第276話
「つあっ!!」
鐘楼の根元に一撃加えた直後、大鬼の首は刎ね飛んだ。振り抜き終えた右腕大型ブレードを格納、左脚で踏ん張る事でかっ飛んできた勢いを殺しつつムーンライトは反転する。頭を失った大鬼が崩れ落ちて元の妖怪魑魅魍魎にバラけるのには目もくれず、倒壊した鐘楼から這い出てきた2人が騒ぎ出したのはちょっとだけ見て、残り1体へ向けブースターを再噴射、左腕小型ブレードを刺突する。相手は右腕の金棒を振るってそれを弾き、空いていた左腕を叩きつけてきた。
『ぬああぁぁぁぁ映画じゃんもうこれ生だよ生!?』
『フェイちゃん大丈夫!?応援したらパワーになる!?』
「バカな事言ってるヒマあったら細かいの片付けといて!!」
モロに殴られた衝撃で建物に突入、時の鐘ほどじゃないが高い金払って維持していた家屋が一瞬で廃材に成り果てた。調子乗って追撃してきたそいつの金棒を小型ブレードで受け止め、右腕で首を掴みつつブースターの全出力をもって押し返す。最後に脚力も使って通りの反対側へ突っ込んで同じ目に遭わせ、そのまま格納状態だった大型ブレードを展開すればスイングしてきた刃によってやはり首を飛ばされた。
次
「ふぅ……ちょっと強そう」
最初に名前を述べると牛頭馬頭(ごずめず)という2人組である、それぞれどでかい斧を握っている。ザコを片付けている間にいつの間にか現れており、体長6mでムーンライトよりやや小さく、大鬼のようにわめき散らしたりはしていない。外観は名前の通り、牛頭鬼は牛の頭、馬頭鬼は馬の頭をした半身半獣で、服装は他の鬼と同じく赤と白のパンツ一丁だが、自身の体長とほぼ同じ長さの柄を持つハルバードみたいな斧を武器としている。ムーンライトが頭を向けるとそれぞれ腰を落として戦闘体勢を取り、じりじりと摺り足で接近を始めた。
「しゃらあッ!!」
カウンター姿勢を取りつつ、そうやって近付いて射程に捉え次第一撃必殺を狙う、いわゆる"先に動いた方が負け"的な戦いを仕掛けて来たのだろうが、そんなじれったいのがまったく性に合わないフェイはブースターをいきなり噴かす。右腕ブレードを右から左へ振り抜いて、そっち側にいた馬頭鬼が斧を合わせて防御、同時に牛頭鬼は大きく踏み込む。
『もしもーし、すんげぇーのがそっち行きましたよぉー』
「今やっつけてるから!」
『フゥー!さすが中尉!一片残らず地球上から消し去っといてくださいねぇ!』
上段から落ちてくる斧が命中する前に左腕ブレードを突き出す、牛頭鬼右腕へ刺さったそれが関節の動きを阻害、直後にムーンライトの装甲へ刃は接触したが、僅かな衝撃の他には擦り傷が残ったのみ。右腕ブレードを押さえていた馬頭鬼の斧が切り返して頭を狙う動きを見せた為、素早く左腕ブレードを引き抜いて阻止、したかったものの、刺されている牛頭鬼が筋肉を締めて引き止めやがったので、やむなく右腕ブレードを格納、背中の鞘を展開し、空いた右手で柄を掴む。思い切り振り落とせばロングブレードは高周波を発生させつつ鞘を脱出、極端に重心が前に寄った平頭形剣身が遠心力を漏れなく使って馬頭鬼へ襲いかかった。
「づ……!」
直撃したが頭は取れなかった、大量に並んでいる複眼カメラのうちいくつかが機能停止するも、こういう時の為の複眼だ、無事なカメラが投映範囲を広げてカバーする。無理に広角化したので右側の映像が歪んでしまったがまぁ良し、衝撃から立ち直り、よろめくムーンライトを立ち直らせ、改めて牛頭馬頭を見てみれば、まず牛頭鬼に刺していた左腕ブレードは抜けていて、ロングブレードも右手からすっぽ抜けていた。すっぽ抜けたロングブレードは馬頭鬼の脳天を見事に潰しており、勢い余って左側の肩と、胸と腹と腰と、ついでに足もモザイクが必要な感じに仕立て上げてしまっている。あれはどう見ても致命傷だ、ミンチになった部分は霧散を始めている。しかし残った右半身、最後の力を振り絞ってんだか何だか知らないがまだ息絶えておらず、横薙ぎにされた斧を咄嗟に左腕ブレードで受け止め、道路に刺さっていたロングブレードを回収、高周波の再起動を確認するや強引に振り回して馬頭鬼の残り半分をもうひと分割した。そうすれば完全に再起不能、散らばった上半半身と下半半身は視界から外し、まだ健在の牛頭鬼へ意識を集中、左腕ブレードも収納してロングブレードを両手で握る。右腕を既に潰しているため全力は出せない筈だが、なかなかの速度で突き出してきた斧を下から弾く事で回避、続いて上、左、右上と連続して互いの武器を打ち合わせていく。その間ムーンライトは1歩半後退、道路側面の建物まで追い詰められた。
『ちょい失礼!』
やっぱり生身と比べると動作のぎこちなさは否めない、次の一撃は貰う必要があるか、などと考えていたら視界をオレンジが横切った。いつの間にか屋根まで登って、ムーンライトの肩を経由して牛頭鬼眼前へ飛び込んだカノン、夕焼けみたいな髪と、スカートと、スリングで提げたバトルライフルを翻しつつ防げそうになかった通算5撃目へ大剣を叩きつけ、フェイの代わりに跳ね返して落ちていった。相手は急いで斧を振りかぶり直そうとするも、何もしていないムーンライトの反撃に間に合う筈も無く、左腕のみで薙いだロングブレードで腰を断たれ、飛んだ上半身が空中にある内に右腕ブレード展開、右から左への一撃で胸を斬り、ロングブレードを手放しつつの切り返した連撃で腕を両方とも斬り落とす。もうこれ以上は無駄でしかなかろうが万に一つも無くしたかったので、ついでとばかりに左腕ブレードで首を突いて、そうしたらバラバラに刻んだ体が路面に散らばる中、頭部だけが刃の上に残る。普通に不気味だったのですぐポイしたが。両腕ブレードを格納、ロングブレードも鞘へ納め、群がってくる魑魅魍魎を追い払うべくウォーキングしながら通信機に手を伸ばす。
「シオン、こっちに来るまでまだかかる?大きいのは片したけど細かいのがたくさんいるからそうなら撤退するけ……ど……」
と、
『うーんまだちょっとかかりますねぇ、少なくとも50口径弾を積み終えるまでは』
いう所で、ようやく巨大グモがご登場あそばされた。
「きっ……!!」
頭部は穴だらけ、左最前列の足を失った状態ではあるが、ムーンライトより遥かに大きな体でのそりと通りに現れたソレの眼球群に捉えられた(気がした)瞬間、全身に鳥肌が立ったっつーか毛が逆立った感覚がして、同時になんか下の方でずずずとアスファルトの擦れる音。
「どどどどどどどどどどど早く来て!!!!」
『おや、その様子からしてようやく出会った感じ?こりゃいかんエド少佐ー!燃料も補給してきましょうやー!』
「バカ!!!!」
毛に覆われた茶色い体はおそらくクモ綱クモ目オオツチグモ科、いわゆるタランチュラである。いずれの種にしろ人間に影響を与えられるほどの毒は無いか、あっても生死に関わる事はまずなく、自衛に使う腹部の刺激毛が皮膚に付くとかぶれる程度。上顎は鋏角と呼ばれる鎌状構造になっており、捕食の際にはこれを使用する。世にも珍しい体外消化を行う生物でもあり、獲物に消化液を流し込む事で溶かしてから飲み込むため、中身を失った殻や皮のみが残される。いずれにせよセラミック装甲のムーンライトにとってはどうでもいい情報であり、そしていかに巨大といえどクモの体はとても硬いとは言えないものだ。実際ストライカーやT-14によって既にかなりのダメージを負っている、牛頭馬頭ほど手間取りはしないだろう。
『フェイちゃん大丈夫!絶対負けないから!後ずさる必要ないよ!』
「いやわかっっ…!わかったててるけどなんかスティック前に倒してるなのに後ろ下がるんだけど!!」
『DBAC切れぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!』
そうだ、感覚操作はこういう時欠点だ、割とマジで命かけて戦ったあの時でもここまで焦らなかったってくらい焦りながらコンソールを指で突いてDBACをオフに設定、改めて両手をコントロールスティックに、両足をフットペダルに。
「えっと…………ん?」
はて
このスティック2本とペダル2個しか無い操作系統で今の近接一辺倒なこの機体に戦闘力を求める事は可能なのか
否、断じて否である。
『ほら来た来た来たから!!』
「ああああ……あぁもう!」
ガツガツと爪音を立てて加速し始めたタランチュラを見て咄嗟に右腕ブレード展開、右のマニュアルコントローラーへ指を突っ込む。勢いそのままストレートパンチを繰り出すと奴の頭部前面にあった触肢を串刺しにして、空いている左手で切ったばかりのDBACを再起動、ブースター全噴射と共に左腕ブレードでアッパーを見舞った。なんかの体液が溢れて左腕にかかったのを涙目で見ながら同じ箇所に3発追加、相手を後退させる。
「あぁぁぁやっぱ無理ぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
『という訳でフェイ選手早くもリタイアしましたがカノン選手どうでしょう!?』
『嫌だわあの毛素手で触るとかぶれるんだぜ!?乗ったりなんかした日にゃ……』
いきなり轟音が鳴った、次にクモが横転した。
『おおっ?』
何が起きたかはすぐわかった、散らばっていた瓦礫をうまく使ってジャンプした機動戦車が腹部に体当たりし、密着状態でAPFSDS弾を叩き込んだのだ。ひっくり返ったタランチュラは死んだかどうかはわからないものの行動を停止、機動戦車は着地後すぐ後退、必要最低限の距離を取りもう1発、榴弾を撃ち込む。
『無事か!?』
「ありがどうございまずぅぅぅぅぅぅっ!!」
『無事…ではなさそうだな』
もうオーケーだよ、中華くらい食べ行くよ、ひっくり返って足閉じて腹部を破裂させてるタランチュラが爆煙の中から出てきたのを見るや心の底から安堵する。
しかし束の間
『おっ』
腹から小グモが大量に出てきた。
『『「ひきゃーーーーーーッ!!!!」』』
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