第241話

樹が伸び始めた。1年かけて1kmなどと、そんなゆっくりしたものではない、ほんの数秒、頂点を見つめただけで変化を体感できる速度の成長である。当然、背が伸びるだけに留まる訳もなく、大小ありとあらゆる枝も暴れ出した。瑞羽大樹での事と同じように、ただし無差別かつ無秩序に伸び、枝分かれし、葉を出していく。


「遺物保管庫から大内裏へ、そちらの様子をお聞かせ願います、ちなみにこちらは閉じ込められました」


玄関ドアは開かなくなった、窓を開けても巻き付いた枝が見えるだけ。集めたジャンクを繋げて繋げて数台のパソコンと3Dディスプレイテーブルの起動には成功しており、後はあらかじめ用意しておいた地形図と海図をインストールすればここは戦闘指揮所として機能する。が、ズンと下から持ち上げられたかの如き振動を受け建物自体が斜めに傾いたのを見てアリシアは既に脱出を検討しており、シャッターの破口から現れたアルビレオの首にひとまずノートパソコン1台と使えそうな道具を詰めた袋をくくり付け、次に大型通信機を使って大内裏との情報交換を試みる。


『あー…こちら大内裏。最低限の目的は達した、東洋軍はもう敵じゃない。しかし……すまん、これは止められない。今は指揮体制の立て直しと民間人の避難誘導を進めてる、西洋軍の到着までそんなに無いからな、当初の予定も進めないと』


日依の返答はそんな感じだ、背後でバキバキ鳴っているのを聞くに向こうも似たような有様であろう。聞いたアリシアは少し考え、ちらりとスズに目を向ける。


「少しでもいいので制御できませんか?これでは落ち着きません」


『であればまずババアを捜す必要がある、スズかニニギが気配を察知してないか?』


「だそうですが」


「下」


「地表ですか?」


『いや、もっと下かな』


「……日依、地下にいるそうです」


言った途端、まず反応したのはアルビレオである。2歩前進して姿勢を下げ、スズが乗りやすいように。


「すぐ向かう、現地で合流しよ」


アリシアの脇からトークボタンを押し、彼女はすぐアルビレオへしがみ付いた。アリシアも乗せようと手招きしたが、「ここにいます、崩落する前に制御を奪ってください」と言って予定通りの作業、この戦闘指揮所と大内裏、東洋軍海軍と、第6艦隊の連携を試みる。


「ごめん、後任せた!」


「任されました」


破口から飛び出していくアルビレオを見届けて、アリシアは通信機周波数を変更、もうひとつの問題対処へ。


「アリシアから戦艦長門、応答願います。亜月、聞こえますか」

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