赤と白と黒と黄色

春山 季節

黒い煙

 二年半、付き合っていた彼氏と別れた。


 私が大学二年生の時に、そのとき付き合っていた彼氏と別れて落ち込んでいたのを慰めてくれた、彼と。

 私のことを大好きでいてくれて、とても尽くしてくれていた、あの彼と。

 特に理由はなかったけど、社会人になって東京へ出てきて、たくさんの刺激があった。だから、別れた。

 別れたのは夏が始まろうとしているときで、世の中のカップルたちは、これから始まる夏のイベント探しで大忙しだ。私が今いる、ドトールの隣の席のカップルもそう。彼女も彼氏も、海に行こうだのフェスに行こうだの、ずっと話している。その横で、私はキーボードを打ちながらタバコを吸う。

 広告関係の仕事を始めてから三ヶ月が経ったが、私はもうこの仕事に嫌気が刺していた。俗に言うベンチャー企業であるこの会社は、私が大学生の頃からアルバイトで何度かお世話になっていて、雰囲気が良かったから入社したのだが週に1回この事務所に来るのと毎日来るのではさすがに違うものがある。今日だって折角の晴れた土曜日なのに、私は煙たいドトールの二階でキーボードを打っている。

 私は働かない頭を動かすために、何となくスケジュール帳を開いた。今週の頭に入っている撮影が終わったら、少し落ち着くだろう。入社三ヶ月目なのに随分と有給が溜まっている。

 そうだ、一人で旅に出よう。カップルもいなさそうな、海の綺麗なところに。二泊三日くらいなら、土日を使って行けるだろう。そう考えると、仕事ばかりだった最近に少し楽しみができた。

 私は一口コーヒーを飲んで、パソコンで検索ページを開いた。自分で気づかないうちに気分が高まっているのか、カップを置くときに少し大きな音がする。

 今まで仕事や学生の時の合宿では日本国内で色々なところに行った。しかし観光という観光だけで、その町にはただ泊まるだけであり、空気を吸うくらいしかその町を感じることができなかった。

 どこに行こう。

 日本国内、色々なところに行った人のブログを見つけた。私はそこに載っている写真に惹かれ、久しぶりにとてもワクワクした。それは、京都の海沿いにある、伊根という船宿が有名な町だった。

 私は逃げもしない伊根に追いつこうと、そこまでの行き方や宿を調べた。船宿は格安で泊まれることが分かり、早速予約をした。これだけ働いたのだから、休みは一日くらいくれるだろう。そうして私の初めての一人旅は、煙たいドトールで軽やかに決まっていった。

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赤と白と黒と黄色 春山 季節 @Sensu

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