第十話 やっぱりチートだった

肩で息をしているジュディアスに手を貸しているフィリア。

よほど体力を消耗したのだろう、顔が真っ赤だった。

僕は少し汗をかいたけどまだ余裕がある。


「化け物か君は」

「だから言ったであろう。ユーキは私よりも強いのじゃ」

「それにしたって限度がある……」


そんなことはないと思う。

ジュディアスは僕のでたらめな魔法を受け続けたせいで疲れているみたいだけど、僕は夢中で魔法を連打していただけだ。


「それがおかしいのだ。そもそも言霊は媒体作成より何倍も魔力を消耗する」

「え?」

「ユーキに初めて魔法を教えた日に、普通では倒れて気絶するようなほど魔法を連発しおって、心底驚かされたのじゃ。その日からユーキは私より強いと確信したのじゃ」


そういえば、初めて魔法を教えてもらった日に嬉しくてこの庭でいくつも魔法を使ってた。

その時のフィリアの呆れた顔は、そういう意味だったのか。


「認めよう。君は僕より強い。もしかしたらフィリアより強いと言うのも納得した……だが諦めたわけではない!」


ビシッと、指を突き刺されて強敵(ライバル)宣言された。

それに対して僕は苦笑いするしかない。

僕のなんとも言えない表情につられてジュディアスも笑った。

なんとなく穏やかな空気になったところに……


「ユーキ!」

「危ないのじゃ!」


急にフィリアに突き飛ばされた。

僕は顔面から着地して一瞬暗転した視界をすぐに戻す。

なにが起きたのか確認するために振り向くとノーブルがいた。

フィリアが背中を向けて立っていたけど、二、三歩下がって倒れる。

倒れてノーブルの顔が見えたけど、その表情は狂喜に染まっていた。

状況が理解できない。

いや、理解したくない。

視覚から入ってきた情報を頭が知覚した瞬間、僕の口から叫び声が上がる。


「フィリアァァァアアア!!」


赤い! 地面を赤く染めていく。

止まらない、駆け寄って抱き抱えると微かに震えている。

どうすればいい? わからない。


「あはは…」


混乱する頭にノーブルの笑い声が降ってきた。

こいつは、こんなことをしてなんで笑っているんだ。

どうしてこんなことを……

どうして血に濡れたナイフを持って笑っているんだ!


「貴様ー!!」


ジュディアスが疲れの抜けきっていない体を立たせて魔法を放つ。

放たれたウォーターボールはノーブルに命中し、よろけさせるも威力が低かったのか倒れはしなかった。


「あはは、そうよ。みんな死んじゃえばいいのよ。フィリア様も、ユーキも、私も!」

「止めろ!」


僕は使う予定はなかったが、万が一のため前々から用意していた魔法を発動する。


「肉体強化」


発動した途端、世界が止まったように感じる。

その止まった世界の中を僕だけが動く。

ノーブルのナイフを遠くに弾き、気絶させるために一発殴る。

そして、またフィリアの近くに戻る。

この魔法は消耗が激しいのかすぐに効果が切れた。

体を支配する虚脱感に意識が持っていかれそうになるのを意思だけで留める。


「ユーキ! お前がやったのか。大丈夫か?」

「だ、いじょう、ぶ。だけどまだだ……」


僕は白紙の紙を媒体箱(ボックス)からだすと、その場で媒体を書き上げる。

大丈夫、まだそのくらいの魔力は残ってる。

回復とかかれた媒体を持って言霊を紡ぐ。

フィリアは緑色の光に包まれた。

光は出血のひどい傷口に集まると、吸い込まれるように消えた。

苦しそうなフィリアの表情がなくなり、体の震えが止まる。

よかった。これで安心だ。

気がつけば大量の汗をかいていた。

もうどこにも力が入らない。

意識の戻ったフィリアと入れ替わるように僕は意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る