第四話「女騎士と言えば(前編)」
「……実は少し前から考えていたんだけど」
村へと向かう道中、唐突に振り向いた創造主の複製体は、前置きするなり指をピッと一本立てた。
「せっかく君好みの美少女になったのに。口調が素のままはちょっと残念だと思うんだ」
「はい?」
もう一方の手で豊かすぎる胸を抱えるように持ち上げ、位置を調整する痴女の言い分に和人の理解が追い付かなかったのも無理はない。
「うーん、察しが悪いな。かわいい女の子には相応しい言葉遣いがあった方が良いんじゃないかって、そういう話にゃん」
「にゃん?! と言うか、そもそもボク好みって何ーっ!」
「それは私の口からはとても……」
だが、理解が追い付いてしまえばツッコミどころであり、即座にツッコんできた和人へ外見上は少女が頬を染めつつ顔を背け。
「だけど、どうしてもって言うなら……続きはベッドの上で」
「またそれ?!」
強引に同じオチに持ってゆく少女へ再び叫ぶ。
「君の言いたいことは理解している。だけど、私は君の子供が欲」
「つつしんで、おことわりいたしますよ」
「な、なぜだ?!」
欲望全開でアピールしてくる変態は地震の言葉に被せる形で示された拒絶の意へ大仰に仰け反って驚愕するも、和人からすれば、なぜ理解できないのとでも言ったところなのだろう。
「……そういうボクが変に気を追わないようにって冗談はもういいからさ、それより倒すべき相手のこととか、これからどうするのかとか教えてくれない?」
「っ、気づいていたのか……にゃ」
「や、『にゃ』はもういいって。……と言うか、そもそもボクが作られた理由とそっちのオリジナルが課せられている役目を鑑みれば、すぐ気づくことだし」
「はぁ……まさかこんなにあっさり看破されるなんてなぁ」
「……まったく」
顔を押さえ、参ったという風に嘆息する少女を横目で見て、和人もまた嘆息する。
「OK。ただ、敵の方は直接接触するのはいくらか先になると思うから、まず『これからどうするのか』の方について話そうか。私としてはいくつかの腹案がある」
「いくつかのって……」
「優れた策士は常に複数のケースを想定していくつもの選択肢を用意してるものさ。さて、その全ての起点となることだけどね。女騎士と言えば何だと思う?」
「えっ」
唐突な質問をぶつけられ、返答に詰まった和人を前に創造主の複製体は言う。
「悪党とかにつかまってどうのこうのとか考えた奴、死ね。もしくは廊下に立ってろ」
「ちょ、いきなり罵倒?」
「そりゃ、ね。君も女騎士なんだよ? そのカテゴリでまとめてろくでもない発想をしたということは、私の愛しい君を汚されたも同然だ。ならば、私には非難する権利がある」
あまりの言い草に驚く和人を前に至極当然と言った顔で少女は重そうな胸をそらした。
「むぅ、そう言われたら仕方ないゴブな。廊下ってどこゴブ?」
だから、棒っきれを片手にふむふむと頷いた子供ほどの背丈の二足歩行生物が問うてきたのも至極当然であり。
「へっ? うわぁ、なんか出たーっ!」
当然でなかった和人は顔を引きつらせながら声の方を見ると叫んだ。
「ふっ、さっそく現れたようだな。我らが敵。まぁ、オリジナルがあんな場所に送り出した時点でだいたい察していたが」
「な、どういうこと?」
「チュートリアル」
特に動じていない様子の少女っぽい変態に和人は問うが、返ってきたのは一つの単語のみ。
「ち、ちゅーと、りある?」
「ゲームなんかだとお約束だろう? 雑魚敵と補助付きで戦って戦い方を覚えるってのは。こいつは女騎士とは関係なく使命関連だけどね。君が役目を果たすつもりなら遅かれ早かれ、奴らと戦う日は来る。そうでなくても魔物の存在する世界なんだ。生きる糧を得るため、己や大切な人や物を守るため戦う日は必ず訪れる。だから、ね」
戦ってくれ、と少女は言う。
「急にそんなこと言われても――」
「大丈夫だ。オリジナルにやったようにすればいい」
「オリジナル、に……?」
「ああ。踏んでやれ」
まごつく和人の肩に創造主のコピーは手を置き頷くと、それから後で私も踏んでくれと付け加えた、とんでもない変態である。
「うぐ、見た目はかわいいしおっぱいも大きいのになんて変態ゴブ」
敵と称された生物までがドン引きしていた。
「ちなみに、君。あれがゴブリンだ。見た目は猿と人間の子供を足して二で割って醜くしたような容姿で、頭部に一から五本の角をもつ。角ははぎとり持ってゆくと地域によっては報奨金が出るから。余裕があれば折らずに仕留めるとよい」
「あー、その辺はどこかのラノベで読んだような設定なんだ……じゃなくて、何のんびり説明してるの?」
「こういうものはお約束だろう?」
「だけど、相手は」
待っていてくれないんじゃないのと和人はいいたかったのだと思う、ただ。
「ふむふむ、そうだったゴブか。そういえば角が五本ある奴がなんかやたら威張ってたのはそいつが理由ゴブな」
「って、聞き手に回ってるーっ?!」
「それはそうだろう、ゴブリンに転生してしまってはまともに情報を得る手段なんて人間から盗み聞きするか捕まえた人間を尋問するぐらいしかない筈だからな。ただし、この世界の人間は私達の都合に合わせてあっちの言葉は話してくれない」
人間に生まれていれば育つ過程で言語も習得できたかもすれないけどなとつづけた変態少女はにやりと笑う。
「ただ、私たちは違う。話した言葉は勝手に相手の言語に翻訳されて聞こえるようになっていてね。だからこそ、道中話しながら来たと言う訳さ。魔物に転生していれば情報を得るため盗み聞きしながらついてくると思ってね」
「なっ、図られていたゴブっ?!」
「や、今更?!」
驚愕するゴブリンに和人も驚いた。
「ま、それはそれだ、君。驚いてる今がチャンスだぞ?」
「え? あ、うん。じゃ、せーの……」
指摘されて我に返った和人は、強く地面を蹴り。
「ゴブ? あ、ちょっ、待、なにをするゴブーッ!」
少し遅れて飛んできた自分へ気づいたゴブリンを断末魔とグロいオブジェに変えたのだった。
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