016.ドウラ国への旅立ち

 俺達は旅への準備をした上で、今村の出入口にいる。

 村の皆が用意してくれた、黒一色の服を俺は着ていた。

 草履のようなのはもらっていたが、ちゃんとした靴はありがたい。

 梓を左腰に、梢と梢用のマガジンを右腰にさせるようになっていた。

 リリラさん発案で、村にある既存の服を改造したものだそうだ。


 俺はまだこの国の常識について理解してない。

 その為、金銭管理や道中の必要な交渉はアラルさんが対応する。

 万が一の為、リラは魔法用の短い杖と一振りのナイフ。

 アラルさんは二本のレイピア。


 テテチさんはまだ自分で歩けない。

 見送りはテテルさんとメラルさん他、数人の村人達。


 テテチさんの世話は、しばらくはメラルさん達が交代で行なうそうだ。


「アラル、頼みます」


「テテルこそ村を頼んだぜ」


 そう言うと拳を突き合わせる二人。


「黒様、こちらを」


 俺を、英雄でも見るかのようにきらきらした瞳で見ているメラルさん。

 そう言えばこないだの訂正してないや。


「これは?」


「時間がありませんでしたので、簡素なものではありますが服等がはいってます」


「メラルさん、ありがとう。あぁ、それと俺はリラとそんな関係じゃないぞ? 勘違いしないように」


「え? そうなんですか?」


「アキトさん、リラを弄んだの? あの夜の言葉は偽りだったの? 私の乙女心を踏みにじったの?」


 泣き真似までするんですかリラさん。

 そもそもそんな言い回し、誰に教えてもらったんだよ?

 リリラさんなんだろうけど・・・。


「あの夜ってなんだ? そもそも泣き真似しても騙されないし、自分で言ってる意味わかってるのか?」


「ぶぅ、アキトさんのイジワル」


 頬を膨らませて抗議の瞳で見ても駄目ですよ、リラさん。


「くすくす、やっぱり黒様とリラは仲睦まじいですよ」


 笑いを噛み殺して、噛み殺しきれてないメラルさん。


「ほんとだぜ。見てるこっちが恥ずかしいわ」


「メラルさんもアラルさんも何言ってるんですか?」


「そうだよ。アキトさんと私なんだから当然なんだよ」


 いや、リラさん・・・当然の意味がわかりませんけど?


「つーか、アキト。さんはやめれ!」


「え? あ、はい。アラル・・これでいいか?」


「おう! 今後もそれでよろしくな。さんなんてつけられるとむず痒いんだよ」


「でも私もいつか、黒様に見初めていただけるように頑張ります」


「え? い? つーか黒様て?」


「黒き勇者様なので、親しみを込めて黒様です。おいやですか?」


 いや、そんな潤んだ瞳で見詰めないでくれ。


「・・・いやじゃないけど」


 隣のリラの視線が怖い気がするが気のせいだろう。


「まさかのライバル宣言だぜ。アキトどんだけ女殺しなんだか。リラもうかうかしてられないぜ」


「アラル、火に油を注ぐなよ」


「ぶぅ、アキトさんなんて嫌いなんだから」


「いつまで漫才してるんですかっ?」


 唯一、冷静に冷酷に冷徹に、推移を見守っていたテテルさん。

 俺達四人は、しゅんとなって頭を垂れた。


「ちょっと不安になってきました。本当よろしくお願いしますよ。それとアキトさん、お手数ですが道の途中外れに彼らの亡骸がありますので、焼却をお願いします」


 あぁ、そういえば燃やすっていったんだ。

 すっかり忘れていた。


「案内はアラル、お願いしますよ」


「わかってるよ。それじゃちょっくら、もう一人のお姫様連れ戻しにいってくるわ」


 そうして村から出発した俺達三人。

 ドウラ国まで推定五日。

 道中には村が一つあり、そこまでは三日かかる。


 リリラさんが素直に道なりに進むかはわからない。

 だが目的地がドウラ国であれば他のルートは選ばないだろうとの事だ。


 俺が一人戦った草原。

 道外れ、かなり離れた場所に並べられた亡骸。

 さすがにリラを連れて行くわけにはいかない。

 アラルにまかせて、一人亡骸の並ぶ場所に向う。


 周囲に生息する肉食獣にでも食われたのだろうな。

 欠損も目立つし臭いも酷い。

 貪っている獣が俺を威嚇しはじめるが無視。


≪氷結輪(フリーズリング)≫


 山火事とかは勘弁願いたい。

 並べられた亡骸より少し広い範囲に、円状の氷の壁を作る。


≪火嵐(ファイアストーム)≫


 氷の輪の中を焼き尽くす火の嵐。

 俺達はこうして村を旅立った。


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 この大陸でも、貨幣制度というのは取り入れられているそうだ。

 アラルさんが言うには三百だか四百年前だかまでは、統一されていなかった。

 魔族領と人族領では異なる貨幣制度が採られていたそうだ。


 そして、亜人領については亜人の種類によって異なっていた。

 魔族領の貨幣制度を用いる種族もいれば、人族領の貨幣制度を用いる種族もいた。

 両方使える種族もいたそうだ。

 そして逆に、貨幣制度そのものを用いていない種族もいた。


 しかし黒き鬼が大陸を統一する。

 その後貨幣制度も統一したらしい。

 人族との流通がほぼ途絶えている今でも、おそらくそのままだとの事。


 一銅魔から始まり、十銅魔で一銀魔、百銀魔で一金魔、千金魔で一黒魔。

 最後の単位の黒魔だけ、適当につけたんじゃないかと思えるネーミングだな。


 ただ亜人は村で自給自足が成り立っている場合が多い。

 貨幣の利用はどちらかと言えば、行商に来る商人との遣り取りで使う事が多いそうだ。

 村の特産品を販売したり、逆に必要な物を購入する為なのだろう。

 なので、興味本位で聞いてみた。


「私達お手製の衣服です」


 リラさん、どや顔でそんな自信満々に言わなくてもいいじゃないですか。

 どうやら衣服を販売して、その収入で村では手に入らない物を買っているらしい。


「お腹空いた」


 そう言われてみれば、リリラさん騒動で朝飯食べて無いっけね。


「少し早いけど休憩すっか? 言われてみれば俺達も朝から何も食べてねぇしよ。何かあった時空腹なのも問題あるだろうしな」


 アラルの言う事も最もだ。

 俺は同意の意味もこめて頷く。


「あそこの岩場でいいんじゃないか?」


 俺が指差した先には比較的平らな大きい岩。


「そうだな。あそこでいっか」


 そうして辿り着いた岩場。

 全体的に黒い色合いで綺麗な岩だ。


「アキト、リラ、ほれ」


 アラルに渡されたのは、黒いパンに鳥肉をはさんだサンドイッチ的なもの。


「メラルがアキトの為に早起きして作ったらしいぜ」


「へぇ、うまそうだ」


「パンから手作りらしいからな。メラルの料理の腕は村でもトップクラスだからよ」


 おいしそうに食べてる笑顔のリラ。

 一転しゅんとなった。


「・・・私も料理覚えようかな」


 いやそんなに思い詰めなくてもいいじゃないですか・・。


「そういやリラは二日酔いとか大丈夫なのか?」


「二日酔い? 何それ?」


「白虎麦酒(ハクコバクシュ)だっけ? 飲みすぎて頭痛くなったりしてないのか?」


「え? 何でおいしい物飲んでるのに頭痛くなるの? でも、心配してくれてるんだ。大丈夫だよ! ありがと」


 とりあえずリラの表情が笑顔に戻ったからいいか。


「アキトもリラも飲める口みてぇだな。村に着いたら酒場行こうぜ!」


「酒場って何?」


「酒場ってのは白虎麦酒(ハクコバクシュ)みたいなうまい飲み物飲みながら、飯も食える所だぜ。たぶん白虎麦酒(ハクコバクシュ)は置いてないとおもうがな」


「ええ? あんなおいしいのに?」


「うまいからだよ。あれ実は手に入れるの大変なんだぜ」


「そうなのか?」


「あぁ、村にあるのはタイダル国でも一級品のだからよ」


「何でそんなものが? あぁそうか」


「ライサ元気かな?」


「誰だそれ?」


「ライサは白虎人(ホワイトウェアタイガー)の使者の一人で私の友達なの!!」


「なるほど。リラの友達か」


「うん、凄く上品で可愛いんだ」


「ところでよ? 俺とアキトはともかく、リラは徒歩で行くのはきついんじゃねぇのか? 状況が状況だけに、悪いがリラの速度に合わせるわけにはいかねぇぞ?」


 確かにアラルの言う事ももっともだ。

 俺達とリリラさんはおそらく半日は差がついている。

 それを追いつこうとしている以上、なるべく早く移動しなければならない。

 最悪俺が抱きかかえて行くしかないかな。


「大丈夫。そこはちゃんと考えてあるから」


 食べ終わったリラは魔法の杖をかざす。

 俺とアラルは何が起こるのかわからずぽかーんと見ていた。


≪浮遊(フロート)≫


 リラの身長が伸びたわけではなかった。

 足元を見ると、岩と足裏の間に、三十センチ程の空白が出来ている。

 こんな魔術もあるのか?


≪加速(アクセラレート)≫


 浮遊したままリラは、岩場の上をかなりの速度で移動し始めた。


「便利だな。それじゃ食べ終わったし進もうか」


 水筒から水を一口飲んだ俺。

 リュック状の荷物入れに戻してから歩き始めた。

 アラルも同じように立ち上がる。

 リラがかなりの速度で進む為、俺達も走ることになった。

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