第283話

体感的にかなり長い時間、鉄製の通路は不快な軋み音を立てていた気がするが、最終的な結果としては通路は耐えた、いつのまにかうつ伏せに倒れ伏していたものの、スズの体はまだ高度5000mにある。


「はぁ……ふぅ…」


一様に倒れたり手すりにしがみついたりする中、唯一立っているカノンがひしゃげた、いや破裂した通路の前で乱れた息を整える。それを見て、ふと横に目を向けると端まで転がって金網に引っかかり動けなくなっているヒナメルがいたので引っ張って通路中央へ戻す。


「……やはり足りんか…この程度ではな…」


被害の及んでいない階段近くまで這って戻って、先にそこまで逃げていたニニギ、及び彼に抱えられる形で落下を免れているシオンと合流すると、彼女はカツンと大剣の切っ先を落とした。振り返ったその目は金色に発光していたが、すぐにオレンジ色へと戻って、表情も笑顔を取り戻す。


「えぇ…と……」


「驚く必要は無いよベルっち、私は壊す事しか能が無いけど、壊す事に関して私に勝るモノは存在しない」


では遅ればせながら一閃の結果を距離の近い順に確認する。まず各砲台を繋ぐ空中通路は一行の居る一帯、長さにして10m程度を残し消滅していた。切断面を見る限り単純に力で引き千切られたようで、残った部分も歪みひしゃげている。

次に枝表面、こちらはグラインダーでもかけたのかってくらい見事に削れており、カノンから離れるにつれ深くなる。こちらも同じく押し出されたようだ、断面が非常に綺麗なのは指向性が高かったからだろう。

そして問題のルミナスであるが急に高度を下げて3000m付近、まだ生きているが、あれだけバカスカ撃っても貫通できなかった装甲は左胸部から左翼根元を通って下腹部まで剥がされ、さらに左足を失っていた。血は出ていない、というか間違いなくあれは肉ではない。

最後に地上の様子、放射状に更地ができていた。スズもアマノムラクモで似たものを作った覚えがあるが比ではない、アマノムラクモが目の前に作ったのに対し、カノンは高度5000mから放っている。


「………………おい」


「うん…?あぁいや咄嗟に」


「それはわかっけど右手」


「え?」


「さっきから野郎が触っちゃいけない所にずっと触ってるみーーぎーーてーー!!!!」


「おおあああ…!」


知らぬ間に脱出していたヒナに続いてニニギを引き離したシオン(助けられはしたので特に報復無し)も上へ。「さあ急ぐべ!」とか言うカノンは鏡と勾玉をニニギに放ってから、続くメルも「不可抗力なんだけどゼロだからあの人、覚えといて」と言い残す。なんというかオオクニヌシの血筋といいアホオヤジは生まれるべくして生まれたのだと改めて納得しつつスズは無言で上がっていき、枝先の天叢雲を見据える。

後は走るだけだ。


「で?アイツはまだ上がってくるんすか?」


「攻撃能力は半分くらい健在に見える。カップ聞いてもいい?」


「その体よりは小さい。なら急ぎましょう、あと1キロくらいなんで全力で」


「いや大丈夫でしょ、あれだけ落ちたんだから歩いても間に合うさね。気分は?」


「最悪だよ。油断は命取りです、戦場では頑張った分だけ危険が減ると…おい触るな!!」

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