女子高生、鈴木美鈴
4 寄生虫
わたしはお父さんが嫌い。
優しく微笑む口元が嫌い。
わたしを見つめる目つきが嫌い。
生温い吐息が嫌い。
妙に長い舌が嫌い。
鍛えられた二の腕が嫌い。
割れた腹筋が嫌い。
わたしの名前を呼ぶ声も。
耳元で
果てた後のあの苦しそうな表情も。
全部嫌い。大っ嫌い。
最悪な朝だった。地球が滅びる前の最後の朝にしたって、ここまで酷いものじゃないだろう。風邪を引いているの最中にヘヴィーメタルを聞きながら、金属バットで頭を殴られているみたいな、そんな極悪な頭痛がわたしを襲っていた。
窓の外では雨がざあざあ降っていて、どんよりと湿っぽい空気が部屋の中に立ち込めている。ベッドから体を起こすと、布団の中から生臭い空気が立ち上ってきた。その臭いで昨夜の出来事がフラッシュバックして、酷い吐き気がわたしを襲った。
隣ではお父さんがスウスウとやけに可愛らしい寝息を立てている。それを見ていると、気分はいっそう悪くなる。
「このエロ親父!」
お父さんのお腹に
立ち上がり、
きっとそうだ。その寄生虫はフェロモンのようなものを分泌していて、それはとてもいやらしい気分を
お父さんは毎晩わたしを抱く。「ごめんよ、ごめんよ」と呟きながら。
謝るくらいならしなければいいのにとわたしは呆れる。けど、お父さんは手を止めない。激しい劣情を奮い立たせて、荒い呼吸をしながら、猛った感情をわたしに突き立てる。気が済むまでわたしを犯してから、耳元で「愛してる。美代子、愛してる」と甘い言葉を
鏡に映るわたしの顔は、お母さんにそっくりだ。だから、お父さんはわたしを求める。死んでしまったお母さんの変わりに。
誰かの変わりに抱かれる感覚。あらゆる感情が絶頂に達した瞬間に、相手が自分ではない女に愛を告げるという屈辱。思い出しただけでも
わたしは昼間、コンビニでアルバイトをしている。高校が生徒の就労に
「美鈴、コンビニなんかやってんの?」
バイト先のコンビニに友達の希美が来て、驚きの声を上げた。
「何かいけない?」
「だって、キツそうじゃん」
「そんなこともないよ」
「それより、キャバとかラウンジとかさ、楽で儲かるよ!」
それで儲けたお金で、希美はミンクの皮を
「ねえ、美鈴もウチで働かない?」
「ごめん、そういうのは無理なんだよね」
「美鈴ってそんな真面目な子だっけ?」
「ううん、そういう訳じゃないんだけどさ」
水商売なんて面倒な仕事はごめんだ。男はどうせ、わたしの体しか見ていない。色欲に付き合うのは、お父さん一人で十分だ。わざわざ他の人の劣情まで受け止めるほど、わたしの心は広くない。
「まあ、いいや。また明日ね」
希美はダイエット効果のあるお茶とチョコスナックを買って、店を出て行った。
わたしは、毎日一生懸命バイトに勤しんでいた。自分でも感心するくらい、遅刻もせず、サボりもせず、頑張っていた。お金を貯めて家を出たかった。お父さんに抱かれ続ける毎日を抜け出して、一日でも早く一人になりたかった。
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