それでも君が好きだよ
はななぎ よる
1.交差していきながら
第1話 輝かしい世界へ
赤い糸って信じますか?
運命的な出会いをするために付けられたその“イト”は、産まれたときからお互いの小指と小指に見えない赤い糸で繋がれてる。
その"イト"を手繰り寄せるためならどんな困難が来たって構わない。
アタシはそう決めたんだ。
決めたんだ。
―――・・・・・・
子供の頃に描いてた夢を叶える人ってどれくらいいるだろう?
あたしはその中の一人。
子供の頃になりたかった職業になれた人ってどれくらいいるだろう?
あたしはその中の一人。
夢だった職業を辞めたくなる人ってどれくらい・・・・・・
夢だった職業から逃げたくなる人って
せっかく叶えたのに、
逃げたい。
◆
小さい頃に画面越しから眩しいくらいに輝いていた“テレビの中の人たち”。
雑誌や新聞で子供ながらいっぱい調べて、好きで好きで毎日見ていた“テレビの中の人たち”。
いつの頃からかそれは好きから憧れに変わっていくのを感じていたんだ。
(あたしはアイドルになりたい。)
大きくなったら夢は現実になるんだと信じて疑わなかった。
大人になったら勝手になれるものだと思っていた。
「大きくなったらなりたいものはなんですか?」
小さい頃の良くある質問。
スポーツ選手、パティシェ、学校の先生・・・・・・。
そんなありきたりな回答ばっかりの中の1人のあたしだけど、みんなと違うことが1つだけあった。
“なりたい気持ち”。
この気持ちだけはアイドルになりたいと思ったときから誰にも負けない強い思いだった。
それはアイドルになってからもきっと、変わることなく揺るがない気持ちだと信じてやまなかった。
そんな夢をずっと
中学三年生の進路相談の時にまじめな顔して「アイドルになりたい!」と担任の先生に何度も言って、何度も怒られたっけ。
結局無難な、良くも悪くもない高校に進学してごく普通の生活がまた流れて行く。
学生生活と言う楽しい時間の流れと共に、“テレビの中の人たち”になりたい・・・アイドルになりたいと言う夢は少しずつ薄れていった。
とりあえず進学して、とりあえず就職して、その中で恋愛があって、結婚して・・・ごく普通の生活をしていく・・・・・・。
子供の頃の夢なんてその程度だと思うようになっていた。
そんなある時、友だちから思いがけない話が持ちかけられた。
「一緒にアイドルにならない?」
時が止まったような気がした。
思いがけない言葉にその刹那、自分がアイドルになる景色が思い浮かんだ。
溢れんばかりの客席、受け止めきれないくらい大きな歓声、全部全部あたしのものなんだと・・・・・・。
自意識過剰って思われるかもしれないけど、やっぱりあたしはアイドルになる!アイドルを目指すべきなんだ!
「その話、詳しく聞かせてくれない?」
やっぱり夢を諦めきれない“あたし”がそこにいた。
それが間違った選択だったとも知らずに。
◆
その日はすぐやってきた。
残暑が気になる街で、もう秋に入っても可笑しくないのに、蝉の残党がまだ生きてるぞと言わんばかりにチラホラ鳴いていた。
そんな気温とは打って変わって緊張しまくりのあたしは、汗をかいてることも忘れ、荷物の確認ばかりをしていた。
昨日寝る前に1回。今日家出る前に1回。電車乗ってるときに1回。改札出てから1回。ここに来るまでの道中で1回。そして今・・・・・・1回。
そうでもしてないとこの緊張はほぐれない。・・・・・・確認したところで取れるわけでもないけど。
あたしは大丈夫、あたしは大丈夫と何回も心の中で繰り返した。
(書類審査も通ったし、2次審査までなんとかやってこれたんだから・・・・・・)
そして今日。今日のオーディションに合格できれば晴れて夢のアイドル第一歩だ。
ゾロゾロとオーディション会場の中に入っていく女の子に混ざり建物に入っていく。あたしは一歩一歩踏みしめながら。
会場はワンフロワになっていて、ざっと見た感じ50人くらいはいるように見えた。
前の審査の時にスタッフさんが言ってたけど、応募は1万超えてたとかなんとか。
そんな数字聞いただけでも圧倒されそうだけど、この場に残ってる人数を見ても気持ちが負けそうだった。
誘ってくれた友達もこの最終オーディションまで受かっていたらしい。
会場で彼女を見つけたけど、緊張からか周りが見えてない様子で、歌とダンスの予習をしていたから声はかけず、向こうからも声をかけられないようにそっと距離を置いた。
オーディションの時間になると、スタッフの人が部屋の角にある扉から出てきて、一人ずつ隣の部屋に呼びオーデションが始まった。
一人、また一人・・・・・・。
隣の部屋に入るまでは、みんなぐっと力の入った顔をしていたけど、出てくる顔はまるでお通夜状態。
その人たちを見てまた自信低減。
そんなこと言ってる場合じゃないのはわかってる。わかってるんだけど、言い表しようのない気持ちがぐるぐる巡って、今にも「ぶ」が付くほどに倒れそうだった。
そして、
「エントリーナンバー652番。
アイコンタクトを送りながら呼ばれたあたしは立ち上がる。
クーラーが効いた部屋なのに、流れてくる汗を雑に拭いながら部屋へと向かう。
アイドルの階段を上るつもりで、決して駆け上がらずに一歩一歩踏みしめると心に誓い、その1段目をあたしは上がった。
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