第三章 想像を絶する異能者
道明寺かすみは、何かと関わりのある森石章太郎と食事をするために、森石と交際していると思われる元クラス担任の新堂みずほとの待ち合わせ場所であるオープンカフェに出向いた。かすみは着替える事なく制服のままだったので、周囲の視線を集めている。そのボタンが弾け飛びそうな胸とムチムチした太腿が丸見えのミニスカートは、他の女性達のファッションを圧倒してしまっていた。思わず見入ってしまう男達が頻発し、隣を歩く彼女や妻をムッとさせている。
(外に出てみると、確かに校内が如何に力を押さえ込まれていたかわかるな)
反動のようにグイグイ来ている馬鹿な男の気が鬱陶しいくらいなのだ。
(思い起こしてみると、あの横山君の
かすみは自分の身近に危機が迫っている事を再認識し、身震いしそうになった。
(天馬翔子が死んでも、何となくだけど嫌な感覚が残り続けていたのは、今回力を押さえ込んでいる敵の登場を予知していたという事なのかな?)
「道明寺さん!」
カフェの端にあるテーブルに着いていたみずほがかすみに気づき、嬉しそうに手を振った。みずほは帰宅して着替えて来たようだ。スカートスーツではなく、淡いブルーのワンピースを着ている。イヤリングも大降りで、今まで付けているのを見た事がない。心なしか、メイクも濃いめだ。でも、普段化粧っ気がないみずほであるから、それほどケバくなっている訳ではない。
「お待たせしました」
かすみは微笑みながらみずほに近づいた。
「天翔学園大学に進学した手塚治子さんから連絡があったので、びっくりしたの。彼女もかすみさんと同じなの?」
みずほは
「ええ。それから、二組の片橋留美子さんも来ます。彼女もそうですよ」
かすみの言葉にみずほはこれ以上開けられないくらい目を見開いていた。
「そうなんだ……。片橋さんて、最近コンタクトに変えた子よね? そうなんだあ……」
異能者でない者には異能者である事が脅威に感じられるのが常なのだが、みずほにはそういう感覚はないようだ。
(だから森石さんは新堂先生と付き合っているのかな?)
綺麗な女性と見れば誰にでも優しくする森石がみずほを選んだ理由をそう判断したかすみは、
(でもそれは新堂先生に失礼ね)
そう思って取り消した。
「遅くなりました」
治子と留美子は一緒に現れた。二人も着替えてはいない。
「治子さんとは何度か話した事があったけど、留美子さんとはなかったかな?」
みずほは申し訳なさそうに留美子に言った。留美子は苦笑いして、
「私、人見知りですから。先輩とかすみさんくらいしか、話せる人がいなくて……」
治子と顔を見合わせて微笑む。それを見て、かすみには見えてしまった。
(この二人、そういう関係なんだ……)
覗くつもりはなかったのだが、先輩と後輩、いや、女性同士の友人以上の親密さを持っているのが強烈なイメージと共にかすみの脳裡に入り込んで来たのだ。留美子は気づかなかったようだが、千里眼を持つ治子は気づいたようだ。
『かすみさん、先生には内緒にね』
かすみはみずほに話しかけながら、
『もちろんですよ。誰にも話しません』
治子とかすみが微笑み合ったのを見て、留美子が、
「ああ、二人で内緒話ですか? 羨ましいなあ」
嫉妬という程ではないが、あまり社交的でない留美子は、そういう阻害されたような行為に敏感なようだ。
「え? 二人は何も話していないわよ」
みずほが天然混じりの発言をしたので、留美子はハッとした。
「ああ、そうですね」
四人揃ったところにそこそこ男前なウエイターが注文を取りに来た。純情なみずほと男に対して免疫が全くない留美子はドキドキしているのがかすみと治子には手に取るようにわかった。
「新堂先生はいつから森石さんとお付き合いされているんですか?」
治子が運ばれて来たパンケーキを頬張りながら尋ねると、
「もう、みんなしてわかっているのに面白がって……」
口を尖らせていたが、ポツポツと話し始めた。
切っ掛けは何と保健教師の中里満智子だったそうだ。彼女が一体どうやってなのか、あるいは偶然だったのか、森石がたまたま立ち寄ったバーに居合わせた。森石はかすみから中里の気持ちを聞いているので、半ば警戒しながら応対していた。酔いも手伝ってか、中里が核心を突く質問をした。
「付き合っている人はいるのですか?」
森石は仕事柄そんな暇はないと言おうとしたのだが、そんな事を言ったら中里と付き合う事になりそうだと思い直し、
「はい」
嘘を吐いた。中里は平気なフリをしていたが、相当ショックだったのが丸わかりな程動揺していたので、さすがに気が咎めた森石が帰ろうとする中里を送ろうとしたが、中里はそれを振り払ってふらつきながらも一人で帰ってしまったという。
中里との再会で森石はみずほの事を思い出し、交際を申し込んだらしい。森石と連絡が取れなくて沈んでいたみずほは大喜びしたようだ。
(新堂先生の話に嘘はないけど、森石さんの話が真実なのかはわからないな。相変わらずガードが堅い)
かすみは以前、森石自身から、
「俺のアンチサイキックの能力も絶対的なものではないらしいんだ。相手の力が圧倒的なら、壁を突き破られる可能性はあるって聞いた」
そんな話をされている。だからみずほを通じて森石の心の内を覗こうとしたのだが、ダメだった。
(まだ私のレベルでは、森石さんの壁を突き崩す事はできないのね)
ちょっとだけ悔しく思えてしまう。それは治子も同様だった。
「相変わらず、森石さんは用意周到でガードが堅くて高いわね」
彼女は肩を竦めた。
「何だ、もう俺の悪口で盛り上がっているのか?」
するとそこへ不意に森石が現れた。途端にみずほの顔が朱に染まり、笑顔が輝きを増す。
「悪口なんか言ってないよ、森石さん。今、二人の馴れ初めを訊いていただけよ」
かすみが悪戯っぽく笑って告げると、森石は、
「そんな事を探るなよ、お前ら。反則だぞ。ねえ、みずほさん?」
今まで何人もの女性を落として来た必殺スマイルで言う。すでに落ちてしまっているみずほは顔を真っ赤にして俯き、
「え、ええ……」
口籠ってしまった。森石はニヤッとしてから伝票が挿まれたクリップボードを手に取り、
「さあ、行こうか。ここよりもっと高級な店にさ」
それを振り回しながら、レジへと歩き出した。かすみは治子と顔を見合わせ、微笑んだ。森石は実は警戒していたのだ。
(この前いきなり現れたサイキックは全く気配を感じさせなかった。天馬翔子レベルの異能者がゴロゴロいるような気がする)
敵の目的がわからないうちは目立った行動はとらない主義なのだが、そんな悠長な事を言っていられる段階ではないと思ったのだ。
(森石さん、警戒している?)
かすみは森石が真顔になったのでドキッとした。治子もそれを感じているらしく、留美子に目で合図をしている。留美子も顔を強張らせた。
「何だよ、いきなり黙り込んで。久しぶりに顔を合わせたんだから、もう少し陽気になろうぜ」
森石は自分の警戒心がかすみ達を刺激してしまった事に気づき、財布から札を取り出しながら言った。
「うん、そうね」
かすみは彼に合わせて微笑んだ。その時、治子がいきなり店の向かいにあるビルの上を睨んだ。かすみと留美子もハッとしてその視線を追いかけた。
「言ったはずだぜ、兄ちゃん。今度嗅ぎ回っているのを見つけたら、ボン、だってさ」
そこには痩身で、ブロンドの髪を真ん中から分け、肩まで伸ばし、無精髭を顎に生やした若い白人の男がいた。白い無地のTシャツを着て、藍色のジーパンを履いている。森石の顔が引きつった。
「お前は!?」
その白人は、かすみ達と共に戦ったサイキックのロイドと縁があると思われるチャーリーと呼ばれた男である。周囲の客達はかすみ達の様子を見てざわつき始めた。
「かすみさん!」
治子が叫んだ。チャーリーがサイコキネシスを発動したのだ。
(この店ごと吹き飛ばすつもりなの!?)
かすみはその桁外れの力に仰天した。そして、治子の考えを読み、予知能力を発現させ、治子の千里眼能力と連動させた。
「ぬう?」
チャーリーは二人の連携に気づき、眉を吊り上げた。辺り一面を廃墟にしかねないような莫大な力が、かすみと治子の連携の力で煙のように消失してしまった。
「こりゃ驚いたぜ。運がいいなあ、兄ちゃん。またな」
チャーリーはフッと姿を消してしまった。
(サイコキネシスと瞬間移動の能力……。ロイドと同じ……)
危機は去ったが、それは一時的でしかないとかすみは感じ、背中にジットリと汗を掻いてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます