第21話 リトライ

ふたたび洋服屋の店員として働くことになったと言っても、元のお店に戻ったわけじゃない。

まったく別の会社、まったく別の店で働くことになったのだ。

なぜ、また洋服屋の店員になったのか?

理由は...率直に言えば、他に働く先が見つからなかったからだった。


飲食店は、自分はアトピー性皮膚炎なので、それを悪化させてしまう可能性があるので、選択肢としてない。

コンビニは、仕事内容のわりに賃金が割に合わないと思っているので、選択肢としてない。

そもそも、地元は知り合いと遭遇する可能性があるので、地元では探せない。

知り合いには出来る限り会いたくはなかった。

当然だよな。

留年してるって負い目があるんだから。

当時の自分は、留年してることをネタに話せるほど、まだまだ自分に自信が持てなかった。


いろいろ探したものの、そんな理由で、結局洋服屋ぐらいしか選択肢がなかった。

工場とかも考えたのだが...あんまり学べるものがある気がしない...。

入ったのは、某外資系のファミリー向けの大きな洋服ブランドだった。

名前を出せば、誰でも知っているようなお店。


入ったのは、大学4年目の12月のこと。

面接を受けた時、もともと洋服屋で働いていた事を履歴書に記述したら、

「わたし、もうキミを雇うことに決めたから」

と、その場で即決で採用を言い渡された。

そのことに少し不安を覚えたけど...。

そもそも、前のお店を辞めた時点では、まだ自分は洋服屋の店員に向いているとは思えなかったのもある。

また洋服屋の店員になって大丈夫なのかな。

そんな不安は心に引っかかっていた。


だが、このお店に入れたことが...自分を変えることができた、もっとも大きなキッカケになった。

このお店には入れたことを、今ではとても幸運だったと感じている。

はじめは、このお店にはおそらく1年ぐらいしかいないだろうな、と考えていた。

たぶん馴染めないだろうし、やっぱりいろんなバイトを経験したほうがいいかなという考えがあったから。

だが結果としては、その後大学を卒業し就職するまでの4年3ヶ月、ずっと働き続けることになったのだ。

それほど、働き続けたいと思ったし、多くの経験を得て、学ぶことも多かった。


前の店で半年間働いた、あの苦しかった時期は、このお店に入るためにとても役立つ経験になったと思う。

もしかしたら、このお店で働くために必要だった半年だったのかもしれない。

半年間働いたお店にも、4年3ヶ月働いたこのお店にも、とても感謝している。


では、なぜ4年3ヶ月も働くことになったのか。

このお店でどんな事を学び、どんな経験を得たのか。

そして、わたしはどんなふうに変わっていったのか...。

それを、これから書いていこうと思う。

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