第二十五章 小藤の秘密
謎の能力を秘めた小藤弘は宙に浮き、かすみ達を見て不敵に笑った。
「その手の攻撃は通じないと何故わからないのだ、ハロルド?」
小藤の言葉にロイドは目を細めた。
「ハロルド?」
片橋留美子が手塚治子を見た。治子は、
「ロイドさんの本当の名前よ」
ああ、と留美子はロイドをチラリと見る。
(私達は一瞬隙だらけだったはず。でも、小藤は何も仕掛けて来なかった。何故?)
治子は自分の能力である
(少なくとも小藤は
治子は楕円形の黒縁眼鏡をクイッと上げて考えた。しかし、わからなかった。
(小藤のもう一つの力は何?
かすみも小藤の謎の力に思い至れない。
(ここまで攻撃をしても、奴は防ぐだけで何もしない。何を企んでいる?)
小藤の不気味さはロイドも感じていた。するとまるで三人の思考を見透かしたかのように、
「来ないのか? ならばこちらから行くぞ」
小藤はスウッと宙を滑空すると、ロイドに接近した。
「何のつもりだ?」
ロイドは身じろぎもせずに小藤を見た。小藤はニヤリとして、
「私の力を見くびり過ぎだよ、ハロルド」
そう言って右手をかざすと、五本の指先全てから炎を放った。
「何!?」
意表を突かれたりロイドは瞬間移動でそれをかわした。行き場を失った炎は廊下の窓ガラスを溶かして消滅した。それを見て、かすみと治子は唖然とした。
(
小藤が今まで一度も使わなかった力だ。小藤はかすみ達が驚愕しているのを見て嬉しそうに笑い、
「驚いているようだね。私の力は無限なのだよ」
かすみの背中に冷たい汗が流れた。
(小藤の誘いに乗ってしまったの? 奴は自分の能力を隠していたという事?)
(小藤の隠し球がパイロキネシス? そんなはずはない。隠し球にするような能力ではない。今になって使ったのには何か理由があるはず)
治子は無駄とは思いながらも、小藤の心を覗こうとした。するとそれに気づいた小藤が、
「治子君、無駄だよ。君程度のサイキックでは私の心は覗けない」
治子は悔しさで歯軋りした。かすみはその時、かすみの家で殺されたチャーリーの事を思い出した。
(あの人は身体中の関節を不自然にねじ曲げられて殺されていた。あれが小藤の力だというのなら、サイコキネシス。でも小藤は一度も私達にサイコキネシスを使っていない。何故?)
そしてもう一つ思い当たった。
(パイロキネシスはあのチャーリーという男も使っていた。という事は?)
かすみの分析に気づいた小藤はフッと笑い、
「鋭いねえ、かすみ君。もう少しで正解だが、正解したからといって、君達の絶望的な立場は何ら変わらないよ」
確かにその通りだった。小藤の能力が何であれ、圧倒的な力の差は歴然としている。形勢は逆転できない。
「ならば戦い方を変えるまでだ」
ロイドは目を細めた。そして、瞬間移動しようとした。その時だった。
「ダメ、ロイド! いけない!」
かすみの予知能力が勝手に発動した。彼女は小藤に叩きのめされるロイドを見たのだ。ロイドはハッとして瞬間移動を止めた。そしてかすみを見た。
「何が見えた、カスミ?」
小藤の顔色が変わった。
(おのれ、気づいたか、道明寺かすみ!?)
彼は舌打ちしてかすみを見た。だが、かすみの予知能力は未来の一瞬を見せるだけ。どうしてロイドが小藤に叩きのめされたのかはわからない。だが、ロイドは接近戦をしようとしていた。その事が関係しているらしいのはかすみにもわかったが、何故なのかまでは見えて来ない。
「わからない……。でも、その人に近づいちゃダメ。それだけはわかったわ」
かすみは小藤を睨みつけたままでロイドに告げた。ロイドも小藤をガラス玉のような無感情な目で見て、
「なるほど。そこに何かあるという事か」
小藤はまたニヤリとした。
「遠巻きに攻撃しても、全て無効にされる。接近戦は危険だからできない。という事は、決して私を倒せないという事ではないかね、かすみ君?」
かすみは小藤の小馬鹿にしたような言葉に悔しさがこみ上げたが、その通りなので反論できなかった。
(どうすればいいの? こいつに弱点はないの?)
考えれば考える程深みに
(この閉塞感を打開する手段はそれしかない)
ロイドは行動に出た。小藤のすぐそばに瞬間移動したのだ。
「ダメ、ロイド!」
かすみは絶叫した。治子にはかすみの心の中が透けて見えた。
(かすみさんはロイドさんを肉親のように思っているのね)
治子はロイドが身を捨てて小藤の秘密に迫ろうとしているのを感じ、その行方を見極めようと意識を集中した。
「肉弾戦はどうだ、外道?」
ロイドはいきなり小藤を右ストレートで殴った。小藤は防御する暇もなく、それをまともに食らったので、窓ガラスを突き破って、理事長室の外まで飛ばされた。彼の身体は校庭の植え込みに落ち、転がった。
「嘘……」
かすみはその展開が信じられないのか、目を見開いている。留美子も同じだ。治子だけが冷静に事態を分析していた。
(小藤は防御できなかったように見えたけど、本当にそうなの?)
彼女は殴られる直前の小藤の顔をしっかりと見ていた。小藤は笑っていたのだ。小藤の反応に驚いたのはロイドも同じだった。彼は崩れた床の上に降り立った。
(特殊な防御をするのかと思ったが、これは一体?)
だから余計に不気味だった。
(何をするつもりだ、小藤? それとも不発に終わっただけなのか?)
小藤はふらつきながらも植え込みからゆっくりと立ち上がった。
「さすがだ、ハロルド。能力に溺れず、肉体も鍛えているようだね?」
小藤は口から流れ出た血を拭い、折れた奥歯を吐き出した。
「だが、終わりだ」
小藤は目を見開いて言い放った。かすみはその時、はっきりと知った。
(この瞬間が、予知能力で見えた一瞬だ)
ロイドは自分の身体に何かが侵入して来るのを感じた。
(これが、奴の能力?)
肉体の自由が完全に利かなくなるのがわかった。
「実に惜しいが、仕方がない。死にたまえ、ハロルド・チャンドラー」
小藤の目が細くなった途端、ロイドの全身に激痛が走った。
「ぐあああ!」
関節の全てが捻れていく。そして、血液が流れを止めるのもわかった。
(俺は死ぬのか……)
ロイドはふとそう思った。
「ダメーッ!」
かすみが絶叫した。彼女の身体が
「何だ!?」
小藤がその異変にギョッとし、かすみを見た。しかし彼女は光に包まれ、姿が見えなくなっていた。
(これが翔子を追いつめた道明寺かすみの能力か!?)
小藤は手をかざしてその光を遮った。かすみの放った光がロイドを包み込むと、彼の身体を拘束していた小藤の力が消失して、痛みが消え、血液が流れ始めた。
「く……」
ロイドは呼吸を整え、チラッとかすみを見てから、小藤を睨んだ。
(奴のもう一つの能力は、触れた相手の身体に自分の力を送り込み、支配するものだったのか)
小藤が誘っていた理由がわかり、ロイドは納得ができた。
「かすみさん!」
輝きを失った途端、かすみは脱力したように倒れかけた。それを留美子が素早くサイコキネシスで受け止めた。
(やはり一番に始末すべきは道明寺かすみのようだな、翔子)
小藤の鋭くなった目がかすみを睨みつけた。
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