が口を開いた。

 「秀、おはよう。」

秀は返した。

 「おはよう輝一、今日は一雨来そうだな。」

 「あぁ、傘持って来てねーんだ。」

 「どーせ駅まですぐだしたまにはいいでしょ。」

二人はそんな会話を交わしながら歩いて行くと、後ろから小走りで走ってくる足音が聞こえる。そしてその足音に二人が気付いたのとほぼ同時に、足音の主が声をかけた。キラキラと子犬のような目を輝かせ、浅黒い健康そうな肌の持ち主だった。

 「秀、輝一!」

秀が返した。

 「おう、准!おはよう。」

輝一が続ける。

 「珍しく今日は遅いな。」

准は返す。

 「いやぁ、コンビニで弁当買ってたら遅れちゃった。」

そんな他愛のない会話を続けながら学校へ向かって行くと、ガードレールに腰掛けて嬉しそうに微笑みながらこっちを見ている誰かが居た。

 微笑みの主は日本人にしては彫りの深い顔、うっすらグレーのかかった瞳を細めながらその三人を見て微笑んでいた。その彼に近付きながら真っ先に手を出したのは秀だった。秀は手を出しながら言った。

 「よう飛鳥、いつも通り何を見てんだか。」

 「お前らが来るのを待ってるんだけど、遠目からでもすぐ分かるからよ。」

飛鳥は出された手に軽くパチン、とハイタッチをしてガードレールから降りて、その三人と肩を並べ、四人は学校へ向かい歩いた。

 そして秀は思い出す。さっきまで一人で歩いていた時、皆何故下を向いて歩いていたのか、自分が何故前を向いて歩けたのか、ポケットに入れた手を軽く拳を握り、軽く息を吸い込んだ。


彼らのちょっとした冒険譚は、何気ない日常から始まった。

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