さきちゃんと修学旅行へ行った話

芥島こころ

さきちゃんと修学旅行へ行った話

「いやー、やっと着いたね。つっかれた~」

バス降りてすぐ目の前でううーんって伸びをしてる長身で外跳ねショートカットでボーイッシュでかっこいい系の女の子がさきちゃん。

もう、降り口すぐで立ち止まってるから後ろ詰まってるよって言うと、慌てて飛び退いてバランス崩してあわわわってやってる。さきちゃん相変わらずあわてんぼだなぁ。





修学旅行の数週間前の教室で。

グループ決めって本当にめんどくさいんだけど、でもさきちゃんと一緒になるためには色々と戦略が必要になるからまともに考えなきゃって感じで。

5人グループだからまずさきちゃん。さきちゃんは色んな人と話とかしてて交友関係広い。つまり人気者。って言う程でもないんだけど、でもわりとみんなから好かれてるっぽい。

まぁ、かわいいし、かっこいいし。さきちゃんだし。

でもでも、私が誘うと「うん、いいよー」って笑顔で答えてくれるから本当に嬉しくって変な顔になっちゃう。変な顔見せたくないからつい顔そらしちゃうんだけど勢い良く首横向けてひねってグキってなってさきちゃんに変な顔で「なにやってんのさ~」ってからかわれたりしてちょっと、なんというか、もう。


ええっと、そうじゃなくてグループ決めの話。

私とさきちゃんで2人。あとの3人をいかにして当日来ないメンバーにするか。だって、そうすれば2人っきりじゃん?

で、クラスにヤンキーっぽい人が2人いるからあえてその人たちを入れていく。多分だけど当日来ないと思う。それかグループ行動になった瞬間どっか行くと思う。暴力っぽい絡んでくる感じじゃなくてダルい系のいっつもどっかでサボってる人たちだから大丈夫、だと思う。多分。

もう一人はいつも本読んでるメガネが似合う子を狙う。私よりちっちゃくてわりとかわいいんだけど実は力持ちなんだよね。図書室行った時にすっごい量の本を運んでるの見たからね… って力持ちなのは今別に重要ってわけじゃないんだけど、とよみちゃんって言うんだけど、誘ったらオッケーもらえた。で、当日どうするか小声で聞いたら休むって。よくよく聞いたら「面倒くさいし本を読む時間が減るし評価には響かないから休んで家で本を読んでいたほうが幸福度は高い」だって。わりと強い。色々と強い。見習っていきたいし利害が一致したので同盟を組んだ。

これでパーフェクトだよさきちゃん。





それで、当日朝は4人。バス乗ってバス降りてメインの場所へ全員でぞろぞろ向かって観光と学習っぽいことしたらグループ活動。

ヤンキー2人が「うちらさぁ、ちょっと行きたいとこあるから、黙っといてくれる?」って言うからもう二つ返事でオッケーだよね。やった、作戦通り。途中ではぐれたことにしない?って言ったら「じゃあ、そうしといて」って返事も聞かずにどっか行っちゃった。まぁいっか。ってことでとにかく2人っきりになった。うへへ。





2人で色々楽しんで買って食べて飲んで、ちょっとだけ課題のものを調べて夕方。ずっと歩き回ってたから宿に着くころにはもうクタクタ。

さきちゃんと途中で見つけたレンタル自転車屋で自転車借りればよかったねーなんて話しながら割り当てられた部屋に行ったら、なんとヤンキー2人組がいた。びっくりだよほんと。夜に来ると思ってたのに。「うちら出かけるけど」ああーはいはい、大丈夫大丈夫。何も見てませんよ~。

やった。また2人きり。

でも5人泊まれる部屋に2人だから密着感とかは無いかなぁ。まぁいいけど。同じ部屋ではあるんだし。

和室と洋室が合体したような部屋で、寝室は和室だった。とりあえず荷物置いて布団敷いてッダーンって寝っ転がる。痛い。スプリングの効いたベッドとは違った… ってやってたらさきちゃんが笑ってる。もー。


ということでお風呂です。温泉です。やった! と思ったけど大浴場です。いやまぁ流石に2人きりでお風呂とかまだ早いかなって思ったりもするしもうヤバイでしょ流石に。

2人でみんなが入ってるだろう大浴場へ向けて廊下歩きながら対面で狭いうちのユニットバスの浴槽に入ってるの想像して顔真っ赤だよって言われそうな感じで顔真っ赤にしてたらさきちゃん覗きこんできて「顔真っ赤だよ?大丈夫?」なんて言ってくるからもう顔真っ赤だよ。顔が近い近い!




はー。幸せ。




あっ、いや、そうじゃなくて。

夕飯は、まぁそこそこかな。修学旅行だしそんなに凝ったの出てこないし。

でもさきちゃんがエビの殻むくのに苦労してて面白くてかわいかったからよし。


え? いや、お風呂タイムはちょっと私のココロのアルバムがマックスになっちゃったからちょっと整理しきれないし、誰にも見せるもんか! 誰にも見せるもんか! キシャー! 威嚇のポーズ!


部屋に戻ってきたら明日の準備をして寝た。疲れてたからすぐ寝た。

いろいろお話したかったのに。くすん。





「ねぇ、めっちゃ怖い夢見た。怖かった」

まだ暗いよー…

「ぎゅってして。する。させて」

あはは、いいよ、ほら。

「ぎゅー」

ぎゅー


「ねぇ、さきちゃん、すごくこわかった。一緒に街中歩いてたはずのさきちゃんが突然いなくなったの。じゃなくて私も一緒にいなくなってて、別々の場所にいなくなったの。でも目の前からいきなり消えてどうしようって、それですぐに探そうとしたら真っ暗で地面はでこぼこだし硬いし痛いしわけわからなくて。

本当に真っ暗で自分が目を開けてるのか閉じてるのかも分からなくていつの間にか寝ちゃってて起きたらネズミがいたの。隣に。ネズミ。おっきい犬くらいあるの。もうほんとびっくりして飛び上がって思ってたより低い天井に頭ぶつけてまた気を失って、気付いたらまたネズミがいたの。今度はすこし遠くで待っててくれて。私が体を起こしたら『落ち着いたか』って! しゃべったんだよ! ネズミが! でもありえないくらいおっきいししゃべってもアリかなって思いながら色々話してたんだけど、私がさきちゃん探してるって言ったら一緒に探してくれるってことになった。やっぱりさきちゃん人気者だなって思った。

あ、途中でなんとなく周りが見えるようになったの。暗いのに、暗いのはわかるんだけどなんとなくわかるの。それでネズミがいたのもわかったんだ」


へぇー。それで?


「ネズミがこっちへついて来いって言うからトコトコ歩いていくネズミについて行ったの。頭はぶつけなかった。

ずっと洞窟でずっとまっすぐ進むんだけど、横道がいっぱいあって光が漏れてきてて少しだけ風景が見えるんだよね。空高くから薄く雲のかかった地面と水平線が見えたり、熱いマグマの流れる川とか、すごい風が吹いてる谷とか、底がくっきり見えるくらい透明で水色の湖とか、なんというかもうファンタジー全開なんだよ。そこをわたしとさきちゃんが冒険するの。2人きりだったり、強そうでかっこいい仲間やかわいい仲間たちを連れて、時には裏切られたりして、でも鮮やかに解決して仲直りしたりして、そういうのが見えるの。ネズミが『道を踏み外すと戻れないよ。その未来が見えているんだ』って言うからいつの間にか足を止めて覗き込んでて落ちそうになっててびっくりして慌てて一歩引いて、あ、いや、冒険するというか、してるのが分かるというか。もう1人の私たちが冒険してる感じ。もう一人…じゃないや、ええっと、別の可能性っていうのかな。私なんだけど平行世界の私っていうか、とにかくそういう感じなんだよね」


へー、なんだか面白そうじゃん。怖い感じしないけど。


「いや、怖いのこれからなんだって。試しに一つの世界に入ってみたいって言ったらネズミは『構わないよ。でもいいのかい?その世界の始めから終わりまで体験することになるよ。キミに耐えられるのかい?』って言うもんだからなんかムキになっちゃってもうバッチコイだよ全部来いやオラァ! って言っちゃったんだよね」


ええー…


「そしたらそのおっきなネズミに体当りされて目の前の通路に押し出されたと思ったらスコーンって落ちてって。いや、食べるスコーンじゃないよ。こう、落ちるときの効果音というかさ。それで始まっちゃったんだよ。1000年の旅が。体感時間1000年だよ?もう、ほんと、おかしくなるって」


そのわりにおかしくなってるように見えないというか、だいたいいつも通りじゃん。


「うん。おかしくなって一周回って戻ってきたというか。なんかそういう感じ」


じゃあいいじゃん!

何が怖かったの?


「だって、”さきちゃんと修学旅行から帰ってくる”のをやってないのに1000年経ってるんだもん。おかしいでしょ? そんなの変だもん」





「っていう夢を見た」


私がさきちゃんとおててつないでうふふあははっていうちょっと人には言えない感じの夢を見てヨダレ垂らしながら朝起きて、それを見たさきちゃんが突然語りだして言うことがこれ!

もー! 私そんなこと言わない!


「みかもたまには面白いこと言うんだねー」


もー! 言わないってば! 似たようなこと想像するし夢にも見るけど流石に1000年冒険してたら頭おかしくなりそうだし!


「あはは、みかが牛みたい」


ムキー! というかそれさきちゃんが見た夢じゃん!


「え?そうだっけ?」


って、さきちゃんが私の? え? 私の夢を見たの? は? 本当に?

待って待って待って。本当に?

ちょ、ちょっとちょっともう一回話し聞かせてお願いだから。ねぇ。


「あーっと、うーんと、…なんだっけ? みか覚えてる?」


ノー!!





帰りのバスは寝てしまったので何も起こらなかった。何も。しゅん…


あ、そうそう。帰ってきて図書館メガネで力持ちのとよみちゃんにはちょっと話したよ。全部聞き終わったあとで「へぇ」って言って口だけでニヤッって笑ってそのままスタスタ歩いてっちゃった。わ、わからん…


まぁ、なんだ。楽しかったからいっか。

またどっか行こうね、さきちゃん。

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さきちゃんと修学旅行へ行った話 芥島こころ @CelsiusD6

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